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『流れろ流れろ』と祈ってみる。

 妖精さんに踊りを幾つかレクチャーしているうちに、また眠ってしまっていたようだ。

 どのくらい寝ていたのだろう。

 目を醒すと外はもう日が落ちかけている。

 だるい体をゆっくりと起こそうともたもたしていると、メイドさんが駆け寄ってきて支えてくれる。

 ソファーに座り、フウっと息を吐いて、ぼんやりと部屋を見渡す。

 部屋に溢れる魔力がまぶしい。

 まだ心が魔力の海に馴染んでいないようだ。

 妖精さんはもうダンスをやめ、部屋のあちこちでゴロゴロと転げ廻っている。

 俺が目を覚ましたのに気がついた妖精さんが何人も飛んできて、ぺたぺたと俺に触ってはまた飛んでいく。

 エマさんと一緒に、メリルちゃんが飛んできた。


「おかげんは、いかがですか?」


 なぜかニコニコとしているメリルちゃん。


「相変わらず、力が入らないけど、身体を起こすくらいは出来るようになったかな」

「ですか。まあ、明日の朝には、カイフクしているでしょう」


 なにをニコニコしているのかと思えば、俺が寝ている間に新作ダンスの練習がずいぶんと捗ったらしい。

 やる? やっちゃう?

 そんな雰囲気で妖精さんたちが俺を見つめてくるので、お願いする。

 妖精さんダンス、前後左右だけじゃなくて上下方向の移動も組み込まれ、すごい華やかになってる。

 正直、動きを追い切れない

 一曲終わって妖精さんがドヤ顔で決めポーズ。

 盛大な拍手を送りたいところだが、まだそこまで動けない。

 よろよろと手をあげてサムズアップを送っておく。


 ああ、トイレ行きたい。


「*****」


 メイドさんがなにか言ってる。


「*****」

「食事はどうしますかと」


 食事……と、グーッとお腹が鳴った。


「おなか空いたけど、その前に、トイレに行きたい」


 実際には「食べる、まえ、トイレ、いく」と言う感じの片言だけど。

 メリルちゃんに聞きながら、口コピーでメイドさんにしゃべりかける。

 そう言えば、こっちで喋った現地語って、まだ“おはよう”と“トイレ”だけか?

 もうすでに何日か経とうとしているのに、思った以上の惨状に戦慄する。

 ヒューさん、結構流暢に日本語しゃべってるよな。

 これが、熱意と才能の有る者と無い者の差か。


 フラフラと立ち上がろうとする俺をメイドさんが押し止め、どこかへ走っていく。

 そして直ぐに熊の人とともに戻ってきた。

 俺の前に背中を向けてしゃがんだ熊の人。

 その背中には背負子。

 あっと言う間に背負子に紐留めされた俺は、熊の人に背負われて廊下を渡り、階段を下り、トイレへと連れていかれた。

 そのまま熊の人に抱えられて便座に座らせられ、入れ替わりに入ってきたメイドさんにズボンを降ろされそうになる。

 ああ、熊の人の手だと、俺のズボンは降ろせないか。なんて一瞬考えてしまったが、あわててメイドさんを押し止めて退場いただく。


 用を足し、ウォシュレットの青いボタンを凝視する。

 これに魔力を流せば、ウォシュレットが使えるんだっけ?

 ボタンに手を添え、『流れろ流れろ』と祈ってみる。

 ペチペチと叩いたり、押え付けながら念を凝らしても、全く反応する様子がない。

 周りの魔力が動く手応えがかけらも感じられない。

 残念ながら、ただ“世界に魔力が溢れている”という認識ができるようになっただけだのようだ。

 下半身丸出しでボタンを連打している俺の手元に、扉の隙間から降りてきたメリルちゃんがボタンに手をかざすと。


「おぉ、」


 ウォシュレットからピューーッと水が出て、俺の尻を洗う。

 メリルちゃんの掌からボタンへ、魔力が流れているのがわかる。

 翻って、自分の手を見つめてみるものの、いったい全体どうしたら魔力が動かせるのかさっぱりわからない。

 ラノベの主人公とかだと、『チャクラから熱いものが』とか言ってあっさり使いこなすんだが。

 現実は厳しい。

 千里の道も一歩から。

 ゆっくりとやっていきましょうかね。


 まあ脱ぐのはいかようにもなったのだが、拭くのと履くのには一苦労した。

 這々の体で扉を開けると、待ちかまえていた熊の人が俺の脇を抱えて洗面台までヒョイッと運ぶ。

 のろのろと手を洗い、そしてまた熊の人に背負われて、今度は自分の部屋へ。


 ソファーに座ると、直ぐに御膳が運ばれてきて、ローテーブルに並べられる。

 今日の料理はホワイトシチューとナン? あと前菜盛り合わせとおぼしき物。

 スプーンとコテが沿えられているので手に取ろうと腕をあげるより早く、横に控えたメイドさんの手がコテへと伸びる。

 そのままメイドさんがコテで前菜を掬って俺の口元へ運んでくる。

 いわゆる『あーん』である。

 美人のメイドさんによるご奉仕。凄く嬉しい。

 しかしまあ冷静に見ると、残念ながらこれは介護だ。ラブの要素は無い。

 そのままおとなしく、メイドさんの介護を受けて御膳をいただく。

 ホワイトシチューはとてもおいしかった。


 夕餉を食べて、ほっこりとして、ルーティーンだとこの後風呂なんだけど、まだ身体がだるくて自分じゃ洗えないんじゃないか?

 と思いつつも熊の人に運ばれるまま付いていくと、リフレの部屋へ。

 夜は垢擦りのコース。

 一応タオルで隠した状態ではあったものの、裏表ころころと転がされながら、全身しっかり洗われてしまった。


 風呂からの戻りも熊の人に運んで貰ったけど、垢擦りのマッサージ効果か、ようやく身体が動くようになってきた。

 部屋のリビングでソファーに座り、両手を差し出してしげしげと眺める。

 魔力……。あるのはわかるんだが、動かし方がさっぱりわからん。

 エマさんがやってきて、開いた掌にチョコンと座り込む。

 うーん。可愛い。

 そういえば、“妖精の半分は魔力だ”ってメリルちゃんが言ってたっけ。

 …………。

 やっぱりわからん。

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