侯庁舎へ
食事が終わるまでにイケメンは現れなかった。
役所の仕事は意外と効率的らしく、現代日本とことなり普段は残業など余り無いらしい。
そういえば、江戸時代や中世の上級職はかなりホワイトな労働時間だったって話を聞いたことがある。
俺が見せた道具とかの研究や試作は各方面へ丸投げしたそうだが、今回の王都行きに侯女ちゃんやが加わったので、やる事が激増らしい。
庶民な俺やそこそこのヒューさんが他家の領地を通るのと違い、大貴族の御令嬢が道中するとなると、通過先へ一筆認める必要があるとかないとか。
ラノベでよくある身軽な王様とか身分を偽り隣国へ潜入する王子とか実際には有り得ないみたい。
水戸黄門の漫遊ネタもほぼ嘘だって話だし。
バレなきゃなんとかなるのだろうが、今回の王都滞在は公式だから、中抜きはムリな話のようだ。
本当なら、道中にある領主の在所では一々滞在して宴席にでたりとか大変らしいが、今回その辺りは“王都急行につき”ってことでパスするそうだが、それにしても挨拶状なんかを出して話を通す必要はあるのだろう。
魔法使いからは今回の俺の王都行きで、「試作スケジュールが延びて助かりました」って言われたけれど、いつのまにか試作品の評価に立ち会うことになっている。
部屋へ戻ってマッタリする。
机の上では、妖精さんズがアイドルダンスを踊っている。
浮いたり飛んだりの3Dダンス。
なんか衣服もヒラヒラがいっぱいで、アイドルの衣装っぽくなってないか?
觀たことないけど、魔法少女ものアニメの劇場版とかこんな踊りありそう。
このアイドルダンスは鋭意創作中だそうで、風呂に入ってる最中も、風呂からあがって東屋で水分補給をしている間も、ずっと練習している。
たまに助言を求められるが期待に応えられているか心許無い。
こんなことなら、もうすこしナントカ48系のアイドルMVを見ておくんだった。
んー。
まだ早いけど、先に寝るね。
クルクルと踊る妖精さんをあとに、俺はベッドへと登った。
明くる朝、妖精さんズを引き連れて東屋に行く。
ついてきてもなにも無いと思うんだけど。何が楽しいのだろう。妖精さんズはワチャワチャと楽しそうにしている。
東屋にはすでにイケメンが席についていた。
朝の一杯。珈琲に似た少しほろ苦い飲み物を飲んでまったりしていると、館からヒューさんが、庭から魔法使いと侯女ちゃんがやってきた。
すかさずメイドさんがわらわらとやってきて、テーブルに朝飯を並べていく。
「ケイトさんとメイドちゃんがいないね」
辺りを見回しつつぼんやりと呟く。
「二人、今日、お休み、デス」
すかさずヒューさんから回答が。
そうだよね。明日からの準備しないとならないよね。
ヒューさんは大丈夫?
え? ダメ? 今日は俺一人で侯爵のところへ行くの? マジで? それってヤバくない?
最近ヒューさんがいつも居てくれるのに甘えていた弊害がこんなところで炸裂してしまった。
あー、うー。
今一番暇なのは、自分では準備をしない侯女ちゃんらしいのだが、俺と侯女ちゃんの組み合わせじゃ、侯女ちゃんの態度にお父さん誤解して大激怒、決闘だー!って、ネット小説アルアルだ。
実際なら決闘どころか、即首ちょんぱな事案じゃないか。
向こうも俺がしゃべれないの分かってるし、顔見せして書類受け取るだけなら俺だけでなんとかなるのか?
侯庁舎には妖精さんが見える人がちゃんと待ってるらしい。
それならなんとかなるか。
ダイジョウブ。メリルちゃんいるし。頑張ります。
朝食を済ませると、そのまま湯屋へ。
朝シャン程度に軽く身体を洗って脱衣場へ戻ると、昨日作った朱地に蒼糸で刺繍の施されたそこそこ派手な三番服が用意されていた。
これ着るのか。
…………。
うーん。やっぱり微妙。ユニクロで満足する俺のセンスですら、「ちょっとどうなの?」と訴えてくる。
まあイイや。似合う似合わないではなく、単なる記号だ。
ときどき部屋で世話をしてくれるメイドさんに案内されて、玄関前に用意された馬車に乗り込む。
市場へ行くのに使った馬車より高級感にあふれている。
まず馬車が朱い。
そこここに付いた装飾も色とりどりだし。
派手ではないけど華美な趣。
ラテンの香りがする。
古代中国の皇帝とかこんな馬車に乗っていそう。
いや、中国皇帝だともっとピカピカで派手な感じか。
世界の豪華列車とかこんなイメージあるかな。
実物を見たことは無いけど。
馬車を引いているチョコボも羽の色艶がいい気がする。
俺とメリルちゃん、それに妖精さんズが馬車に乗り込むと、メイドさんがそのまま隣りに座る。
向かいの席にはこの間の護衛のお姉さん。その隣の男性は初めましてかな?
護衛の二人には挨拶の仕草をしておく。
どうやらこの男性の護衛は、妖精さんが見えるようで、窓に鈴なりになる妖精さんにちょっと驚いている。
窓の外をうかがうと、いつの間にかイケメンと魔法使いが見送りにきていた。
窓越しに挨拶の仕草をしたところで、ゆっくりと馬車が動き出した。
門前の貴族街をすぎ、大通りを右折。以前来た市場の辺りをそのまま越えて、城壁の立派な門をくぐる。
片側2車線ほどもある広い石造りの真っ直ぐな道が、ずっと先の方まで続いている。
城門の外なんて並木道が続いているのかと思っていたが、この辺りはまだ住宅街だろうか。
道の両側に5、6階建ての瀟洒な石造りのアパートが立ち並んでいる。
古い公団住宅のような無気質な四角い箱ではなく、パリの裏通りの古い町並みを彷彿とさせた。
人目をさけるためだろうか、低層階の窓が少く小さめだ。
暫く進んでも交差する太い道はなく、所々に細い路地が走っているだけだ。
「この建物は、こんな四角い形で、」
メリルちゃんが両手の親指と人差し指でフレームを作って説明してくれる。
アパートはそれぞれ中庭を建物で囲ったロの字型をしているらしい。
もしかすると、このアパート群は城壁の役割りを持っているのかもしれない。
1kmも走ったろうか。広い河でアパート群は終わり、橋を渡ると道のまわりは田園風景へと変る。
そこは日本の牧歌的な長閑な田園ではなく、北海道とかアメリカの大規模農場。
見渡すかぎりの小麦?畑。
遠くに大きな建物が集っているのが見える。
「*****」
「アレが、侯庁舎、だそうデス」
俺がビル群を目に止めたことに気が付いた護衛の女性が教えてくれた。
あそこへ行くのかぁ。




