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魔法式流体レンズ製単眼鏡

 魔法の練習は昼からということで、さてそれまでどうしようか。

 ボーッとしながらカップに注がれたお茶を一口すすった。

 おっと、イケメンと侯女ちゃんが退出するらしいので、慌てて立ち上がろうとしたら、イケメンに片手で制された。

 ヒューさんは座ったままだし、そういう作法じゃないみたいだ。

 イケメンと侯女ちゃんが部屋をでたところで、思いっきり伸びをする。

 まだ8時前だ。昼過ぎまでには5時間以上ある。


「とりあえず、みんな待ってるから部屋へもどろうか」


 俺の言葉に「おーっ」と手をあげるメリルちゃんとエマさん。異存はないようだ。



 お屋敷をくるくると歩き部屋へと向かう内廊下の途中、日の差し込む向こうに広いテラスがあるのに気がついた。

 俺の部屋と反対方向。

 この辺りだと、たぶん果樹園とかが見えるんじゃないだろうか。

 気になる。

 テラスへの廊下をのぞきこむ俺に気がついたヒューさんが先導するメイドさんを呼び止めると、メイドさんは頷いてテラスへと続く廊下へと道を変えた。

 短い廊下の先には、10畳ほどのテラスがあった。

 風が気持ちいい。

 テラスの端へ進むと、大きな池と、池を跨ぐ渡り廊下が舘から続いているのが見える。

 渡り廊下の途中にある東屋が、醗酵倉の帰りにホットサンドを食べた東屋だろうか。

 池の先には果樹園の丘が広がっている。

 こうなってたのか。


「ニワ、みえる、やすむ、ヨイですか?」


 ヒューさんがなにか聞いてくるのだが、庭、見える、休む、良い?

 庭の見えるところで時間潰すかってことか?

 メリルちゃんを通すと、そういうことらしい。

 是非に。と希望し、準備する間少し部屋で待つようにとの返事を貰う。

 内廊下へ戻って少し進み、滞在している部屋へと戻る。

 妖精さんがまた増えてないか?

 リビングにまで溢れている。

 とりあえずソファーに腰を下ろしマッタリとしていると、ベッドルームをのぞきこんでいたメリルちゃんが戻ってきた。


「まだ先生は、来てないデスね」


 ウムウムと頷いているメリルちゃん。

 こんなに早く来られちゃうと、俺のiPadを充電する時間がなくなっちゃうよ。

 おや、テトラさんも一緒に来た。

 なるほど、テトラさんの手足の指先が枝根みたいになってる。


「今日は、テトラが、手伝いますので、すぐに魔法を、感じられる、デショウ」


 なにが起こるのかわかりませんが、よろしくお願いします。デスです。とご挨拶。



 『とりあえずは英気を養うと良いですよ』というメリルちゃんの助言に従い、メイドさんの煎れてくれた緑茶っぽい飲物をハフーと飲んでいると、別のメイドさんがやってきた。


「ジュンビが、出来たそうです」


 一瞬何のことかと迷ったけど、果樹縁側の眺めが良い場所で、休む準備のことらしい。

 いろいろと手間を掛けているような気がするが、段々なれてきてしまっている。

 今はまだお客さん扱いだけど、今後どうなるのかわからない。

 贅沢にはあまり浸からないようにしておかないと、あとで困るかも。

 メイドさんを雇うのには、月に金貨何枚の収入が必要なんだろうか。

 市井のメイドさんなら、オールワークスで半金貨一枚ならなり手がいるんだろうか。

 なんならフルタイムでなくてもいいのか。

 電鉄系の会社とかがやってた、週一の家事代行なんかが頼めればいい。

 そういうのないのかな。

 シェアメイド。

 なんかエロイ響きがする。

 ヒューさんに聞くと、そういうサービスはないらしい。

 案内してくれるメイドさんに聞いてもちょっとポカンとした感じ。

 だがジワジワと響いてきたのか、ヒューさんが俄然同意し始めた。

 案の定、ヒューさんも割と炊事洗濯家事全般ダメな感じらしい。

 一人暮らしのダメな大人には、あると嬉しいサービスだよね。


 てなことを漠然と考えながらメイドさんに付いていくと、内庭側の部屋に案内された。

 広さは俺にあてがわれている部屋のリビングとほぼ同じ広さ。

 ただ庭側が壁一面床まで大きく開口していて、その先に奥行き3メートルくらいのベランダが広がっている。

 ソファーとテーブルが片隅に寄せられていて、テラスへ出る敷居の辺りにデカクッション。

 眺望重視のためなのか、テラスの先にてすりがないんだが、危なくないんだろうか。

 テラスの先端まで這うようにして進むと、先端の少し手前で頭になにか柔らかいものがぶつかった。


「クウキのカベ、あります」


 ヒューさんがスタスタとテラス先端まで歩いてきて、ポンポンと見えないテスリを叩いて見せる。

 練兵場の柵にあったマジカルエアバッグに似たものがついているらしい。


「魔法を、感じられるように、なれば、コレも、見えるように、なるでしょう」


 そういってメリルちゃんが、マジカルエアバッグ(俺には見えない)に蹴りをかます。

 おっかなびっくり立ち上がって触ってみるとクッション材を張り付けたような感触のなにかが確かにある。

 良く良く見ると、テスリの縁に当たる部分が、なんとなく空間が歪んでいる?

 空気の密度が違うから、屈折率が微妙に違って、縁の辺りに影響が見られるんだろう。


 デカクッションにヘタリ込んで、屈折の話から望遠鏡の話に。

 望遠鏡や単眼鏡はあるらしい。

 ただ話していてピント調節機構の構造で話があわないなと思っていたら、レンズの屈曲率や屈折率を魔法で調節してピントをあわせる構造になってるらしい。

 レンズの材質がガラス質の固体じゃなくて、粘性の高い透明な液体なんだと。

 魔法制御式流体レンズ製の単眼鏡ということだ。

 まさにマジックアイテム。


「トオくミる、つつ、ありマス」


 ヒューさんがそう言い残して走っていく。

 とおくみるつつ?


「ボウエンキョウのこと、ですかな?」

「ああ、ヒューさん望遠鏡を持ってるのか」


 丁度お菓子を運んできたメイドちゃんに聞いてみると、望遠鏡や単眼鏡はそれほどお高いものではないらしい。

 お貴族様ともなると、一家に何台か死蔵されている感じなのだとか。

 子供の頃に一度はねだる玩具っぽい。

 もっとも、お高くないと感じるのはお貴族様だからかも知れないが。

 部屋に持ってきていたのだろう、さほどの時間も経たずにヒューさんが何やら子供っぽくデコられた30センチほどの筒を持って戻ってきた。


「トオくミる、つつ、デス」


 バードウォッチング用の単眼鏡といったところか。

 子供の頃に、魔法の勉強の一環でヒューさんが工作したものらしい。

 覗く側に箱がついてるが、もしや。

 貸してくれるので覗かせて貰うと、やはり正立像が見える。

 三角形二個の正立プリズムが組み込まれているとのこと。

 レベル高いな。


 果樹園の端で人が集まっているのが見えるので、単眼鏡で覗いてみる。

 ??

 ピント調節に魔法が必要らしく、ピントが動かせない。

 あ、なんかピントが動いた。

 あ、後少し、ちょっと過ぎた。


「あ、あ、あ……そこ!」

「こんなカンジですか?」


 覗いていない方の目を開いてみると、筒の半ばにあるピンク色のデコ宝石?をエマさんが叩いている。

 あのピンクの宝石に流す魔法の量で流体レンズの厚さとか配置を変えてピントを調節するのだとか。

 エマさんが調整してくれていたそうだ。


「こういう細かいシゴトに、エマはツヨイですな」


 とはメリルちゃん談。

 ところで、果樹園の端では、大勢集まって梁を建てているようだが、何をしているんだろう。

 その答をテトラさん達果樹園組の妖精さんが知っていた。

 跨座式モノレールを敷いているって?

 昨日、俺が農業用跨座式モノレールの話をしたらしい。

 全然覚えてない。

 でもそれを昨日の今日で敷設するか?

 フットワークが軽過ぎじゃない?


「マチのソト、ヒコウセン、つくる、とち、ヨウイ、しました」


 何故かニコニコ顔のヒューさん。

 え?

 郊外では飛行船の建造計画がすでに発動済み?

 ちょっと、大丈夫か?

 ベンチャー精神溢れるどころか、アドベンチャーなイケメンだな。

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