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第16話 人の姿の朝



 目がさめるとねぐらの中だった。

 姿はアリティアの姿のままだ。


「……あれ? 擬態が解けてない……」


 寝ている間にスキルは解除されると思っていたが、そんなことは無かったようだ。


 今すぐ解除されるという感覚も無い。

 ひょっとして長時間、使用しても問題ないスキルなのだろうか? 考えてみれば、長時間、使い続けるスキルなんてあっただろうか?

 

 あ。いや、あった。

 体重適正化のスキルは解除した覚えがない。


 スキルの確認をしてみると、文章の変化があった。


・体重適正化小型化と他の生物への擬態中に使用可。体重を外見に相応しい値にまで軽量化する。

 

 確か『小型化の使用中のみに使用可』だったはずだ。


 スキルの亊に関して考えてみて、そう言えば擬態(人)スキルはどうして、アリティアの姿にしかなれないのだろうと思う

 人の姿を取ろうとはしていたが、アリティアそっくりにしかなれないほどの専門的な擬態では無かったはずだ。


 このスキルを手に入れた時はたしか……。


 ああ、そうだ。アリティアの怪我の治療をしている時に、スキルが増えている亊に気がついたのだ。あっと、思い至った。


 アリティアの治療の際に汚れをぬぐい取った時に、彼女の血にも触れている。

 

 スライムの体は付着した細かな汚れ程度ならば、こちらが意図せずとも、消化吸収してしまう。彼女の血を取り込んだ事によって、擬態(人)のスキルは生まれたのか。


 それならば、アリティアの姿しか取れないことにも説明がつく。

 同じ時に手に入れた会話のスキルも、アリティア由来のスキルなのだろう。


 そう言えば、スキルとは一体なんなのだろうと思う。

 

 昨日のグレンの話しによると、ライムが己の肉体を人間のものにするために必要なのは、神の奇跡か魔法の技術を手に入れるとしかないという事だった。


 しかしライムにとって、神の奇跡も魔法の技術もスキルの力も、不可思議な力と言う点で同じようなモノに思える。


 昨日、グレンと話した際にはスキルについての言及が無かったのは何故だろう?


 首を傾げるが、その理由が思い当たらない。


 わかるのは、自分はまだまだこの世界について無知だという事だ。

 まあ、当然だろう。この世界で会話したことのある人がまだ二人しか居らず、しかもごくごく短い時間でしかないのだから。この程度で世界についておおよそは知ったなどといえるのならば、自分はどれほど傲慢だという話だ。


 考えてもわからないことは人に聞くしかない。

 グレンに質問することの一つとして心のメモに記しておく。


「さて、今日はどうするかな?」


 狩りに出かけようか、それとも何よりもまずアリティアに会いに行こうかと思案する


 出入り口の小さな穴からは光が見えるから、日は登っているだろう。ライムは穴に手を突っ込み、その手を触手として変化させ、外に伸ばす。


 周辺への警戒と、時間の確認をする。


 周囲には他の獣の姿は見られず、空は晴れ渡っていた。時刻は早朝のようだ。

 今からよそのお宅にお邪魔するのは、少し時間が早いかもしれない。


「んー。何をして時間を潰そうか……?」


 狩りをするのもいいが、あまりお腹は減っては居ない。そもそも狩りは八つ当たりの

意味合いが大きい。今、狩りを行う必要性を感じられない。


 かと言って他にやることもない。


「どうするかな?」


 しゅるり、と触手にした手を人の形に戻して、腕を組む。

 この時点で、人の形から離れる亊に恐怖を感じる亊を思い出す。今は特になにも感じることなく変化できていた。腕の一部を変化させる程度ならば問題は無いようだ。


「そうだ!」


 名案を思いつく。アリティアの家に遊びに行く手みやげとして獣の肉を持って行こう。


 肉ならどの獣の肉が喜ばれるだろうか?

 この森で狩ることのできる獣は鹿、猪、兎、鳥のいずれかだろう。


 その中で鹿は無い。怖い。


 猪、もしくは兎になるだろう。鳥は捕まえてもいいが、得られる地理の記憶が広範囲に及ぶので、自分自身が食べる亊を優先したい。

 

 グレンやアリティアは喜んでくれるだろうか? 気になるのはこちらの世界の、というよりもこの地域の文化的に問題がないだろうかと言う事だろうか。


 日本ならばよろこんでくれるだろうなと、考えて、やめておくべきだと考えなおす。


 日本なら問題無くても地球規模で考えたら、特定の動物は食べてはいけないという教えがある。それにある文化圏で食材とされているものでも、文化が異なればも食材として認識していないこともある。


 この世界の文化も詳しく知らない今の自分が食べ物を持っていくのは、あまりにリスクが高い考えだ。


「イスラム教とかヒンドゥー教とかじゃ、食べちゃダメなものがあったしな……」


 好意からとはいえ、この世界では食べてはいけないモノを持っていって、嫌われてはたまったものではない。

 

 後で、食べても大丈夫な肉の種類とか聞いておかないとな、と考える。


 ともかく、狩りへのモチベーションがだだ下がりだ。


「あー。じゃあ、どうしようかな?」


 けれど、今の時間つぶしのための方策が狩り以外に思い付かない。


「ぼうっとしているよりはマシか」


 そう決めて、ねぐらから出る事を決める。

 

 ねぐらから出る為には、覚悟が必要だ。

 全身を変化させて人の形から大きく離れるために、恐怖心に襲われる事を覚悟する。細身化スキルを使用して、小さな穴を通って、ねぐらから出る。


「あれ? 思ったより大丈夫だった?」


 覚悟をしてから人の形から離れるならば、たいして恐怖心は沸き起こらなった。


「慣れた……のかな?」


 だがまあ、良い事だろう。なにせ、人の姿のままでは狩りというのは少々難しいかもしれないと考えていた。


 周囲を見回すと、もはや見慣れてしまった静かな森がただずんている。


 ライムが狩りを成功させるには、擬態スキルをフル活用しなければならない。

 というより、擬態スキルをはじめとした隠密行動のスキルを活用せずに狩りをした覚えがない。


 覚悟を決めてライムは森へと向けて、かけ出した。それと同時に、ライムの人の形は一瞬で崩れ、そしてその姿は周囲の風景に溶け込み、見えなくなった。


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