自転車つくってドヤッテルところじゃないぞ。
賑やかな物音に目を醒ますと、布団の中だった。
そういえば、垢擦りマッサージを受けた後に部屋へ戻って、ソファーでぼんやりとして。
そのまま寝落ちしちゃうところをメイドさんに支えられながらベッドに転がり込んだ気がする。
よいしょ、と身体を起こす。
窓が閉じられた真っ暗な部屋の中を、妖精さんが羽を光らせながら飛び回っている。
賑やかな音は、ベッドの蚊帳や天幕に妖精さんがぶち当たる音のようだ。
なぜ何度もぶち当たる。そしてもがく。不思議な生き物だ。
ふと頭上を見渡すと、隅に吊った妖精さん用ベッドからこちらを伺う妖精さんの姿。
たぶんエマさん。
軽く手を振ると、何故か不審そうに近付いてくる。
「魔力が溜ってきたので、すこし違ってみえるのですよ」
メリルちゃんがやってきて、教えてくれた。
久しぶりに合った親戚の子が、急に大人っぽくなってビックリするような感じか?
「おからだは、大丈夫ですか?」
言われて気がついた。
もう普通に動けてる?
両手を前に出してニギニギ。
うん。もう動けるようだ。
「大丈夫みたいですね」
ズリズリとベッドの端まで這い、蚊帳を開いてベッドの外に降り立ち、うーんと伸びをする。
肩をくるくると回してみる。
おお、調子がいいんじゃないか。
魔力のキラキラした光も気にならなくなってる。
でも、身体を魔力が巡っているとかそんな感覚は一切ない。
「今日ジュウには、イケルでしょう」
なにがイケルの?
どうやら一回溢れるほど満タンにしてやれば、魔力を出す感覚が掴めるんじゃないかとのことらしい。
ほほう。魔力が溢れてれば、ウォシュレットや灯のスイッチが押せるようになるのか。
それは頑張らねば。
ただ漫然と待ってるだけだけどね。
話している間も、妖精さんがやってきてペタペタと触っては飛んでいく。
エマさんもようやく慣れたようで、俺の頭の上に座って寛いでいる様子だ。
ちょっと窓を開けようかなと暗い部屋を妖精さんの明かりを頼りに進む。
結構な数の妖精さんが羽を光らせながらウロウロとしているので、窓際まで歩くのにはさほど困難はなかった。
えーっと、この窓って観音開きじゃないのか?
止め金もなさそうなので、押せばパカッと開くかと思ったらダメだ。
窓枠をごそごそと探る音に気が付いたのか、リビングへの扉が開きメイドさんがスススッとやってきてササッと窓を開く。
鎧窓の外にもう一枚、開く時には庇になる雨戸のような板が付いていて、先にそれを上げないといけなかったようだ。
この庇を上げるのは魔法ではなく、ただの紐仕掛けっぽい。
さすがに魔法一辺倒ではなく、簡単な仕掛け物はあるみたいだ。
そういえば街の工房で足踏み式ミシンを見かけたし、工作室に旋盤があった。
リビングには掛け時計もあるし、建物の裏手に手動のエレベータもあるって言ってたっけ。
全然侮れない。自転車つくってドヤッテルところじゃないぞ。
外はまだ暗いが、左手の空がうっすらと明るくなっている。
正面が南で、東から日が昇るということで良いのだろうか。
ふと気づくと、メイドさんが扉の前で待ち構えている。
俺がこのまま起きるのか、二度寝するのか、様子をうかがっているようだ。
もう日が昇る時間のようだし、いったんリビングでお茶でも貰おうか。
リビングに移動し、時計を見るとまだ6時前だ。
「お茶、飲む。また寝る。よろしく」
メリルちゃんの口コピーでこの後の希望をメイドさんに告げると、メイドさんは頷き、リビングの明かりをつけ、壁際でお茶の用意を始めた。
お湯の沸くわずかな間にも、ベランダの大扉を開いたりとメイドさん大忙し。
その横で俺は、邪魔にならないようソファーに腰かけて、徐々に明るさを増していく外の光景をぼんやりと眺めていた。
魔法の方はただ溜まるのを待っていれば良いそうなので、今日は何をしよう。
本の翻訳は定常作業として何ページかやるとして……。
「今日は何をしましょうか」
とりあえずメリルちゃんに相談。
集まってきた妖精さんからコミックの翻訳以外に新作ダンスを教えて欲しいと提案されるが、昨日かなり教えてしまってネタ切れなんだが。まだなんかあったかな?
「*****」
「*****」
「*****」
「お昼マエ、服の店の方が、来る、そうデス」
妖精さんが伝言を受けていたらしい。
服の店?
ああ、商店街で寄った高級服飾店ね。
2ー3日後に服の仮縫いをするって言ってたっけ。
「じゃあ、午前中は服のあわせで。午後は……」
「*****」
「*****」
俺の呟きに応じてメリルちゃんが妖精さんに声を掛けると、俺の頭からエマさんの声が返った。
「果樹園に、レッシャが、走るノデ、見に、行きましょうとエマが」
果樹園に列車?
もしかして、昨日単眼鏡で覗いたモノレールのことか?
あのモノレール、今日の午後当たりに試運転をする事になっているらしい。
マジで?
果樹園組の妖精さんが一斉に頷いている。
仕事早えーな。
恐れ知らずの突貫なのか、魔法技術の故なのか。アイデアを与えた手前、心配ではある。
結構な工作水準にはあるようだが、俺も一応エエところの最高学府で学んだ身だし、アドバイスできることもあるだろうから、ちょっと見てはおきたい。
というのは建前にしても、やっぱり興味あるじゃん。男の子だもん。
じゃあ、朝ご飯食べて、服の仮縫いをして、午後はモノレールの視察をしよう。
「また寝る。朝、食事、起こす、よろしく」
今日の予定を軽く決めた俺は、メイドさんに声をかけて再びベッドにもぐり込んだ。




