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キマイラ研究の応用で、遺伝子組み換えはすでにポピュラー

 正面入り口に近い、応接間っぽい部屋に通された。

 入り口脇のスペースに数人のメイドさんが控え、奥につるされた衣裳を、服屋で対応してくれたマダムと女の子ともう一人女性が整えている。

 マダムと女の子は直ぐに俺に気が付き、マダムがにこやかに俺に愛想を振りまいてくる。

 残念ながら何言われてるのか全然わかんないけど。

 こう言うときはどう返すべきなのだろう。

 “おはようございます”くらいは言った方がいいのだろうか?

 こっそりとメリルちゃんに聞くが、そういった人間関係の細かな風習などはご存じ無いらしい。

 お店に入ったときはどうしたっけ?

 全然覚えてないわ。

 行ったことのないタイプの店に連れ込まれて、完全にキョドッてたような気がする。

 と、衣裳を整えていた女の子がマダムの後ろに立ち挨拶の仕草をするので、とりあえずひとつ覚えの胸元で手を重ねる挨拶の仕草を送る。

 そして、『えーっと、俺はどこにいれば良いのかな?』という体で何気なく辺りを伺うが、マダムも女の子も、ケイトさんやヒューさんも特にリアクションが無いので、それほど間違ったことはしでかしてないようだ。

 なにかおかしな事をしでかしていたら、たぶんヒューさんがなにか言ってくれるはず。だよね?


 ケイトさんにさりげなく誘導され、部屋の中央スペースに移動。

 さっそく朱地に金糸でミッシリと刺繍の施されたコットンっぽい衣裳がメイドさんにより運ばれて、俺の前に広げられる。

 マダムが右肩から胸にかけて施されている刺繍についてなにか言っているのを、ケイトさんとヒューさん、それから始めて見るなんだか上品そうなおばさんが見聞している。


「胸元のシシュウが、ココの家を示す様ですナ」


 家紋みたいな感じなのか。何種類かの動物模様と幾何学模様が組み合わさっている。

 そういえば、タータンチェックのパターンがクランや地域毎に違っていて、所属を示してるって聞いたことがある。あんな感じか。

 しかしこんな複雑な刺繍が3、4日で出来る物なのか?


「*****」

「*****」

「*****」


 メリルちゃんと一緒に俺の周りを飛んでいた妖精さんが言うに、すでにあるパターンの刺繍を植え込んでいるのだとか。

 植え込むってのが良く分からないけど、規格品のワッペンを組み合わせて貼ってある感じらしい。

 へー、ほー。

 その組み合わせに間違いがないか、上品そうなおばさんが確認してるとのこと。

 このおばさん、侯爵家に勤める紋章官とかそんな立場の人かな?

 そしてあの衣裳は公式な場で着る服で、刺繍ひとつひとつの場所や文様に意味があるようだ。

 マジで? あの朱金のハデな服を公式の場で着ないとダメなの? ムリじゃない?


「家にも家紋て言うのがあって、」


 確認が終わるまでにまだ少し時間が掛かりそうなので、端のソファーに座ってメリルちゃんと雑談。いわゆる逃避行動だ。

 家紋の絵を紙に描いてみせる。

 うちの家系は梅鉢紋だ。図案として簡単で何も考えずに描ける。

 と思ったけど、中心円を囲う五角形ってどんなだっけ? まあいいや、なくても。

 他にも少し描いてみせるが、そらで描けるのなんて、三つ巴とか井桁とか武田菱くらいだ。

 葵とか桐とか、すぐに思い浮かぶけど、描こうと思うと細かいところが判らない。

 菊って先は円かったっけ? 尖ってたっけ?

 当然の事ながら、俺が描けるような家紋はどれもメチャシンプルで、有る意味感心された。

 いや、もっと複雑なのも有るんだよ。俺が覚えてないだけで。

 しかし洋ゲーとかでみかける西欧風の紋章に比べると、所詮日本の家紋は記号だな。

 図案確認に飽きたのか、ヒューさんもやってきて、再度家紋の説明をさせられる。

 意味? いや、知らないよ。

 見たまんま、ただの花の図案なんだけど。


 三人でまったり話していると、服屋の女の子が俺を喚びにきた。

 刺繍の確認は終わったらしい。

 次はいよいよ丈合わせ。

 まあ、かぶるように羽織って、手を広げて立ってるだけだが。

 ヒューさんとケイトさんはその姿を誉めてくれるのだが、良く聞くと服を誉めているにすぎない。

 妖精さんは首を傾げているか、難しい顔をして肩を震わせている。

 鏡がないので断言は出来ないが、凹凸のない地味顔なおっさんが、こんなジャニ系の衣裳着ても残念なだけであろう事は想像できる。

 まあ、女の子もメイドさんも淡々と仕事をこなしてるってことは、そう言うことなんだろう。

 そのあいだにも、マダムとおばさん達は次の衣裳のチェックに入っている。

 あれ? そっちの刺繍、光ってるよね?


「ヒカリムシの糸のようデス」


 魔法石を使って光らせているのではなく、光を放つ糸があるらしい。

 そういえば、ホタルイカの遺伝子を組み込んだ蚕が、青く光る糸を生むとかなんとか、ビジネスニュースで見た覚えがある。

 そんな糸を出す虫がいるらしい。


「イキモノ、マゼル、まほう、ありマス」


 寸法合わせで女の子に言われるがまま体勢を変えつつ遺伝子組み換えの話をしていると、ヒューさんが言う。

 魔法使いによるキマイラ研究の応用として、遺伝子組み換えは品種改良の手法としてすでにポピュラー?な技術らしい。

 それは合法なの? なんかヤバくね?


「不老不死とかは?」


 アンデッドとか反魂とかもアリなの?

 俺の質問にメリルちゃんが、残念そうに頭を振る。


「ムカシ、やりました」


 とヒューさん。

 やってたんかい。

 メリルちゃんの首振りは、否定ではなく、肩先で掌を上にあげて“Oh! No!”って感じのやつのようだ。


「アタマ悪いウエヤクがおおぜい。メチャクチャなるました」

 

 遥か昔、延命した王様が何代も連なる王国ができあがり、国政運営に老害が偉そうに介入してくるので、当時の王子?がブチ切れて老害を全部物理デリートしちゃった事変があったらしい。


「居座らずに引退した方々も、多くがヒマすぎて死にました」


 ああ、良く聞く話だ。泣ける。


「人の世に千年生きる人は、今ではマレですナ」


 でも千年くらい生きてる、仙人っぽいっ人はいるようだ。

 今でもそこそこ延命はするけど、痴呆とか入ってくると、その辺りで手を引くらしい。

 痴呆は魔法をもってしても治らないのか。


 その間も、試着と丈合わせが続く。

 あれ? これさっき着なかった?

 そう思ってちょっと袖の辺りを見回すが、仮縫いの形跡が消えている。

 というか、袖や脇に縫い目がない。

 また謎の接合技術が発揮されているらしい。

 ここの服って、こんなだったっけ?

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