第21話 村長への挨拶
ライムに部屋があたえられる事になって、部屋の案内に立候補したのはアリティアだった。
しかし、彼女は足を怪我して歩けない。
その問題の解決方法としてアリティアは選んだのは、案内させられる方のライムを移動の足とする事だった。
「わたしが部屋に案内するから、ライムはわたしを運んでいってね?」
あっけらかんと要求したアリティアに、グレンはたしなめる。
「あまりライムに迷惑をかけるでない」
「えー、良いじゃない。わたし、歩けないんだから仕方ないでしょ」
アリティアの口答えに、グレンはため息をつく。そしてライムの方に注意をする。
「あまり甘やかさんでくれよ。嫌なら嫌とはっきり言ってしまっていいのだからな?」
「別にイヤじゃないから大丈夫ですよ。アリティアは軽いし大した労力じゃありません」
ライムは苦笑と共に答えた。一番にアリティアを甘やかしているのは、強く言って行動を止めようとしないグレンだと思ったからだ。
結局、アリティアはライムが背負う事となった。
ライムにとって自分を頼ってくれることはとても嬉しいことだ。背に感じる少女の体温は一人孤独に森の中に居たとすれば、決して知ることは無かった事だ。
アリティアがライムの部屋へと案内をした。けれどそれは、
「わたしの隣の部屋だよ」
の一言で済んでしまった。
背負って運ぶ必要があったのだろうかとライムは思った。
グレンもアリティアを背負うライムの後ろをついてきているので、ますます案内の意味がない。
その部屋のドアを開けると、ホコリの臭いが中からかすかに感じられた。
暗いその部屋に先に入ったのはグレンだ。窓を開けて光と空気を取り入れる。弱い風が部屋の中に吹き込んだ。
その部屋はがらんどうのようだとライムは思った。小さな書物机にイス、タンスにベッド。空っぽの本棚。人が生活する家具は揃ってはいたが、床とそれらに積もったホコリが長らく、部屋に入った者がいない事を示していた。
「まずは掃除をしなければならないな」
グレンは言って、ライムを見やり、そこで思わすため息をついた。正確にはアリティアを背負うライムを見てため息をついた。
「ライム、アリティアは部屋に戻して来なさい」
「ええ?! 良いじゃないわたしがいても」
「良くはない。おぬしがライムに背負われたままだと、ライムが掃除が出来ないだろう。
それに足の怪我にも障る。自分の部屋で大人しくしておれ」
「うぅ……!」
祖父の正論にアリティアは不満気に唸る。ライムは思わす苦笑する。
「まあ、これからいくらでも時間はあるんだからさ。怪我が治るまでは大人しくしてようよ」
「……わかったわよ。けど、ライム。あとで部屋に来てよね」
「ああ、わかったよ」
ライムは頷いて、アリティアを彼女の部屋のベッドへ横たわらせると、とんぼ返りする。
しかし、グレンの姿が部屋の中にない。
「あれ?」
戸惑っていると部屋の前にグレンが戻ってきた。
「ほれ、弟子として初めて仕事は自分で使う部屋の掃除だ」
と箒とチリトリと渡される。
「壊さなければ部屋にあるものが好きに使ってよい。ああそれと、ぬれ雑巾ももってこなければならんな」
言ってグレンは井戸へと向かい、ライムだけが部屋に残される。
箒とチリトリを手に、ぐるりと部屋の中を見回す。うっすらと積もったホコリのせいで部屋は少し白くなっている。
「よし、やるか」
一言、気合を入れて、ライムは部屋の清掃を始めた。
無心に掃除を続けると、一時間ほどで部屋の中は人の住める環境へと姿を変えた。
ライムの掃除の腕前はそれなりと言えるモノだった。
グレンは最初に水を汲んだ桶と雑巾を用意しただけでそれ以上、手伝うことは無かった。畑仕事がまだ残っているとのことだ。
部屋を掃除していて思った事は、どの家具も丁寧に扱われていたということだ。
アリティアが言っていたことからすると、この部屋の前の主は彼女の父だったようだ。ならば、その彼はどうしてこの部屋の主では無くなったのだろう?
それはきっと――。
……いや、私が立ち入っていい話じゃないとライムはその考えを振り払う。
その資格を得るには自分たちは出会ってから日が浅すぎる。
畑仕事をしていたグレンに掃除が終了した報告をすると、彼は一つ頷くと言った。
「時間もちょうどよいし、村長に挨拶に行かねばならないな」
「村長にですか?」
「ああ、この村で暮らす以上、報告はしなければな。
しかし……」
グレンはライムの姿を上から下まで見やる。
ライムの今の姿は黒髪のアリティアにそっくりの少女だ。
「おぬしがスライムであることはさすがに言えん。
となると、おぬしのような女の子が、わしの元に弟子になりに来た納得できる経緯を、新たに作らないとならない。
どうしたものかと思ってな」
確かにその通りだ。
「身寄りを亡くしたから、他の街からやって来たという事ではダメなんですか?」
「基本はそれでいいだろう。しかし、一番問題なのがおぬしのその姿だ」
「? 黒髪にはしましたよ?」
人ならざる薄い緑の髪色は、黒によって塗りつぶされているはずだ。
グレンは頭を振る。
「今、問題にしているのは、ライムが人ではないとバレることではない。
黒髪だとしても、おぬしがアリティアにそっくりの顔だという事が問題なのだ。
遠くの街からやって来た者がアリティアにそっくりだとしたら、明らかに血縁関係だと思われる」
「? 血縁関係だと思われるのは問題なんですか?」
「もんだ――。いや、問題ではないのか……」
「血縁関係って事にしちゃマズいですか?
私のこの姿は大きく変える事はちょっと無理なので、血縁関係って事で誤魔化せるのなら、それが一番良いのですが」
「どうしてアリティアの姿から大きく変えるのは無理なのだ?
いや。そもそも、何故おぬしはアリティアの姿をしているのだ?」
グレンの疑問にこたえる。
「私のこの姿はアリティアの怪我を応急処置した時に、どうも彼女の血を飲んでしまったらしいんですよ」
「血を飲んだ?」
グレンの鋭くなった視線に、ライムは慌てて手を振る。
「あ、いや、あの。私はその、スライムですから、体に付着したモノは自然と体の中に取り込んじゃったりしてるんですよ。
応急処置の時についた血を自然に取り込んじゃった事を、簡単に飲んだって言っただけで……」
「ああ、そう言うことか……」
視線の鋭さが無くなり、困惑の表情になった事にライムはホッとする。
「それで、私がどうしてアリティアの姿をしているかというと、私の擬態スキルは血、もしくは肉を取り込んだ相手じゃないと無理みたいなんです。
昨日ねぐらに戻ったあとで、師匠の姿にも擬態しようと試してみたんですが、人の姿にもなりませんでした」
「ふむ。そうか、別人の姿になるのは不可能となると、わしの血縁関係者というのが一番妥当ということか……。
まあ、よい。毒を食らわば皿までと言うしの」
私は毒か。まあ、そうだろうなと思い、ライムは心苦しく思った。
「そうなるとライム。おぬしは……そうじゃな、ワシの姉の孫娘ということにしておくか」
「師匠のご兄弟はお姉さんだけですか?」
「いや、兄と妹がいた。まあ、全員亡くなっているがな。
わし以外で子を設けたのは姉のミディだけじゃ。もっとも、その子も子供の時に亡くなっているが。
ライムはその時に亡くなった子供、ラティの娘と言う事にしておこう。
夫の名前はそうじゃな……、カイン、でいいじゃろう」
最後の夫の名前は投げやりな様子で決定された。
「えっと、私のおばあちゃんの名前がミディさんで、師匠のお姉さん。
それで、その方が産んだ娘、ラティさんが私の母。
ラティさんと結婚したカインさんが私の父。
――という事でいいんですよね?」
「うむ、ライムから見るとアリティアはハトコ、ワシは大叔父という事になるな。
ライムは両親を亡くし、唯一の親族であるわしを頼ってこの村にやって来た。という事で良いな?」
「わかりました」
「まあ、他の細かい所はおいおいなんとかしよう。
村長に挨拶している間、あまり喋らないでいいからな?
村長にはわしが対応するから。
ライムは親を亡くしたばかりの子供として、暗い顔で名前だけを告げればよい」
「わかりました。いろいろ迷惑をかけてすいません」
「かまわんさ。弟子のために骨を折るもの師の努めだ」
出かける前に戸締まりと、アリティアに留守を頼まなければな。
家の戸締まりと、アリティアに留守を頼んだ時に彼女は不満気な様子だった。どうやら、すぐにライムと遊べると思っていたらしい。
そんなアリティアとなだめ、グレンとライムの二人は家を出る。
「すぐに戻ってるから安心せい」
「べー!」
グレンのからかうような言葉にアリティアはあっかんべーを行う。そんな孫にその祖父は笑って流して、出てってしまう。
「すぐに戻ってくるからね」
ライムは苦笑とともに手を降って、家を出る。
「村長の家は村の中心あたりにある。ウチは村の端にあるからな、少し歩くぞ」
道なりに歩くグレンの言葉にライムは頷く。
グレンの家は奥まった木々と盛り上がった丘の影に隠れる様に建てられている。その木々と丘の影から出ると、村の全景が見て取れた。
広い。というのが、ライムの印象だった。
一面に麦畑が広がるのどかな村の姿がそこにあった。
広がる大地には青々とした麦が風に揺れている。
麦畑の中にはぽつりぽつりと家が建っているのが見てとれる。
麦畑の先には森の存在がある。周囲をぐるりと森に囲まれているのは、森だった場所を切り拓いた為だろう。切り拓いた土地に造られた村だとよく分かる。
少し視線を動かすと、大きめの建物が数戸集まっているのが見えた。麦畑を通る道の先につながっている。
あそこが村の中心部のようだ。
その向こうに、川が流れているのが見て取れる。
広いと思ったのは勘違いかもしれないと思い直す。木々に囲まれて、隠れ家のようなグレンの家に比べたから、この村の風景が広いと感じたのだ。
実際には森に囲まれたこぢんまりとした村にすぎないだろう。
麦畑の中を通る小径を歩く。
初夏の青々とした麦穂が風に揺れている。
ライムはキョロキョロと辺りを見回しながら歩く。一面の麦畑が広がる風景は珍しいという感想を懐く。
今までに見た風景はひたすらに森の中と、梢の上から見た樹海の遠景だ。それ以外には、地球での日本の風景ばかりだ。
このような、麦畑の中を歩くなど、定かではない記憶の中にはない。
「あまりキョロキョロするでない。ライム。今のおぬしは親を亡くして打ちひしがれた哀れな少女なのじゃぞ?」
「あ、そっか。気をつけます」
イカンイカン、物珍しい風景に浮かれている場合ではない。
キョロキョロと首を動かして見るのをやめて、うつむきがちな姿勢に変える。ついでに歩き方も元気の無い様子を心がける。
ただし、ライムの意識は村の風景の方に向かっていた。ライムの全身は目の代わりになるのだ。わざわざ首を動かさずとも周囲を見回すことなど容易いことだ。
「この村の成り立ちは知っておるか?」
「ええ、アリティアから聞きました。
木こりギルドが先に森を切り拓いて、その土地が豊かだったから村にしたって」
「まあ、それも間違いではないんだがな。
実際の所は木こりギルドによって森が切り拓かれると、その中から家族を呼び寄せて空き地に家を構える者が出てきての。
領主様からしてみれば面白くない事だな。
村でも街でもない森の中に住まわれると、税の取りっぱぐれが発生する。
それで、村という体裁を整える事にしたらしい。
ついでに、拓いた土地で麦を育てろということで、木こりギルドとは関係の無い者もこの村に移住するようになった。土地が肥えているとわかったのはその後の話だ。
領主様はこの村が木こりギルドだけの影響下にあるのは面白くないから、というがもっぱらのうわさじゃな」
「それって木こりギルド関係の人と、そうじゃない人との間で問題とか無かったんですか?」
「さて? 当初は諍いもあったようだがな。二十年も前の話だ。今はなんの問題もない。
それに今でも村は少しずつ広かっているのだ。年に一家族は新たに村にやって来る。問題なんて起こしたりできんさ。
わしがこの村にやって来た時も問題なんて無かったからな」
「ん? 師匠はこの村が出来た時には、この村に居たんでは無いんですか?」
「違うな。わしはこの村では新顔じゃ。この村に来てから五年程度じゃからな。
村で生まれたアリティアの方が古顔になる」
グレンの言葉にライムは意外な気がした。
「そう、なんですか? 師匠はこの村では顔役みたいな人だと思っていたんですけど」
「まあ、魔法使いはわしだけだしの。そういった面も無いわけではない。
だが、わしは新参者だからの、村の運営に関する影響力という点では大したことはない。
だからライムよ、正体がバレるような事があったら、わしはかばいきれんからな」
「わかりました気をつけます」
ライムが気を引き締めていると、そろそろ家が建ち並ぶ場所にさしかかり始めていた。
人影が幾つかあった。
「この辺りから村の中心部になるな。雑貨屋、パン屋、酒場に宿屋、教会、大抵の村の施設はここに集中している」
道行く人も数人おり、グレンと挨拶を交わす。そんな彼ら彼女らは皆が不思議そうな顔でライムを見やった。
アリティアが髪を黒く染めたと思っているのだろう。幸いなことにその事が話題になる前にグレンは「すまないが、村長の所へ少し急いでいるのではな」とあしらう。不思議そうな顔をしても追求してくる者はいなかった。
やがて、回りの建物より二回りほど大きな建物の前にやって来た。
扉の横にはベッドの絵が描かれた看板が掲げられている。
「宿屋? ですか?」
「ああ、そうだ。村長は宿屋の店主なのでな」
言ってグレンは扉を開ける。
ドアベルの音色と共に二人は宿の中に入る。
入り口のすぐ隣にはカウンターがあり、それ以外はそこそこに広い食堂となっていた。食堂に人影は無い。
「いらっしゃいませ」
とカウンターの奥のドアから人が出てくる。
柔和な顔立ちをした初老の男性だ。彼はグレンの姿を見て意外そうな顔をした。
「おや? グレン様。どうしたのです?」
「やあ、村長。今日は村長に紹介する者が居るので連れて来た。ほれ、挨拶しなさい」
グレンはライムを促す。ライムは言われていた通り、暗い印象を与える様に意識しながら頭を下げる。
「はじめまして……。ライムと言います。よろしくお願いします……」
ポソポソと小さな声で挨拶をする。
村長は困惑の表情を浮かべる。
「えっと? アリティアちゃん、じゃないのかい?」
「この子はアリティアじゃない」
グレンはハッキリと否定する。
「アリティアとはハトコの関係にあたる子だ。
この子の親が亡くなっての。唯一の親類であるわしの所へ来たのだ。
これからわしの家で暮らすことになるから村長であるおぬしにあいさつをと思ってな」
「はあ、なるほど……。
けど、本当にアリティアちゃんじゃ無いのですか? 髪の色以外はそっくりなのですが……」
村長は疑惑の視線をライムに向ける。そんな様子にグレンは苦笑する。
「アリティアと一緒に連れてくればよかったんだがな。アリティアは昨日、足を怪我したので家で大人しくさせているのだ。
まあ、すぐに治る怪我のだが、治ったら二人一緒にいる所も見るだろう。そうなればすぐに別人だと分かる」
「はあ、そう、ですか……。わかりました。村民台帳に載せておきましょう。
しかし、一人でこの村まで来たのですか? 道はあるとはいえ、隣の街まではかなり離れているのですが……」
村長の疑問にライムは表面上には平静を保っていたが、内心では焦った。この年ごろの子供が単独で街から村へ移動することは自殺行為だということを、今更ながらに気がついたからだ。
けれどライムとは違い、グレンは落ち着いて対応する。彼は大きくため息を付きながら大きくうなずいた。
「全くじゃ。たった一人で、歩き詰めでわしの家までやって来るのだからの。
わしの家にたどり着いた時には、行き倒れの様な有様だった。
まあ、無茶をする子供よ。森の道を歩いている時に獣に襲われなかったのを見ると、凄まじいほどの幸運の持ち主なのだろうがな」
「ほおー。それはまた無茶をする」
あきれたような、心配をするような視線をむけられ、ライムは居心地が悪く感じた。
自然と視線をそらす。それを人見知りの仕草と見て取ったのか、村長はライムから視線を外した。
「まあそんなわけで。村の一員として受け入れて欲しいと思って、挨拶にな。
ああそれと、ライムは魔法を知りたいと言っているのでな、わしの弟子として魔法を教える事にした。
ライムが変な事をしていても、それは魔法の一種じゃからあまり気にせんでくれと、村の者に伝えてくれると助かる」
「魔法の弟子ですか? グレン様の魔法の弟子はアリティアちゃんだと思っていたのですが……」
「確かにアリティアに魔法は教えてはいるが、弟子という訳ではないな。
アリティアはあまり魔法が好きではないようでな、あまり熱心に覚えようとはしてくれんのだ。
そんな様子じゃから、アリティアがわしの魔法を継承してくれるかどうかわからん。
ライムが才能があるかどうかはまだわからんが、少なくとも意欲はある。
それにライムと一緒に学ぶのなら、アリティアも多少は奮起して、魔法を学んでくれるかもしれん」
「なるほど、ライバルとして切磋琢磨させようという事ですか」
「ライバルと言うよりも、友達と言った方が正しいだろうな」
「友達……、そうですか、アリティアちゃんの友達ですか……」
「うむ……」
妙にしんみりとした空気にライムは戸惑う。
と、そんな空気を変えるように、努めて明るく装ったように、グレンは言う。
「まあ、そういうことじゃ。今日はそれだけの用だったのだが。
村長。何かわしに用は無いのか? 無いならもう帰るのだが」
「ああ、そうですね。
ギルドの方では、そろそろ獣避けが無くなりそうだと言ってましたね。
それと雑貨屋の方で、夏に向けて虫よけの在庫を補充しないといけないとも」
「ふむ。そうか、直接わしに言って来てこないのなら、まだ余裕はあるようが……。
まあ良いか。一応作っておくと、伝えておいてくれ。
ではな、村長。ライム、帰るぞ」
「ええ、ではまた。グレン様、何かありましたら、気軽にご相談くださいね。
ライムちゃんも、困ったことがあったらいつでも相談に乗るからね」
優しげに微笑みながら手を振る村長に、ライムは一度会釈をしてから、グレンを追って宿を出た。
村の中の道をグレンの後を歩く。来た道を戻っているので、そのまま家に帰るのだろう。
帰りは誰にも声をかけられる事は無かった。中心部を離れるまで二人は無言でいたが、周囲に人影が無くなった頃に、ライムは村長とグレンが話していた時の疑問を口にした。
「師匠、どうして村長は師匠の事を様付けで呼んでいるんですか? 年齢もそう違わないようにみえましたけど」
「ああ、そのことか。魔法使いというのは一般的に尊敬するべき存在とされているからだろうな」
魔法使いでなければできぬことと行い。魔法使いでなければ知ることのできない事を知る。
そしてその恩恵を僅かばかりでも得る為に敬意を払う」
「それで村長は敬語で話していたんですね」
「まあ、魔法使いであるということで敬意を持って接してくるのは平民だけだ。
貴族ともなれば、少し毛色の違う平民としか見られない。こちらの方が敬意を払わねばならない相手だ。
それに敬意を持って接せられる、と言えば良い事のように聞こえるがな、実際の所はそうでもない。
魔法には関係の無い者から見た場合、魔法使いというのは怪しげな行動の結果、あり得ない現象を引き起こす恐ろしい存在だ。
敬意を払って接してくる者でも、そういった印象を多かれ少なかれ抱いているだろう。
魔法使いに対する敬意というのはな、魔法使いに対する怖れの裏返しなのだ。
ライムも魔法使いとなるのだから、その事を忘れてはならないぞ?」
魔法使いというのは、敬われるのと同時に遠ざけられる存在なのだからな。
そう、グレンは寂寥感をにじませた。