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奴隷はいない。割高なので。

 残念なお知らせ。

 この世界には奴隷がいないっぽい。

 異世界ラノベにありがちな“隷属の首輪”的道具がないので、奴隷制度は管理コストが高くつくのだ。

 で、犯罪者系は奴隷落ちなんて悠長なことはされず、さっくっと人生をリストラさせられてしまうらしい。


「レイゾクの首輪デスか?」


 メリルちゃんに聞いたら、すごい不思議そうに聞かれた。魔法の鞄の時以来か。

 軽く説明すると、そんな首輪だと命令する度に判断基準をしっかりさせておかないと、着けたら秒で死ぬだろうと。

 だよねー。


 借金奴隷も同様で、管理コストを掛けて従わせるくらいなら、使用人を普通に雇って魔法でちょちょっとやらせた方が安心安全だ。

 人には無理目な力仕事でも、獣の人が普通の賃金で引き受けてくれるのだ。

 よくある鉱山労働とか農奴とかは、獣の人やマジカルなパワーがふんだんにあるので、たいして重労働ではないのだ。


 性奴隷はいないけど、身売りで水商売に落ちる的なことはあるのだとか。男も女も。

 仕事としての待遇も悪くないらしい。

 器量によって待遇に差がでるのは商品価値の問題なので仕方がないという認識。

 もともと性を売り物にする商売は認められていて、そういう店に行くことは推奨されるものではないが、忌諱される程でもないと。

 現代日本の非合法な風俗というより、オランダの飾り窓とか戦前の吉原とか赤線とか、そんな感じなのだろう。

 という事をヒューさんから聞き出すことに成功したのだが、話しに対する食いつき振りに俺への評価は下げたかも知れん。


 ほうほう。貴族の子息ともなるとその手の教育要員をあてがわれる風習もあると。

 世襲を前提としたお貴族様は、正妻との間に跡継ぎが出来ない場合、プラスαは許容されると。

 ウムウム。

 一方で男系の家に嫁ぐと血統管理のため奥さんへの監視が厳しいのだそうだ。

 魔法によるDNA鑑定(どうも本当に核酸を比較してるっぽい)で種に不義が発覚したりすると、奥方共々に物理でリストラされてしまうとか。

 しかし爵領によっては女系の家というのもあって、そっちでは女領主は子供が出来るまでイケメン侍らせてやりたいほうだいらしい。

 男系で複数腹に数をこしらえると跡継ぎ問題が起きるけど、女系では誕生順に序列が決まるし、男種の正当性は問われないからなのだとか。

 むしろ男種は不明な方が、余計な系閥を生まなくて良いとか。


 そんな話で俺的には盛り上がったのだが、ヒューさんとかメイドちゃんとかから見るとどうなんだろう?


「ふつう?」


 メリルちゃんにこっそり聞くと、少なくともメリルちゃんは気にもしていない。

 ああ、ヒューさんたちはもともと俺にそういう興味は無いっぽいですか。そうですか。



 そのままダベっていると、熊の人が寸胴鍋を持ってやってきた。

 シェフのお姉さんも一緒だ。

 お昼はここで調理するらしい。

 熱の扱いが簡単なので、容器と水さえあれば、どこででも調理できるそうだ。

 従軍先や旅先の野営でも大丈夫ですよと、シェフにニッコリと微笑まれた。


「ヤエイ、ない。ヤド、とまる、マス」


 しかしヒューさんが呆れたように首を振る。

 さすがに侯爵家ともなると、旅先で野営なんてすることはないようだ。


 今日のお昼は、ラザニアとか刀剃麺とかそんな感じの短く平たい麺に餡掛けを載せた物。

 寸胴鍋は麺を茹でるために用意したものか。

 俺が食べている前で、妖精さんがそろってアイドルダンスをしている。

 みんな所作が揃っていて上手だ。

 いつの間に戻ってきていたのか、センターは先生だ。

 一列目のやや左寄りにメリルちゃん。奥にはエマさんとか炭玉さんも居る。

 時々小芝居が入るのだが、何言ってるかわからないので、それが残念。

 ヒューさんやメイドちゃんは笑ってるので、コントなのだと思う。



 妖精さんによる歌謡ショー付きの食事が終わると声を掛けられ、いよいよ魔法練習の時間か?

 呼び出されてメイドさんに付いていくと、後ろから部屋に屯していた妖精さんが一斉に付いてくる。

 この妖精さん、みんなギャラリーだったの?

 舘を下がり、湯浴場へと案内された。

 ここで魔法の練習? と思ったけど違った。

 軽く汗を流してから、新しく用意された服に着替えろというらしい。

 着替えを終え、さらに案内されるまま付いて行くと、開け放たれた扉から人が溢れている部屋へと連れていかれた。

 ちょっとした集会室くらいの広さがある部屋だ。

 部屋の端に大きなソファーが鎮座していて、手前と両サイドにも同じくらいのソファー。

 両サイドのソファーには、俺より歳上な品の良さそうなおっさんたちが座し、手前のソファーにはイケメンと魔法使い、それに侯女ちゃんが座っている。


「あちらの方々は」


 と言って、メリルちゃんが右サイドに座るおっさんたちを指す。


「かなり、魔法のワザに、すぐれた方々デスな」


 見ただけで力量とかわかっちゃうんだ。

 その中の一人にヒューさんが頭を下げている。侯都にある魔法学校の教授的な人達らしい。

 なんでそんな大物が?

 というか、魔法学校やっぱりあるんだ。

 メリルちゃんにチョロッと魔法のいろはを教えて貰うだけのつもりだったんだけど、想定外のイベント化してる。

 妖精直々に魔法開眼と指導を行なうなんて、極めて珍しいイベントなんだとか。



「今日は、よういちさんに、魔力の道を開きます」


 観客?を向いて中央のソファーに座った俺の前、手を伸ばした距離のやや下方にホバリングしながら、メリルちゃんが俺に言った。

 言われるままに両手を伸ばすと、メリルちゃんが俺の両中指の先をそれぞれ摘む。

 俺の両手とメリルちゃんで円環が出来る形だ。

 と、周囲がザワつく。


「*****」


 こちらに何やら声を掛ける魔法使い。


「*****」

「*****」

「*****」


 メリルちゃんが振り向いて、魔法使いと言葉を交わしウムウムと頷いている。

 先生もやってきた。

 手、下ろしてもいい?


「皆さん、ニホンの言葉が、わからない、そうです」


 話を終え、元の体勢に戻ったメリルちゃんが、俺に説明してくれる。

 ああ、そうだろうな。

 教授陣の後ろに立っていたヒューさんが俺の横に陣取り、その少し前に先生がスイーっと並ぶ。

 どうやら二人が同時通訳につくことになったみたい。

 準備はいいかとヒューさんと先生を見るメリルちゃん。

 二人からOKの合図にメリルちゃんが頷く様子を見せ、


「今日は、よういちさんに、魔力の道を開きます」


 メリルちゃんが俺の指先を摘み仕切り直した。

 この間、俺は腕を下ろすタイミングを失っていて、もう既にだるいんだが。

 と、両肩の辺りからゾワゾワとした感触が腕を這うとともに、両腕をなにかが這い下りていく。

 木の根?


「よういちさんを流れる、魔力のユラギは、テトラが抑えるので、心配いりません」


 俺の両腕を外骨格のように覆っているのはテトラさんの手足らしい。

 かなりガッチリと押え込まれている。

 やり過ぎて腕がボンってなりそうになったら、テトラさんが魔力を逃がしてくれるので大丈夫ってことらしい。

 腕がボンってなるの?

 聞いてないんだけど。

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