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串揚げ(揚げてない)とばぁむくうへん

 この世界では、動物すら魔法を使うらしい。


「ニクを、たべるものたちは、キバやツメを、ツカうほうが、てっとりバヤイ、ていどですな」


 草食の動物が、ちょっと若葉を落したりする程度で、火を付けたり、木を切り刻んだりするわけではようだ。

 生活に根ざしてる感がハンパない。

 炎のブレスとか吐く魔獣とか居ないかと聞いたら、メリルちゃんが凄い不思議そうな顔をした。


「ヒをフく? なんのイミがありますか?」


 確かに、野性動物が火を吹く必然性は無いな。

 でも火蜥蜴とか言ってなかったっけ?


「あれは、そういうセカイにイキるイキモノですからな」


 へー。火を吹く事に意味のある世界か。

 なんか火事ばっかり起きてそうな世界だな。


「クビながい、います。こんなの」


 いつの間にか戻ってきていたヒューさんが、床に四つん這いになり、頭の先に手を伸ばして床を突つく仕草をする。

 キリンよりも首長竜っぽ感じなのか?

 ヒューさんは、学生時代フィールドワークで行った南のサバンナで見たことがあるそうだ。

 うら若き乙女がこんな格好していいんだろうかと思いつつ、軽く咳払い混ぜて、一旦休憩。

 メイドさんにお茶を入れて貰おう。


「動物園っていうのはないのですか?」


 お茶を待つ間に、動物園の説明。

 さほど珍しい動物はいないが、触れ合い牧場っぽい施設とかは近郊にあるらしい。

 こんど連れていって貰おう。


「×△*も、ミに、イきませんとな」

「×△*の、ボクジョウ、イクますか?」

「ああ、ドラゴンか鯨かって。見に行きたいね」


 俺の返事を聞いて、ヒューさんがアテンドしてくれることになった。

 触れ合い牧場も一緒にまわれるらしい。

 実に楽しみだ。



 コミックを1話分翻訳し終わったところで、メイドさんが夕食に呼びにきた。

 今日はこのまま部屋着で行くようだ。

 そういえばヒューさんも部屋着っぽいのに着替えてる。


「ムコウ、へや、モライマシタ。ニモツ、オク、あるデス」


 ヒューさんは別のブロックに住み込みで居るらしい。

 フットワークが軽すぎる気がするが、文化の差なのか?



 今日の夕食はちょっと狭め、とはいっても実家のリビングより遥かに広いから、20畳はあるだろうテーブル席の部屋。

 侯女ちゃんや魔法使いも居らず、ヒューさんと二人きりだ。

 まあ、メイドさんやらシェフがぎっしり控えてるけど。

 そう。今日もまたシェフがやってきて、テーブルの先でライブパフォーマンスを繰り広げている。

 どうも串物を揚げているようなんだが。

 ただ、串を揚げていると思われる調理道具が油の入ったフライヤーではなく、謎の壷だ。

 壺の中に油はおろか、液体が入っている様子はない。

 その謎の壷の中に粉まみれの具材が刺さった串を突っ込んでしばらく経つと出来上がる。

 串焼きかと思ったら、揚がってる。

 やっぱり魔法でなにかしているらしい。

 メリルちゃんとヒューさんが説明してくれる。

 二人とも魔法の専門家だから簡単に言うけど、“油で揚げたことによって起こる熱的変化を再現する魔法”とかって言われてもさっぱりだ。ノンフライってこんなだっけ??

 魔法の履行を前提としたこの世界独自の謎な調理器具だが、出来上がった料理はまごうことなく串揚げだ。

 これを濃厚なウスターらしきソースか塩で食べる。

 粗挽きの蕎麦粉で揚げたらこんな感じになるだろうと思われる風味と味わい。

 若干の香ばしさもありサクサクとした衣と柔らかくそして適度にハゴタエのある具材。

 町の居酒屋でソースに浸して食べる庶民派の串揚げとは違う、高級店の塩で食べるやつっぽい高級感があふれている。

 素材も良いものなのだろうが、なによりも揚げ加減が絶妙。

 あと油で揚げてないから多分ヘルシー、なのがうれしい。あくまでも多分だけど。

 肉、海産、野菜。

 どれもとても美味しいが、出されたものを次々と、18本ほど食べたところでギブ。

 一口サイズで色々味わえたのが満足感を底上げしている。


 お茶を飲んで胃を整えている間にも、ヒューさんはパクパクと追加を食べている。

 良く入るもんだ。若いって素晴らしい。


 気がつくと、食後のデザートだろうか。

 メイドさんが二人がかりで、クッションの様なものが巻き付いた太い木の棒を抱えて来た。

 デパチカで良く見かける焼き立てのバームクーヘンの様だ。

 その棒を台座に載せ、ゆっくりと回転させながら、シェフが甘酸っぱい柑橘系の香りが漂うクリームを塗り掛けていく。


「キのボウ、マワスながら、くりーむカケて、フトく、ヤきマス」


 やはりバームクーヘンか。


「ばぁむくうへん?」


 そう言って顔を傾げるメリルちゃん、ちょう可愛い。


「芯になる棒の表面に生地を少しづつかけて、薄い層を焼き重ねて作るケーキですね。日本でも人気の焼き菓子です」


 たぶん台座の間にある石版の様なものが、加熱器になっているのだろう。

 バームクーヘンが熱せられて、甘い香りが強くなってくる。

 柑橘系のクリームは、ただの仕上げコーティングかと思ってたら、結構ガッツリと数層分焼きあげている。


 やがてシェフの手が止まり、木の棒が台座から下ろされた。

 焼きあがったバームクーヘンをどうするのかと思ったら、シェフが木の棒をトントンと叩くと棒が一瞬虹色にひかり、スッと抜けてしまった。

 なんかこんなところでも、手軽に魔法が行使されている。


 トントントンと、真中辺りがカットされる。

 扇状に切り分けられたバームクーヘンが綺麗な花の模様が施された磁器の皿に盛られ、メイドさんの手により運ばれてきた。

 甘い生地の香りと、柑橘の甘酸っぱい香りがお皿から漂ってくる。

 美味しそう。


「ああ、トオく、ニシにある、ヤマくにの、ヤキカシですな。このネンリンもように、オボエがあります」


 どうやら見知ったお菓子らしい。皿の向こうからのぞき込んでいたメリルちゃんが、ウムウムと頷いている。

 三分の一くらいにカットして、一切れを口に運ぶ。

 まず外輪の、甘酸っぱい柑橘系味がする焼けた皮が舌をなで、その後から甘く柔らかなスポンジが口の中に溶け広がる。

 思わず笑みの浮かぶ、デパ地下で行列が出来る系のバームクーヘン。


 二切れ目に手を伸ばしながらヒューさんを見やると、年輪を一枚一枚剥ぐよ

うにして、とても嬉しそうに食べている。

 やっぱりバームクーヘンはそうやって食べるよね。

 でも、マナー的にはいかがなものなのか。

 許されるのか、彼女が傍若無人なだけなのか。

 聞きようもない。


「*****」

「*****」

「もうイチまい、どうですか?と」


 え? おかわり?


 おかわりは断る。

 これそんなに食べたらカロリーがどれだけになるか心配だ。

 俺の返事になんとなくメイドさんが嬉しそう?

 ずいぶん残ってるけど、残りはスタッフが美味しくいただくらしい。

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