戸籍と位階
お互い挨拶の仕草を交し、おっさんの先導で侯庁舎の階段をあがる。
一緒について来た妖精さんズは、わちゃわちゃと騒ぎながらおっさんを追い越して扉へと突入していった。
メリルちゃんは俺の頭に座っているようだ。
おっさんの後を追って石造りの大きな扉を潜ると中は広く明るい吹き抜けのホールだった。
入って正面すぐのところ、カウンターの向こうに座っている二人は案内係か?
なかなかの美人さんとイケメンの組み合わせだ。
その向う、右の壁にはカウンター。手前の待合席には、まばらに人が座っている。
良くある行政の受付ロビーだ。
俺達はそのままロビーを突っ切り奥の通路へ。
入ってすぐ脇の階段をおっさんが上がっていく。がっしりとした造りの木製階段。
三階まで上がり、通路へ。
今歩いている辺りは、たぶんロビー吹き抜けの上なんじゃないかな。
この辺りは床板が貼られている。
木造建築ではないようだったので、装飾として使われているのだろうか?
しっかりと磨き上げられ、年季の入った床板だ。
掃除も行き届いている。
公共施設の維持管理がしっかり出来てるって事は、この国は景気がいいんだろう。
わらわらと戻ってきた妖精さんたちと一緒にキョロキョロとしながら廊下を進むと、20畳ほどのホールへ到った。
すでに長椅子には数人が座っているが、奥の別枠っぽい少し上等な、ローテーブルとセットになった長椅子へ案内される。
ホールに居たのは皆、上等な身なりの人ばかりだ。
陳情に来た人達だろうか。
領主貴族なんて、もっと人気のない領主室で越後屋と悪巧みしてたり、大ホールでパーティ三昧かと思ってたんだが、仕事してる感が半端ない。
長椅子に腰を下す。
少し固めなクッションの座り心地がいい。
俺の後ろ奥にメイドさん。横のホール側に女性の護衛さん。
男性の護衛さんは、ホールの入口に立って辺りを見回している。
妖精さんたちはホールの中を我がもの顔で飛び回っている。
「妖精さんが見えるひとは、二人かな?」
「三人ですな」
そんな話をメリルちゃんと交していると、メイドさんがお茶の準備を始めた。
大きなボストンバッグのようなカバンを持っているなと思っていたが、お茶の道具が入っていたようだ。
と、ホールの奥にあった両開きの扉が開き、三人ほどが出て来た。
裕福な商人と番頭それに護衛といった感じ。
その後ろからすぐに事務官僚風の若い男が現れ、俺を案内してきたおっさんの許へ。
「呼ばれてますな」
「え? もう?」
休む間も無く順番が来てしまった。
若い官僚風の男性とおっさんについて大扉へ向う。
女性の護衛さんだけついてくる。
あー、もう扉が開いている。
こちらの作法ではないが、軽く一礼をして扉を潜る。
あれ?
思ってたのと違う。
大きな机のある執務室だろうと思っていたのだが、左奥に二つ、一人掛けのソファーが斜めに向き合って置かれている。
テレビで見る、偉い人が会談するセット?
こちら側には5、6人座っている。
その座っている人たちのもとへ妖精さんがわらわらと群がっていく。
奥のソファーの前には、40代後半くらいのナイスガイ。
俺は若い官僚に案内され、手前のソファーの前へ。
このナイスガイが領主様だろう。
俺はこのソファーの前に立っていればいいの?
「礼はしたほうがいい?」
メリルちゃんに聞くが、人の文化は判らないらしい。
まあいいや、とりあえず70度の角度で御辞儀しておく。
奥から若い官僚風の別の男性が現れ、大扉の前に陣取った人達の方を向いてなにか喋りはじめた。
「よういちさんの、来歴?を説明されている様子ですナ」
「来歴?」
「日本から侯爵家の小さな女の子に呼ばれたとかデス。戸籍と名前を与えることもおっしゃってマス」
この会談のアジェンダを記者?に説明してるらしい。
マジ、思ってた面談と全然違う。
やがて官僚の報告?が終ると、奥から官僚風の女性が大きなお盆を掲げてやってくる。
ナイスガイがお盆から賞状の様な紙を取出し、なにやら読み上げる。
俺の名前が読み上げられたので、これで名前と戸籍が貰えたってことっぽい。
読み終わるとナイスガイが用紙を俺に差し出してくるので、頭を下げつつ両手で受け取る。
なにか四行くらい書いてある。
さっさと畳んで退出したいんだが、広げた腕の間にメリルちゃんが入り込んで読んでいるので仕方無いそのままの姿勢をキープ。
隅で不思議な踊りを踊っていた妖精さんたちも、わらわらと集って覗き込んでくる。
「戸籍以外に、外の十二位、というのが与えられたようですな」
「外十二位?」
よく判らないが、とくに悪い話ではないらしい。
とりあえず邪魔になるんで外に出ようか。
待合ホールへ戻り、テーブルに貰った用紙を広げた。
対面におっさんが座り、用紙に書かれた内容を説明してくれる、
なんか戸籍以外に位階というのが付いてくるという。
この国の身分制度で上から12番目で、外って付くのは貴族のラインから外れた人に贈られるランクらしい。
いわゆる貴族は八位までで、爵位と位階には若干のずれがあるそうだ。
六位の男爵とか七位の子爵とか。
会社の役職と資格等級みたいなものっぽい。
貴族の子弟が十位スタートで、侯女ちゃんが正十位、イケメンが正八位。
異世界もので出てくる騎士爵は、上級、無印、下級の3階級があり、11位から13位くらい。
正外ともに13位以上だと王宮に入る資格が付くのだとか。
外十二位だと結構な金を納めた上級商人とか文化勲章を授与された功労者が貰う位階らしい。
「おー、毎月、お金が貰えるそうデスよ」
おっさんの説明をメリルちゃんが教えてくれる。
十二位ともなると、それなりの年金もつくそうだ。
なんか人生イージーモードに入ってる。
どこかに落とし穴があるんじゃないかとドキドキする。
この外位というのは、そこそこの爵位があれば授与できる位階で、それゆえ授与した爵家の紐付きと見なされるらしい。
都へ行って他の爵家に取られるよりは、という意図があり、虫避けにくれたっぽい。
これ以上期待されても、ネタはもう枯渇しかけてるんだが。
戸籍も貰ったし、今日はこれで帰っていいんだよね?
「どうもお疲れ様でした」
ということで玄関まで送ってもらい、馬車に乗り込む。
メイドさんに、アンテナショップ寄りたいとお願いしたのだが、難色を示された。
「その服では、お店に寄れない、と」
そういわれて服を確認。
これ、三番礼装だっけ。
なるほど。モーニング来て商店街を歩くようなものか。
確かにそれはしんどいな。
じゃあ、残念だけど、大人しく帰りますか。




