子供のアリクイに似た生き物
俺が貨車に座り込んだままボーッとしていると、ヒューさんが醸造処の脇から足場を持って飛んでくる。
なんだか元気一杯な人だ。
其の後ろから新しい貨車を担いだ一団がやってきた。
このままでは邪魔っぽいと察した俺は、ヒューさんが持って来てくれた足場を使って貨車から降りる。
一団の作業を少し距離をおいて眺めているが、モノレールはタイヤの取り付けが面倒くさそう。
モノレールのタイヤ構造なんて講義では習ったが、実物に御目にかかるとは思ってもいなかった。
へー、ほー、へー。百聞は一見にしかずってやつだ。
やがて貨車の後ろに新しい貨車を繋ぐのだが、単純に太いロープで繋いでいるだけだ。
俺やヒューさんが乗って下るだけならこれでもいいだろうが、一先ず緩衝器を教えてみる。
工作担当の若いのは俺の説明を理解している様子だが、今ここでバネを作る技量は無いらしい。
これからテスト走行を行うという。
うーん。
歩くのも面倒だし、テスト終わるまで待ってこれで戻るか?
問題がなければすぐに乗れるというので、ちょっと時間潰しをして待つことに。
どうする? パワースポットでも行ってみる?
「*****」
「*****」
「*****」
うだうだとしていたら、妖精さんが胸の高さくらいをホバリングしながら俺を見上げている。
「このアタリに住まうモノですが、なにかヨイモノを見せるそうデス」
なんだかメリルちゃんの隣でちっこいのがドヤってて可愛い。
なにかイイものってなんだろう。ついて行ってみるか。
妖精さんに導かれ、パワースポットの方へと果樹園を歩いて行く。
途中鳥?や蜥蜴?の巣やら、食べられる茸?の紹介してくれる。
しかし見せてくれる良いものってゆうのはこれじゃないらしい。
ぶらぶらと果樹園を歩き、いつの間にかパワースポットの木立を過ぎ、丘の上まで登ってきた。
丘の向こうは館まで以上の広さで果樹園が丘の裾へと広がっている。
果樹園の先には川があり、その向こう岸に町が広がっている。
さらにその先にある遠くの山まで、足元の丘の中腹から橋が伸びている。
「アノ橋、水、トオル、クるデス」
へぇ、水道橋か。
向こうの山まで3、4キロはありそうだ。
高さも町の上、ビルの4、5階くらいはある。凄いな。
ただ世界遺産になっている水道橋のような石積みではなく、コンクリのようなのっぺりとした見た目なのがこの世界の土木建築物っぽい。
土木系の魔法を使ったとはいえ、何年もかかった大工事だったらしい。
俺が水道橋の凄さに驚いている間に、妖精さんは果樹園をさらに進んで手招きしている。
どうやら見せたいものって言うのは、あの水道橋でもないらしい。
さらに進むと果樹園の途中途中にある石垣の一つの手前で妖精さんが振り返り、口の前に指で山形に作り塞ぐ仕草をする。
話しちゃダメのサインだっけ?
そのままジェスチャーで石垣の向こうを覗けと示すので、音をたてないように気を付けながら近付き、こっそりと覗き込む。
なんか居た。
白いふわふわの毛で、中型犬ほどの大きさをした四つ足の生き物が、すぐ先に立っている木の根本で腹を晒して寝ている。
足が短く、口が細長く伸びていて、がっしりしたしっぽを持つ子供のアリクイに似た生き物だ。
まるもことしたぬいぐるみチックでとても可愛い。
「××××××」
ニコニコとしたヒューさんが小声でつぶやきながら、頬の当たりで拳を握りしめプルプルしている。
可愛いよな。
長い口と舌をホースのように使って、木にたかる虫を舐め取って食べるらしい。
益獣として子供を放し飼いしてるのだとか。
無農薬農法のカルガモみたいな存在か。
ポコンと妖精さんに頭を蹴られて起き上がったそれは、思わず石垣に乗り上っていた俺達に気が付くと、妖精さんを頭に載せてドタドタと走り寄ってくる。
丸っこい子獣のフォルムなんだけど、やっぱり中型犬くらいの大きさがある。
そのまま石垣に手をついて立ち上がったそれが、匂いを嗅ぐように口を突き出してくる。
ヒューさんが手を伸ばして撫でると気持ち良さそうにしながら、長い舌を伸ばして腕を舐めてきた。
人懐こそうではある。
あの口なら咬まれることも無さそうだし。
石垣から体を乗り出すようにして撫で回し続けていたヒューさんだが、堪能した様子で体を石垣から下ろし俺に笑顔を向けてくる。
え? 俺? 俺はいいかな。手がベタベタになりそうだし。
俺の視線に、自分の腕の状況にようやく気が付いたヒューさんがだが、いつの間にか付いてきていた下働きっぽい女の子がタオルのような布を差し出してきて、腕を拭きはじめた。
最初に醸造処へ案内してくれた女の子のような気がするが、ケイトさんたちより格の落る感じの衣装と年格好というだけで、全然違う子かもしれない。
メイドさんが間に合わなかったので、こんな時のために、とりあえず俺たちに付いてくよう言われて来たようだ。
子獣は石垣に手をかけしばらく俺たちの様子を伺っていたが、やがてのたのたと歩き去っていった。




