魔石の削りカスは化粧用のラメに
シャンシャンシャンと、近くで鈴の鳴る音がする。
首をコキコキとしながら起きると、紗幕の外でメイドちゃんが神楽鈴っぽいものを手に俺をのぞき込んでいる。
「朝ご飯、できた、そうです」
後ろから声を掛けられてびっくりしたが、メリルちゃんだ。
何故かエマさんはベッドの上をコロコロと転がっている。
あの神楽鈴が目覚しとして使われたようだが、それは普通の使い方なんだろうか。
俺が目覚めたのを確認したメイドちゃんは、すかさずリビングへととって返し、すぐに俺の着替えを持って戻ってきた。
うーん。
名も知らぬメイドさんに見られながら寝間着を脱ぐのはあまり気にならなかったが、メイドちゃんの前で脱ぐのは気恥ずかしい。
紗幕から顔を出してベッドの上で着替えを受けとると、そのまま紗幕の中でモゾモゾと着替える。
もっともメイドちゃんは着替える俺を待つこともなく、寝室の窓を開くことに忙しそうだ。
俺の着替えが終わり、メイドちゃんも窓を開き終え、さてと身構えると、メイドちゃんが再びリビングへと向かい、洗面道具を持って戻ってきた。
窓際で顔を洗いリビングへと向かおうとする俺を今度はメリルちゃんが押し留め、ベッドの方を指し示す。
ああ、ベッド脇のスツールに置いてある iPad をエマさんが叩いてる。
充電充電。
日の当たる窓際に太陽電池パネルをセット。iPadを繋ぎ、チャージ中表示を確認してリビングへ。
寝室にいた妖精さんズも集まってきて、ワチャワチャと騒ぎながら一斉に付いて来ている。
そしてメイドちゃんに案内されるまま、舘をテクテクとさ迷う。
ちょっと腰の引けてるメイドちゃん。こんなに妖精さんがワサワサと固まっているのを見るのは初めてだそうだ。
やがて舘の外へ。
今日の朝食も中庭にある東屋のようだ。
東屋にはすでに侯女ちゃんと魔法使いさんが待っていた。
「おはよ、ございマス」
拙い現地語で挨拶をし、用意された席に座る。
「おは.よ..うご...ざいま...す」
ペカリと眩く笑って日本語で挨拶をしてくる侯女ちゃん。
「*****」
侯女ちゃんが明るく話し掛けてくれるのだがさっぱりわからない。
でも何だか楽しそうなので連られて微笑みながら、こそっとメイルちゃんに通訳して貰う。
どうやら先日お茶会で竹とんぼを楽しんだお嬢様仲間と、今日は学校で飛ばすことになっていて、それが楽しみでたまらないらしい。
飛行機とか飛行船も作って飛ばしたいとおっしゃる侯女ちゃんに、俺はハタと閃いて、ランタン飛ばしを教えることにした。
魔法バーナーを使ったランタン飛ばしなら、学校の休み時間にでも作って飛ばせるんじゃないか?
A4くらいの紙を何枚か用意して貰い、底の四角い紙袋を作る。
一緒に付いてきた妖精さんに袋張りを頼んだのだが、どうして紙が繋がっているのかわからない。
そもそも張り付けじゃなくて、継ぎ目なく繊維が繋がってるし。
「木で、ジテンシャの、フレームを、ツナイだ、技と、同じですよ」
木工さんが自転車のフレームを繋いだ植物繊維をどうにかする魔法と同じ魔法らしい。
そういえば、あれも謎な接合だったな。
まあそこはおいておいて、袋をひっくり返し、ちょちょいと作って貰った魔法バーナーを袋の口のところにぶら下げる。
あとはバーナーの魔法を発動させて貰えば紙袋が浮き上がった。
うーん。
ランタンだとロウソクが紙袋を透かす明かりが映えるんだけど、これじゃあ茶色い紙袋が浮いてるだけで寂しい。
メリルちゃんに相談すると、魔法使いさんが米粒大の魔法石を魔法バーナーの上にジャラジャラと載せ、再びバーナーを発動。
キラキラ光る魔法石に照らされた紙袋が、少し影になった東屋の天井に張り付き、幻想的に漂う。
俺的にはまだ寂しい感じが残るが、侯女ちゃんやメイドさんたちは大喜びだ。
「バーナーのかわり、ロウソク、できる、マス。火事、火傷、注意」
と、大人である魔法使いさんにアドバイス。
納得気味に頷いているから、大丈夫だろう。
侯女ちゃんたちがはしゃいでいる隙に、惣菜系の蕎麦粉クレープっぽい朝食をいただく。
フワリと浮かんだ紙袋の下から妖精さんが中をのぞき込んでいるが、熱くないのか?
背を伸ばして紙袋に手をかざすが、結構熱いじゃないか。
「火事、火傷、注意」
手をフリフリしながら、侯女ちゃんにも注意をしておく。
そのまま紙袋を見上げながら朝食をモシャモシャしているとヒューさんがやってきて、天井に張りつく紙袋をみて驚くので、仕組みを説明する。
「本当はロウソクの灯に照らされて、紙袋が薄灯を瞬かせるのが綺麗なんだけどね」
すると彼女が紙袋の内側になにやら細工をして再び飛ばす。
おー。紙袋がぼんやりとした灯を瞬かせている。
「魔石粉ですな。魔法石のケズりカスで、あの粉は魔力にハンノウして光る細工がしてあるようデス」
魔法石の削りカスって、ルビーとかサファイアとかコランダムの粉?
それに魔法的な加工を施すと、魔力に反応して光るようになるらしい。
いわゆる“ライト”の魔道具だよね。
その粉を紙袋の内側に塗布したらしい。
こんな粉を携帯してるだなんて、さすがは魔法の研究者。
と、俺が感心していると、妖精さんが一人やってきて、なにやら顔をナゾル動作をする。
「*****」
「*****」
「*****」
え? 魔石粉って顔に塗るの? まぶた? 髪?
どうやら化粧用のラメ扱いらしい。
魔法用の小道具じゃないんか。
そういえばファンデーションに酸化アルミを使うんだっけ?
まあ、化粧道具を持ち歩いてるなんて、思った以上にヒューさん、女子力高いな。
食事を終えてお茶を飲んでいると、ランタン飛ばしを堪能した侯女ちゃんは、紙袋を持って学校へと出かけていった。
火傷とか火事とかの事故が心配だが、魔法使いたるものとして、その手の扱いは小さい頃からしっかりと教育されているらしい。
魔法使いさんも仕事に戻るそうだ。
俺はこの後どうすればいいのかな?
いつの間にかメイドちゃんの代わりに控えていたケイトさんに聞くと、そのうち服屋が来るので、それまで自由にしていていいと。
ただしすぐ見つかるところにいて欲しいとやんわりお願いされた。
メイドちゃんは、侯女ちゃんと一緒に学校に行ったそうだ。
ヨーグルトドリンク?をすすりながらヒューさんに飛行船と飛行機の違いを話していると、メイドさんが俺を呼びに来た。
服屋が来たらしい。
それじゃあ、行きましょうか。
呼びに来たメイドさんに付いて俺が移動を始めると、ケイトさんにヒューさん、そして妖精さんズが一緒に付いてくる。
うう。また妖精さんの肩を震わせてしまうのか。胃が痛い。




