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第02話 スキル

 目が覚めた。


 目が覚めたら、スライムになっていた事など全てが夢だったという事を期待していたのだが、儚い希望だったらしい。

 思わずため息をつきたくなった。ため息をしようにも、肺も存在せず呼吸も必要なさそうな体なのだが。


 スライムの体は、自然に眠りに付くことが可能なようだ。眠りに落ちる前まで見ていて、もはや見飽きた穴の壁が見える。視界の中に変化が少なければ、まぶたを閉じる事のできなくとも眠りにつけそうだ。


 細くした触手――紐触手とでも名付けよう。これも使い続けていけばもっと細く目立たなくなる確信がある。気持ち悪いことだ。

 その触手を穴から外に突き出して、周囲の状況を確認する。


 どうやら夜のようだ。周囲の光景が闇夜に沈んでいる事以外に、状況が変わっていない。光に左右されない感知能力ゆえに闇を見通すことができる。

 夜になったばかりなのか、夜も更けているのか。寝ていた時間が分からないために正確なところは分からない。

 感覚的なもので確信は無いが、夜になったばかりだろう。


 スライムの体は短時間の睡眠だけで肉体と精神の回復が可能だ。

 そのことが分かる。一度眠りについたことで、睡眠に関する知識をねじ込まれた気がする。


 見知らぬ知識に不快感を覚えながら、周囲の安全を確認し、触手を引っ込める。


 今日は硬質化の能力向上を目指し、大量の土を食べる事を方針として定める。


 早速、穴の底の土を取り込み、溶かす。

 僅かに体が満たされるような感覚とともに、硬質化の能力がほんの僅かに向上している事が理解できた。


 土を取り込み、溶かす。土を取り込み、溶かす。土を取り込み、溶かす。土を取り込み、溶かす。


 何も考えたく無いからこそ一心不乱に続ける。土の味の不味さも感じず、僅かながらも体が満たされる感覚に癒やされたからこそ、続ける事ができた。


 ふと気が付く。

 土を食べる行為は、硬質化の能力向上に関しては効率が悪い。

 硬質化の能力には石か砂を食べないといけないのに、ここの土には砂や小石が少ない。


 それともう一つ気がついた事がある。

 土を食べた分の体積が減っている気がする。

 自分の体は土の中にすっぽりと埋まっている状態で、土を食べ始めた。その状態で土を食べた分は自分の体の体積とて埋めないといけないのに、なぜか採取した土の分の空洞が生まれ始めている。


 おおよそ、食べた土の体積の半分くらいの空洞だ。半分は自分の体に取り込まれたとして、もう半分はどこに行った?


 土に含んでいた空気で、ここまでの空洞は生まれないはずだ。

 あまり重要な事ではない事なので後で考えることにする。


 重要なのは食べた分だけ体が大きくなるという事だ。核の大きさは変わらないが、ゲル状の体は微妙に大きくなっている。土を食べた形跡は透明な体を見ても分からない。

 大きいということは、単純に強いという事だ。その分だけ死から遠ざかる。


 硬質化の能力向上に拘らず、体を大きくさせるために土を食べる事に決める。


 ある程度の大きさになったら、周囲を探索してみよう。砂や石を食べるために川原を見つけられてばいいのだが。


 そんな事を考えながら、土を食べる。穴の壁を崩さないように気をつけないといけないが。

 どんなに食べても、満腹感は感じられないし、これ以上は食べられないという感覚も沸き起こらない。


 それに食べる量に比例してどんどん体が大きくなる。

 ひょっとしてスライムという生き物は危険な生物なのではないか? と思う。


 どんなモノでも、いくらでも食べる事ができる。そして食べた分だけ体が大きくなる。


 そんな生き物は知性ある生命体にとって、真っ先に排除するべき危険生物に他ならないだろう。


 どうにかして、知的生命体のスライムに対する評価を知りたいものだ。


 それに大きくなりすぎると、動きが鈍重になるかもしれない。そうなったら、今度は体を小さくする事も考えないといけなくなる。

 ゲル状の体には痛覚が無いようだから、体の一部を切り捨てる事も視野に入れる必要も出てくるかもしれない。


 それよりも硬質化のように体を小さくできないものか?


 小さくなれと、硬質化の時と同じ様に念じてみると、実際に体が小さくなった。


 大きめのビーチバレーボールほどだったのが、ハンドボールほどの大きさに縮まった。ただし、核の大きさは変わっていない。

 驚いていると、脳裏に文章が浮かぶ。


 ・小型化体の大きさを任意の大きさに小さくする。ただし、圧縮されているだけで重さは変わらない。

 

 こんな行動一つで新たな能力を手に入れることができるなど呆れるしかない。


 それにしても微妙に使いにくい能力だ。重さが変わらないなら鈍重であることに代わりがない。体の大きさに見合った重さになれば良いのに。


 そう考え、一度、次は『軽くなれ!』と念じてみる。

 

 ・体重適正化小型化の使用中のみに使用可。体重を外見に相応しい値にまで軽量化する。


 こんなんでいいのか? ひょっとして、この世界の全てがこんな調子で新しい能力を手に入れられるのだろうか?


 気持ち悪さと不快感に辟易しながらも、先程よりも使い勝手が良くなった事も確かだと無理やり納得させる。

 これでいくら体が大きくなっても問題が無くなったのだから。


 小型化と体重適正化の能力を解いて食事に戻る。


 そういえば、ひたすら食べているが、コレも何かの能力なのだろうか? スライムとしての知識に、こんな大量の土を食う事ができるとは存在していない。


 今の異常とも言える食事量は、別の能力の影響ではないかと考えた。

 そして能力によるならば、その能力も確認できるはずだ。一度覚えた能力は、思い返せば再び脳裏に浮かぶ文章として読み返すことができたからだ。


 今現在自分が持っている全ての能力は? と自分のスライムの肉体に命じるように念じる。

 すると、グニャリと意識が歪む。気絶しそうな一瞬の感覚の後に、大量の文章が脳裏に浮かんだ。


 ・肉体操作スライムの肉体の基本的な動きが可能。

 ・悪食ありとあらゆるものを食べることができる。

 ・暴食食事量の限界が無くなる。また食事量の多さによる弊害を受けない。

 ・肉体成長食べた量に比例して体が大きくなる。

 ・急速消化消化速度を速める。

 ・毒物耐性毒物の影響を受けない。

 ・擬態(色)周囲の色もしくは任意の色に体色を変化させる。

 ・触手生成触手を作れる。

 ・細身化体や触手を限界まで細くできる。ただし、核には適用されない。

 ・能力取得行動により、スキルを取得。

 ・捕食収奪食べた相手の記憶を奪い、相手のスキルを低確率で収奪する。

 ・発声声を出す事ができる。

 ・硬質化(岩石)自分の体を岩石のように硬くできる。

 ・小型化体の大きさを任意の大きさに小さくする。ただし、圧縮されているだけで重さは変わらない。

 ・体重適正化小型化の使用中のみに使用可。体重を外見に相応しい値にまで軽量化する。

 ・能力確認スキルの確認が可能。


 ずいぶんと多い。始めの感想はそれだ。個々の能力、いやスキルと言うべきだろう。

 それぞれのスキルについて確認していく。


 肉体操作が無かったら場合、這いずる事もできなかったかもしれないと、ゾッとする。


 悪食と暴食、急速消化のスキルが、いくら食べても問題がないようにしてくれているスキルだろう。


 肉体成長のスキルが先ほどの疑問の答えだろう。このスキルが無いスライムがどれほどの成長速度を持っているのかはわからない。スライムとしての体を知ろうとするならば、今後の課題になるだろう。


 毒物耐性は確認できてよかった。スライムもある程度の毒への耐性を持つが、スキルの方が強力だろう。これからは毒を気にしないで済む。


 擬態(色)は外敵から見つかりにくくなるだろう。

 一度試してみる。カメレオンのように周囲の環境に溶け込むようにと意識しながら、体表面の色を変えるように念じる。


 体の色は一瞬で変わった。

 土の中に居るためだろう。ゲル状の体は透明で薄い緑色から、土そっくりな不透明なこげ茶に変わる。

 体が透明だからこそ、全身が目の水晶体の変わりをしているのだと思っていたが、そうではないようだ。体表面の色を変えても、問題なく周囲を見渡せる。


 触手生成はそのまま。細身化は面白いと思う。狭い穴の中なので小型化を先に使ってから試す。


 先ずは全身で細身化を使わずに体を伸ばしていく。すると、ある程度で限界を感じた。まだ細いというより、球体のほうが近い形だ。

 

 そこから細身化のスキルを使う。変化は劇的だった。

 感じていた限界をあっさりと超えて、まるで蛇のよう細長い形状に変化した。


 穴の中は狭いのでとぐろをまいているせいで、余計に蛇のように感じる。核のある部分は無理のようだが、他の部分は更に細くなる事ができる。


 これは使えると確信する。

 核の部分だけを安全な場所に隠し、細く伸ばした全身の大部分で探索すれば、広範囲を致命的な危険を冒すこと無く確認ができる。


 それに蛇のように狭い場所の移動や、木登りも容易になるだろう。

 細身化を解くと、とぐろを巻いていた体が一瞬で元の球体に戻った。


 能力取得スキルは小型化などを手に入れた時のスキルだろう。スキルを得るためのスキルはもう一つ存在している。捕食収奪スキルだ。


 捕食収奪スキルはずいぶんと危険なスキルだと思う。

 食べる相手が知的生命でないと駄目なのか、それとも動物などの知性が低い相手からも可能なのか、果ては生き物以外でも可能なのかが不明だ。

 相手の能力を得るという事は、硬質化スキルは土を食らった事で、このスキルから得られたという事だろうか?


 発声スキルは、今の自分は声を出せたのか? 軽い驚きを覚えた。


「そう言えば、スライムになった直後も声を出してたな」


 意識して独り言を呟く。

 男とも女とも取れない中性的な声だ。この声が人間だった頃の声かと聞かれたら、違うと答えるしかない。それほど、自分に馴染んでいる気がしない。


 能力確認スキルがこの脳裏に浮かぶ文章のことだろう。それぞれの項目がそれぞれのスキルということになっているのだろう。そもそもスキルとは何か? そう疑問を提示するが、答えは帰ってこない。


 硬質化(岩石)、小型化、体重適正化でスキルは全てのようだ。


「……周囲の探索をしてみるか」


 今までは弱点である核が、薄い緑色の透明なゲル状の体のどこに存在しているかは一目瞭然だった。

 そんな無防備な状態では、危険があるかも知れない場所を移動する気にはなれない。

 だが擬態(色)スキルによって、弱点である核を隠すことが可能だ。

 それに硬質化(岩石)スキルで核の周りだけ常に頑丈にする事もできる。


 触手スキルと細身化スキルを駆使すれば、スライムのボールのような体では移動する事のできない場所でも、楽な移動が可能になる。


 身を守る手段と移動手段は既にある。

 後は攻撃手段をひねり出せば、もっと安心して探索が可能になるだろう。


 無い頭をひねり、一つ思いつく。


 例えばこういう攻撃手段はどうだろうか?

 小型化スキルと体重適正化スキルを使った状態で相手に飛び掛り、ぶつかる前に二つを解除し、全身に硬質化スキルを使う。そうすれば巨大な岩石がぶつかるのと同等の攻撃にはなる。

 だが、所詮は体当たりだ。強力な攻撃だとは思うが、敵にあまり近付きたくはない。


 少し考え、小型化したことで相対的に広くなった穴の片隅に移動する。


 反対側の穴の壁に先端を尖らせ硬質化した触手を打ち出す。

 鈍い音を立て、触手の先端が土に埋まる。そっとそれを抜いて、壁に開いた穴を見る。直径1センチほどの穴だか深さは10センチほどだ。

 触手の生成と先端の硬質化を打ち出すのと同時に行った。奇襲にも使えそうだ。


 ・触手刺突生成と同時に触手の先端を硬質化して突き刺す。


 スキルにもなったようだ。


「攻撃手段はこれでいいか」


 あまり高望みをし過ぎてもきりがない。

 小型化を解いて紐触手を穴から外に出す。まだ夜は明けてはいない。また周囲に生き物の気配はない。


 近くの木に向かって触手をのばす。既に細身化スキルを全身にも使っているから、それはすでに触手ではなく、一本のひも状になった全身の一部だ。

 体を伸ばし、蔓植物のように樹の表面に巻きつきながら上を目指す。体の色は樹皮に擬態して目立たなくしている。


 ある程度の高さに上ると、体の体積の関係から、これ以上は体を伸ばせなくなる。

 そこでようやく核を移動させる。当然のように核の周りは硬質化を施し、頑丈にする。

 擬態している為に見た目では核の位置は分からない。


 だが安全であったであろう穴の中から脱出し、この世界を進みはじめた。



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