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第22話 座学、魔法系統



 夕食後。始めての座学をリビングルームにて行う事となった。

 グレンの正面にライムが座り、その隣にアリティアが陣取る。


 ライムは真面目な顔つきをしていたが、ポーカーフェイスを維持することに必死になり、グレンは呆れた視線を弟子となったライムへとむけ、隣のアリティアは自慢気な様子でライムを鑑賞していた。


 村長の挨拶の後、家に返って来た後、夕食までライムは不機嫌になっていたアリティアのおもちゃになっていた。

 一人で留守番をすることになり、すぐにライムと遊べなかった事に相当にご不満だったようだ。


 グレンは早々に孫の相手を弟子へと押し付け、ライムは不機嫌な彼女をなだめる為の生け贄となった。


 その結果がこれだ。


 彼女のリクエストに応えて、その髪の色を変化させていた。髪の色だけでは無く、長さも変化できると知った彼女の要求はエスカレートした。

 自由自在な髪の長さと髪の色という最高の素材を相手に、アリティアはその製作者としての情熱を注ぎ込んだ。


 アリティアというと、リクエスト通り、色とりどりの髪色になったライムの髪をいじくり、いくつもの編み込みを作る事に夢中になっていた。


 その結果が、前衛芸術の様な髪の編み込みだ。

 ライムの頭はカラフルな髪色と相まって、前衛芸術のように成り果てていた。


 解く事に苦労しそうな編み込みだが、ライムの髪はスライムとしての肉体が変化した擬態の一部だ。

 いくら前衛的な髪型に編み込もうが、元に戻すのならば一瞬で戻せる。そのために、アリティアの好きにさせていた。


 夕食の前にグレンからの元に戻しななさいという言葉は、黒髪に戻しちゃダメだと強硬に主張する孫娘によって否決された。

 ライムはと言うと「今日一日、その格好でいないと怒るからね」というアリティアの釘刺しにより、黒髪に戻す事は夕食前からすでに諦めていた。


 ライムの派手な頭に、グレンは呆れた視線を向けるが、孫の鋭い視線によって、何を言っても無駄だと諦めた。

 首を振りつつため息をついて、グレンは何もなかった事にして座学を始めることにした。


「さて、座学を始めることにしよう。

 その前にライムよ。おぬしは魔法に関して、どれほどの知識がある?」


 グレンの漠然としすぎる質問にライムは戸惑いつつもこたえる。


「えっと、魔法っていうのは魔力を扱って不思議な事を起こしたり、知らない事を知ったり、ですか?

 あ、そうだ。私は物理魔法が使えますよ。」

「なに? 物理魔法が使える?」

「ええ、氷結と振動です。特に振動についてはよく分かってないんですけど……」

「そう言えばまだおぬしの所持スキルを聞いてはいなかったな」

「え? スキルってあまり頼りにならないんじゃ? アリティアがそう言ってましたけど」

「たしかに自己申請になるから、正確とは言えないから頼りにならない。しかし、持っているならばある程度はその者の実力の判断材料になる」


 なるほど、まるで取得した資格のようだ。スキルは無くともその技能を持った者は居るが、スキルを持っている者はその技能を最低限持っているという保証にはなる。しかし、他者に証明できない以上、参考以上にはならないとの事だった。


 ライムの持っているスキルを全て見せろとのグレンの要求に、ライムは正直に全てのスキルを伝える。

 スキルの量は、擬態(人)のスキルを手に入れてから変化はない。

 

 スキルを告げられたグレンはメモに書き留めながら、スキルに関しての注意事項をライムに告げる。


「しかし、スキルの有無は気にしないようすることじゃ。そこに拘れば本当の意味での実力は測れなくなる。スキルの有無に拘って破滅したという話も結構聞くしの。

 スキルというのは、あくまでも参考に留めるべきものだ」


 グレンは完成したライムのスキル一覧を眺めて一つ頷く。


「うむ、魔力操作基礎があるか。それなら、一番始めのハードルは越えているということだな。

 ライム、魔法に関する知識は無いという事でいいんだな?」

「はい。私は師匠がした話以外で魔法についての知識は無いですね。

 物理魔法の方も使えはしますが、それだけで詳しい事はよくわからないです」

「ならばまず始めは魔法がどのようなものがあるか、系統についてから講義を始めようかの。


 魔法とは全て魔力を元にして術者の望む現象を引き起こすことだ。しかし、単純に魔力を元にすると言ってもその手法は大きくいくつかに分類できる。

 それを系統魔法という呼び方をする。

 系統魔法は大きく八つに分けることができる。

 アリティア」

「え? なに?」


 ライムの隣で本を読んでいたアリティアが顔をあげる。


「復習じゃ。アリティア、系統魔法について八つ全てを挙げてみなさい」

 突然の問題にアリティアは戸惑いつつも指折り数えながら答えていく。

「えっと、四大、五行、陰陽、神聖、精霊、物理に精神、えっとあと一つは……、あ、そうだ個別だ。これで全部で八つになる」

「よろしい。よく覚えていたね」


 グレンは満足気に孫を褒める。アリティアはというと嬉しそうにはにかむ。


「この八つの魔法系統は習得方法によって、3つに分ける事ができる。


 学問系の、四大魔法、五行魔法、陰陽魔法。

 信仰もしくは親和系と呼ばれる、神聖魔法と精霊魔法。

 才能系の、物理魔法、精神魔法、個別魔法。


 となる。

 わしがライムに教えるのは学問系の三系統の魔法になる。


 四大魔法で初歩を身につけ、五行魔法をかじって、陰陽魔法を深く学ぶ。

 わしの専門は陰陽魔法でな。四大魔法の方はともかく、五行魔法の方はあまり詳しくないので、深くは教えることはできない。


 それと少しだけなら、精霊魔法の手ほどきをしてやれる。

 良いな?」


「いや、あの……良いな? と言われても……。

 それぞれがどんな魔法かって事が分からないので、なんとも言いようがないんですが……」


 そうライムは注文をつける。


「そうだの。ならそれぞれの魔法系統について軽く説明をするか。


 まずは四大魔法。これは一般に魔法と言うと大体はこれを指す。

 名前の通り四大、つまり地水火風の四つの属性を扱う魔法だ。

 分かりやすく扱いやすい魔法系統で、魔力操作の初歩ができていれば、すぐに魔法を発動させることできる魔法道具が多く出回っている。

 とっつきやすい魔法系統だが、魔法の事を深く学ぶ為にはあまり向いているとは言いがたい魔法系統だ。


 次に五行魔法。遠い地で発達した魔法系統のため、この国からはあまり広まってはいない。

 五行という、木火土金水の五つの属性を扱う魔法だ。

 四大魔法とあまり変わらないだろうと思うだろうが、それは違う。

 四大魔法は属性その物を直接扱う事を重要視し、五行魔法は属性の持つ概念や属性同士の関係性を重要視した魔法だ。複雑で奥の深い魔法系統だ。だがその分、習得には難度が高い。


 そして次にわしの専門でもある陰陽魔法。

 正直に言うとこの魔法は難しい。魔力を陰と陽という二つに属性に分けて扱う魔法なのだがな。一言に陰と陽と言っても、その属性の中には、世界を構成するありとあらゆる存在が入り混じっている。

 陰陽魔法とは世界の構成要素を分割し、操作をする魔法系統だ。

 だが、ライムには必ず覚えてもらう魔法系統でもある」


「どういう事ですか?」


 ライムは質問する。


「学問系の中では陰陽魔法だけが、魂に関する魔法を有している。

 いや、この言い方は正確ではないな。正しくは四大と五行も魂を傷つける魔法は存在している。しかし、魂を傷つける事無く干渉する魔法は陰陽魔法にしかない」


「わかりました。頑張ります」


 難しいと言われても、はじめから人となるには困難な道だという事はわかりきっていた。明確な道筋を指し示されてライムは気が引き締まる思いをした。


「学問系の魔法はその三つじゃが、ついでに他の魔法系統についても説明しておこう。


 神聖魔法はその名の通り、神の力を借りる魔法だ。

 特定の神を信仰し続け、やがて神の声を聞けるようになった者だけが使うことのできる魔法だ。

 神の神威を体現する魔法なだけあって、強力な魔法だが、使い手の数はとても少ない。

 その魔法の内容は、信仰する神の権能を表すようなものが多い。


 次に精霊魔法。これは精霊と契約を交わし、精霊に魔力を渡す代わりに精霊に望む現象を起こしてもらうという魔法系統だ。

 本来ならば精霊を見る事ができ、なおかつ精霊と契約を交わせる者だけが使うことのできる希少な魔法系統だったのだがな。

 今では、宝石に閉じ込めた精霊に魔力を渡せば、決まった現象を引き起こすことができる、お手軽な代物になってしまっている。


 望むのならば手ほどきをするというのは、このお手軽な方の事だ。流石に誓約云々はわしの手に余る。


 この二つの魔法系統が、信仰もしくは親和系と呼ばれるのは他者の存在が必要となるからだ。


 続いて、才能系と呼ばれている物理、精神、個別の三つだ。

 これらは最も原始的な魔法だとも言われている。


 才能系の魔法系統の特徴は、その才能が無ければ決して使えないという事だ。


 だが逆に言えば、才能さえあれば赤子であろうとモンスターであろうと、どんな存在でも使う事ができる。

 魔法に理解が無い集落で、才能系の魔法を発現してしまった幼子が、悪魔の子として迫害される事も珍しいことではない。

 

 物理魔法については、ライムは使えるのだから大体の所は分かっていると思うが、特定の現象を引き起こすことに特化した魔法系統だと言える。

 凍結なら凍結に関係する事しかできない。

 単純だが、それ故に強力。しかし、逆に言えば柔軟性の無い魔法系統だ。


 続いて精神魔法だ。

 精神魔法は物理魔法と同様に、特定の現象を引き起こすことに特化した魔法系統だ。


 しかし、精神魔法は物理的な作用を引き起こすことは一切無い。

 精神魔法は対象の特定の感情を操ることのできる魔法系統だ。

 例えば悲しみならば、どんなに楽しく思っている者でも一瞬で自殺を考える悲しみをもたらす事ができる」


「え……。それ、危なくないですか?」

「ああ、危ない。非常に危険な為、精神魔法の使い手は国に登録が義務付けられているし、不用意に使えばそのまま死刑になるほどだ。

 悪魔の子として迫害されるのは精神魔法の使い手が多い。

 精神魔法は物理魔法の一部だと主張する学者もいる。物理魔法の使い手は精神魔法と同一視されれば危険視されるとしてその意見に反対する者が多い。


 その結果として二つの魔法系統は別の魔法系統に別れている。

 ライムも気をつけておくようにな。物理魔法の使い手はやっかみからなにやらで、尊敬よりも厄介事を引き寄せることが多い」


「わかりました、気をつけます」


 タダでさえスライムという事で人間社会では生きにくいというのに、物理魔法に関係した柵も存在するのかと、途方に暮れる。

 そんなライムにグレンは苦笑する。


「まあ、物理魔法を持っていても隠している者も多い。それほど気にすることではない。


 そして、最後の個別魔法だ。

 個別魔法は少々特殊でな、覚えようとすればほぼすべての人間が覚える事ができるとされている」


「才能に左右されるのに、ほぼすべての覚える事ができるんですか?」

「才能に左右されるのは効果の内容の方だ。


 と言ってもどのような効果になるは、ほとんど運に近いものがある。


 個別魔法は別名として、迷宮魔法とも呼ばれている。

 迷宮――つまりダンジョンに長時間滞在し、本人が心の底から必要だと、強い感情と共に思った時、個別魔法は習得できる。


 具体的には魔力がその効果に相応しい形に物質化し、様々な特殊な力を発揮するようになる。

 ただしそれは、一人に一つだけであり、全く同じ形、同じ効果をもったモノは習得できないとされている。

 故に個別魔法と言われ、迷宮で習得することが多い事から迷宮魔法とも呼ばれている」


「多いって事は、迷宮以外で発現することもあるんですか?」

「割合は小さいがあるな。だがそれらは狙って習得したのではなく偶然習得したのがほとんどだ。

 迷宮以外では狙って習得することなどできない。だからこそ個別魔法は才能系の魔法系統に分類されている」


 そこまで言ってグレンはカップを傾け口を潤す。


「さて、魔法系統についての説明は大体この程度だが、何か質問はあるかの?」

「師匠はその中の魔法のうち、どれくらい使えるんですか?」

「学問系の三つと精霊魔法だけだな。敬虔な信者というわけではないから神聖魔法は使えんし、才能系も使えん。

 個別魔法も若い頃は覚えようと考えた事もあったが、覚えたところで大して役にも立たないだろうという事で覚える事は無かった」


「え? なんで? おじいちゃんは色んな魔法が使えるようになるのが面白かったから、魔法使いになったとか言ってなかったっけ?」


 疑問の声を上げたのはアリティアだ。


「そうなんだが……。

 個別魔法がどういう効果を発揮するかを調べたら、大抵のものは学問系の魔法で代用可能だったのでな。

 迷宮で苦労して一種類しか覚えられないより、他の系統で複数の魔法を学んだ方が良いと言う事で迷宮までは行かなかった。

 迷宮の存在する街までは距離もあったし、わしには意味の無い効果ばかりだったからの」


「どういう事です?」

「ああ、個別魔法を発現させるにはダンジョン内に長期滞在し、強い感情を必要とする。

 ダンジョンの中で強い感情を発露させるのは、ほぼ全てがダンジョン内に発生するモンスターとの戦闘中だ。


 結果として、個別魔法は戦闘に必要な効果を持った武具の形を取ることが多い。

 ワシは戦闘に必要な効果など求めていなかったらの。

 それに望む効果を持った魔法を発現させる事ができる者は数が少ないともあった。

 そこまで知ってしまっては、魅力的に感じられなくとも無理はなかろう?」


 困った様に告げるグレンにライムとアリティアは頷くしか無かった。



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