領民の2割から3割がランボーとかサイヤ人とか紅魔族
人をダメにする系のデカクッションにドカリと持たれながら、ボヘーと果樹園を眺めている。
柵がないので、こんな格好でも見晴らしがいいのが素晴らしい。
手元には冷たい飲物と甘い焼き菓子。
やばい。こんな生活、絶対太るやつだ。
でも、イケメンといいヒューさんといい、みんなスタイルいいんだが。
お貴族さまがこんな生活してたら、ぜったい太るだろ?
毎朝トレーニングなんかもしてるようだし、単純に運動量が多いせいなのか?
「まほうツカウ。オナカへりマス。やせる、ナリます」
ほうほう。魔法の行使とかでカロリー使うのか。魔法はMP消費じゃなくてカロリー消費か。
運動不足対策にもいいんじゃないか。
この間の成人病検診でいろいろと値が劣化してたんだよな。
魔法トレーニング、ますますモチベーションあがるぜ。
とはいえ、魔法の練習は午後からと言われている。
まだ8時を少し回ったくらいだろ?
午後まで結構な時間があるんだが、何をして時間を潰そうか。
先生たちが来るまではiPadの充電をしておきたいから本を読むとかも出来ない。
あとここでのんびりしながら出来ることってなんだろう。
そうだ。ちょっとこの世界の社会常識って奴を教えて貰おう。
「ソレで、チイキのダイヒョウ、オウさま、アタマに……」
この国の政治体制についてヒューさんに聞いているのだが、異世界ラノベにある絶対王制とはちょっと違うようだ。
ちゃんと国王は居て、終身だが世襲ではなく、崩御に際して一部貴族による互選で次を決めるというのが続いているらしい。
そもそも国王に特別な権力があるわけではなく、どちらかというと貴族間の調整役っぽい。
この国はもともと都市国家がまとまって大きな国を作ったらしいのだが、その時に規模の大きな国同士が睨みあって、調整役に駆り出された小都市の代表が国王として祭あげられた様だ。
単一国家というよりも連邦制な感じか。
話しの通じない精霊がいて、妖精さんが神様全否定なので、王権を神授とするようなストーリーが成り立たないことが権威不足の理由だろう。
さらに領主にあっては、領民を締め付けるような悪政を敷くと、領民が武装蜂起しちゃうらしい。
支配者/被支配者に武力差が乏しいのだ。
魔法という所有制限不能な武力があり、話し半分としても大体領民の2割から3割がランボーとかサイヤ人とか紅魔族な感じっぽい。
ただ、悪政を敷かれても暴動が発生することはあまりないようだ。
領民の移動に関して大した制限がかけられていないので、高額な税を掛けたりすると、商工業者はおろか農民すら他の領地へ逃げてしまうのだとか。
元世界の感覚では国から逃げ出したりすると難民化して困窮してしまいそうだが、この世界ではゼロスタートでの開拓すらなんとかなっちゃうらしい。
ラノベの主人公がチートで農業無双するそのままを、普通の農民が魔法を使ってできるので。
だからみんな、国を捨てることにあまり迷いがないし、人を受け入れることにも抵抗がないみたい。
こういうのを遊牧民気質って言うのかな。
そんな気質だから、熊の人とか大猿の人とかトカゲの人とかも普通に労働力として受け入れられているのだろう。
「すらむ? ですか?」
ヒューさんなんかはエリート層だから知らないだけかもしれないが、すくなくとも侯都近郊には貧困層というのも見かけないそうだ。
貴族階級と市民階級と言う支配/被支配の間にはそれなりの各差はあるようだが、それは支配者の負うべき義務に対する手間賃として許容されていて、市民階級内での各差はそれほどないのだとか。
市民階級には『偉くなってもメンドクサソウだし』と言えるくらいの生活レベルはある。
プロ経営者が億の報酬貰っても、『まあそれくらいの仕事はしてるんじゃないの?』と納得とまではいかなくても、シャーナイで済ませられている。
よく新聞で、“最近大手の新入社員は役職を上がりたがらない”とか書かれていたけど、丁度そんな日本の若者感覚に近いっぽい。
それでも当然ながら成長するのに困るような子が生まれたり、某かの不幸やらで人生をドロップアウトしてしまう人も居るのだけど、そういうのは人権が認知されていない社会なので、割と平気で間引かれてしまうというのが、メリルちゃん情報。
転落しにくい様に社会保証はそれなりに整備されているものの、一度転落すると再生の機会は無いっぽい。
更生させるなんて考えもほとんどないし、ましてや再犯なんかは即終了だと。
優秀な経営者層はかなりドライにコストをカットするし、それが市民階級に認知されているようだ。
俺も初手から被害者ぶって荒れてたりしたら、ばっさりと物理でカットされてたのかも知れん。
元世界とくらべると一見文明レベルは低そうだけど、とにかく一次産業での生産性が高いのがポイントなのだろう。
魔法の存在が無双してるせいで、文明レベルも一概に低いとは言えないところが多々ある。
むしろ土魔法のおかげで食糧は安くて豊富だし、土木建築系インフラも充実。
魔法で素材が簡単に作れて加工も出来ちゃうから、家内制手工業レベルではあるが、工業製品も潤沢。
東南アジアでは『池を一つ持ってると勝手に海老が増えるので、それを売って暮らせば普通に生活出来る』という都市伝説を聞いたことがあるが、そんな感じなのだろうか。
したがって領主たちは支配領域の拡大に対する執着がなく、自分の領域を管理するだけで十分満足できるし、むしろ精いっぱいらしい。
ざっくりとしたイメージだと、王様=財界の調整役、上位貴族=儲かってる同族経営の大企業、下位貴族=家族経営の中小企業。
領民はみんなホワイト企業勤務で、ブラック企業とかはすぐに潰れちゃうし、基本経済成長を目指さないので、それが1000年変わることなく続いているのだ。
「エキビョウ? オオクのひとシヌ、ヤマイですか? 1000ネン、ありません」
魔法使いや妖精さんの知識なんかで公衆衛生の概念や医療水準が高く、疫病なんかここ1000年発生してないのだとか。
エマさん級の妖精さんや、それに準じる魔法使いは少なくない数いるらしい。
メリルちゃんに聞くと、どうやら癌もそれなりに克服してる感じ。成人病とも無縁ぽい。
そういえば、この世界の医療系魔法は、“ヒール”を唱えて意味不明に直すんじゃなくて、結構しっかりした医療概念をもとに治療行為がなされてるっぽいことをメリルちゃんも言ってたっけ。
なので、当然のことながら、乳幼児の生存率はかなり高い。
そんな社会情勢なので、未開社会にありがちな多産推奨なフリーSEX制ではなく、戸籍管理のされた婚姻制度が制定されているそうだ。
「ケッコンする、オソイです。コドモ、すくないデス」
そして結婚年齢も高く、30前に結婚して子供は2ー3人というところ。
因習とかでの強制婚と本人希望の恋愛婚は、貴族で7:3。市民層では4:6くらい。
なので結婚をしない人/出来ない人もそれなりにいるので、人口減少まではいかないが人口増化もあまりなく、全般的に低成長社会のようだ。
ちなみにヒューさんは家に跡継ぎの男子が既にいるので、結婚は本人の意向次第で今のところ希望なし。ケイトさんとメイドちゃんは希望ありらしい。
だいたいメイドさんは希望ありのようだが、俺のことは眼中にない雰囲気をひしひしと感じる。なんだろう、この別枠感。
なんだかありがちな異世界ものと全然違う。
主人公が異世界チートで無双するところを妖精さんの後押しで既に果たしてしまった後の世界と言う感じか。
電話とか自転車とか飛行船とか、“距離の概念を覆す道具”にイケメンたちが飛びついてるのも、ヒューさん曰く“子供心をくすぐるから”らしい。
実は『金になりそうなんで飛びついたか』とかゲスに勘ぐってしまって申し訳なし。
あ、先生がやってきた。
今日はサミカちゃんと後二人。一人は多分炭玉さんだと思うが自信はない。
「おはようございます」
挨拶を交わし、メリルちゃんに今日の予定を聞くと、先生たちはウンウンと頷いて充電に行ってしまった。




