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モノレール

 昨日から俺のために集まってくれていた妖精さんの半数ほどが貨車に乗って果樹園の上に帰っていくのを見送り、それでもまだ大勢の妖精さんが、俺の肩や頭に乗ったりモノレールの線路を走ったりまわったりしている。


「*****」


 メイドさんの声がするので振り向くと、俺とヒューさんのためにわざわざ運んできたのだろうか、簡易な椅子とテーブルが二人分用意されていた。

 椅子に座ってメイドさんが差し出してくる果実水を呑みながらひと休み。

 線路の上を駆けていく見慣れた妖精さんが居る。ときどき遊びに来る、舘の近くをうろちょろしてる妖精さん達だ。

 メリルちゃん曰く、半分くらいはコミック目当てだそう。

 じゃあ、見学が終わったらコミック翻訳の続きをやろうかね。


 妖精さんを目で追いつつ線路の先に目をやると、現場監督とか設計系な感じの人達が画板に貼った紙を確認しながら丘の向こうを指している。

 何やってんの?


「線路、伸ばす、しマス。丘、むこう、まで」


 ヒューさんが現場監督に聞いてきてくれたところによると、早くも丘の向こうまで線路を延ばす検討を始めているらしい。

 たった一日二日でこれだけの線路を敷いちゃうんだから、一週間も有れば果樹園中に線路を引き回せるのだろう。


 貨車が走ってくる様子が無いのを確認して、線路に近づき軽く触れてみる。

 梁がそれほど太くないので柔いのかと思ったらかなり頑丈だ。

 俺がおっかなびっくり触っているのを見て、設計系の人が柱を蹴りつけてみせる。

 ほー。丈夫じゃないか。


「柱タテる、簡単デス。魔法デ、土よけ、固める、シながら、柱、上カラ押ス、しマス」


 穴を掘って支柱を立てるのではなく、土木系魔法で支柱の周りの土を岩に変えながら押し込んでいくらしい。

 しゃがみ込んで柱の付け根を観察すると、確かに黒くて固そうな岩石に金属棒が突き刺さっている。

 設計系の人が柱を持って引き抜く仕草をして、俺にもやって見ろという素振りを見せるので、俺も柱に手をあて引き上げてみる。

 ギギギ。

 全然動かない。

 なんか伝説の剣を引き抜こうとする一般人の気分。


「*****」


 設計系の人が肘から指先までを示しながらなにか言ってる。


「ココから、ココまでくらい」


 と、肘から指先までを示しながらヒューさん。


「柱、ササってマス」


 30センチくらい埋まってるらしい。


 こう言った柱を立てる場合、竜脈とか水脈を傷つけない経路を見極める方がむしろ大変なのだそうだ。

 魔法を使う世界では、竜脈に気を使うのがデフォルトらしい。

 地中に埋まった電線みたいなものだもんな。

 とは言っても、この果樹園は竜脈が蜘蛛の巣の様にネットワークが張り巡っているそうで、ちょっとした切断なら全然問題にならないようだ。


「*****」

「*****」

「*****」


 現場監督がやってきて、なにか言ってる。


「横、線路、ツナグ、したいデス。イってます」

「???」

「横に引いた線路を、この線路に繋ぐ方法がないかと」


 ?? 分岐とか転車台があれば良いのかな?

 俺がメモ用紙に鉛筆を走らせようとすると、画板を抱えたアシの人が走ってきて画板を差し出してくる。

 画板を受け取り、積石に腰掛けて、しょっぱい線路分岐と転車台の図面を描いて渡すと、なるほどと頷いている。

 あ、お猿の貨車が戻ってきた。


 貨車から荷物を降ろすっぽいので、一旦邪魔にならないところまで下がる。

 熊の人が担ぎ降ろしてるってのは、結構重量があるんじゃないか。

 人が乗っても大丈夫そうだが。


「ワタシ、三人、ノれる、イッてマス」


 ヒューさんが聞き込んできたところによると、ヒューさんで三人。150キロくらいは載せられるらしい。


「ノル、しますカ?」


 え? 乗れるの?

 ちょっとおっかない気もするけど、俺の答えを待つこともなく、ヒューさんが再び親方のところへ突入していく。

 親方も軽い調子だし、技術系の人も頷いてるし、これは乗る流れだ。

 メイドさんが踏み台を持ってくるので、覚悟を決めてエイヤと乗り込む。

 するとヒューさんが俺の方に手をかけて後ろに乗り込もうとする。

 いや、この箱二人も入れないだろ。

 箱の前に膝をかけるようにして縮こまると、ヒューさんが無理やり乗り込んできた。

 俺の肩に手をかけたまま、半身でいるのだろうか。

 うなじの辺りにやわらかな感触が。

 しかしこんな不安定な乗り込み方をしていてもぐらつく様子はない。結構しっかりしている。

 目の前にある動力席に猿の人が座り、ヒューさんの掛け声に合わせて出発進行。


 歩くよりもだいぶ速いし安定している。

 猿の人はそれほど頑張っている様子はないが、結構な斜度にも関わらず、自転車で平地を流しているくらいのスピードは出ているんじゃなかろうか。

 真正面は猿の人の背中しか見えないので少し顔を傾けるが、頬にヒューさんの体が当たるので微妙な角度しか曲げられない。

 おお、おお、おお。

 俺がゴソゴソしているのに気がついたのか、ヒューさんが立ち上がった。

 背中にヒューさんの膝があたり、後頭部に当たるのは太股か。

 大丈夫なんだろうか。

 重心が高くなった割にはモノレールは安定して線路を登っていく。

 気持ちもスペースも、辺りを見回すだけの余裕が出てきた。

 果樹園の樹木より高いところを走っているので、果樹園が一望できる。

 これ、後ろ向いて乗ったらすごい眺めがいいんじゃないだろうか。


「あの、背が高い木のところが、龍穴ですな」


 メリルちゃんの飛ぶ方向に太い木の木立が見える。

 やわらかな日差しに緑が輝いている。

 あそこまで歩いたのか。遠い訳でもなく近くもなく、なんというか、実に微妙な距離。

 うわ、なんか鼻がむずむずするんだが、猿の人の毛が飛んできてるんじゃ無いだろうか。

 くしゃみをしてヒューさんがバランスを崩すと不味いのでじっとガマン。

 と、到着したのか、傾いていた貨車が平らになってゆっくりと止まった。

 ちょうど醸造処の前。

 線路はまだ先まで伸びている。

 肩に乗っていた手が離れると、あっという間にヒューさんは貨車から飛び降りてしまった。

 俺は貨車の上で振り返り、丘の下を望む。

 眼下に広がる美しい町並み。

 そんな風景に感動しつつも、乗ってきたモノレールの貨車に目をおろし。

 うーん。これ下りの二人乗りは無理だよな。

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