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泡立ても魔法の道具で簡単

 お付きの面々、機動隊の皆さんに囲まれて、イケメンが無事救出されたようなので、妖精さんズに声をかけ、再び電動バイクを走らせる。


「フーンフフンフン、このせっかっいっじゅーうーぉぉ、フフフンフンフフーンフーンフーン」


 今度は登りだ。

 かなりきつい。走りゃしない。

 そういえば、電動バイクの旅番組でもそんなこと言ってた気がする。


「とまりましたな」


 足漕ぎとか頑張ったけど、坂を3分の2程上がったところでついに電池切れ。

 フロントフォークに付けた篭から、メリルちゃんが振り返って見上げている。

 サミカちゃんが残念そうにシート下からふよふよと浮いてくる。

 まあ単一電池ほどの電源でこれだけ走るとは、エボルタくん以上に頑張った方だろう。


「えーと、この魔法石に充電するのにどのくらいかかります?」


 充電バイクを横倒しにして、魔法電池を指さしながら聞くと、サミカちゃんがペカッと顔を輝かせ、魔法電池に両手で正拳突きを繰り返す。

 ペチペチと魔法電池を叩くに連れて、なんかモヤッとした雲のようなものが魔法電池を覆い、吸い込まれていく。


「チカラ、まほうせきに、ハイッテいくデス」


 いつの間に追い付いたのか、俺の隣に並んでしゃがみこんだヒューさんが、驚いた様子でその行為を指さしている。


「えっ? これで充電できてるの?」

「まわりの、でんきを、タタキこんでいます。びじゅあるは、サービスですな」


 とりあえず充電されてるらしい。サミカちゃんの正拳突きとモヤモヤは単なるパフォーマンスとエフェクトだって。

 いつものメリルちゃん節が炸裂してるけど。


 とにもかくにも、仕組みは良くわからないが、自然充電以外に強制充電も可能ってことか。素晴らしい。魔法万歳。

 でもサービスのパフォーマンスはわかりにくいよ。ラブいから賛成だけど。

 たいした時間も掛からず、サミカちゃんのパフォーマンスが終了。

 これで充電完了らしい。

 えへへ、っと照れ顔のサミカちゃんが可愛い。


「*****」

「*****」

「*****」

「*****」

「*****」


 いつの間にか集まっていた魔法使いズが、サミカちゃんに話掛けては頷いている。

 なにかが分かり合えているみたいだ。

 俺も魔法が使えるようになれば、理解できるようになるのだろうか。


 よいしょと電動バイクを起こし、サミカちゃんが定位置についたのを確認して再スタート。

 いやー、ラクチン、ラクチン。

 今度はパワフルに登っていく。もしかして、さっきの登りはエコモードだったのだろうか。

 俺は先導するヒューさんのクロスバイクを追って、かるーく風を感じながら軽快に電動バイクを走らせた。


 屋敷正面の坂を登りきり、玄関前のロータリーを折れて屋敷に沿って進む。

 長い。

 フランスかイギリスの離宮かってくらい長い。

 こうして電動バイクに乗って余裕噛ませていると、改めてその長さに呆れる。

 そうか、ご両親の侯爵様が新宿あたりの場所に済んでるんだから、ここってマジで領主様の離宮か。

 納得の長さである。

 敷地は皇居くらいあるんじゃないだろうか。裏庭には果樹園もあったしな。

 屋敷の端で曲がり、馬車溜りまで進むと電池に勢いを感じられなくなり、馬車庫の脇からアプローチを進んで工作室に到達したところで再び電池が切れた。

 登りでパワーを使い過ぎたか。

 市場まで電動バイクで買物に行こうと思うと、片道で魔法電池が10個ぐらいは必要かもしれない。

 まだまだ改良の余地は大きい。

 そんなことを考えながら電動バイクを下り、足元を見下ろすとサミカちゃんと目があう。

 うん。とりあえずはスタンドだ。

 親方を呼んで、足掛けの辺りにスタンドをつけて貰おう。

 誰か親方呼んでくれませんかね。


 やってきた親方に、電動バイクにはセンタースタンド型、自転車には片足型のスタンドを取り付けてもらう。

 みんな今までどうしてたのかと思ったら、タイヤ軸のチェック用に作ったハブに付ける武骨なスタンドを複製して使ってたらしい。

 試乗でしか走らせていなかったから、ここにあれば十分だったみたいだ。

 もしやと密かに期待してたんだが、さすがにマジックエアバッグで押えて立てるような技は使ってなかった。

 ちょっと残念だ。


 工作室に入ろうとしたところでケイトさんに捕まり、俺たち一行は中庭にある日当たりの良い芝生に案内された。

 白いタープの下、芝生に高級そうなラグが敷かれ、クッションが積まれている。

 靴を脱いでラグにあがり、クッションに包まれるようにして座る。

 風は無く、タープ越しの日射しが柔らかで心地いい。

 ラグから少しはなれたところにテーブルが置かれ、看護師のような衣装の女性が、スタバでクリームを盛るボトルに似た器具を操作している。

 お昼は食べたし、オヤツかな?



 向かいに並べたクッションの上でラブライブのダンスコピーに勤しむ妖精さんたちを眺めながら、ルンルン気分で待っていると、カップのはまったお皿を持ってメイドさんがやってきた。

 なんだか、春秋の野外宴会シーズンに合わせて100均で売るBBQ用の小皿みたいな形のお皿だ。

 小皿にはまったカップには湯気の立つ紅茶らしき飲物。皿の部分には、紫色と紅色のムースっぽいものが載せられている。

 添えられたスプーンで、紫色のムースをすくって口に運ぶ。

 甘くて美味しい。そして爽やかな酸味。

 なんか柑橘系のフルーツムースだ。


「これは、あそこの取ってが付いたボトルで作ってるお菓子ですか?」


 皿をラグに置いて身振り手振りを交え、隣に座っていたヒューさんに尋ねる。


「はい。トッテにマホウいれます。ビンのなかみ、アワになります。フワフワ、おいしいデス」


 軽く身振りを交えて説明してくれるヒューさん。

 メリルちゃんの補足によると、わりと古くからある伝統的な調理法らしい。

 そして、パクリとムースを一口で食べ終えると、大きく手を振って看護師姿のパティシエを呼んだ。


 ヒューさんに呼ばれ、パティシエが篭を手にやってくる。

 篭の中にはムースの素材が入っていると思われるボトルが4本。

 あと2種類の味があるということか。

 パティシエと一緒にやってきたメイドさんが、手にした板をヒューさんの前に開くと簡易テーブルに早変わり。

 その上にパティシエが篭を置き、ヒューさんが小皿を載せる。

 俺も急いでテーブルに走り寄った。


「*****」

「*****」

「*****」

「モモとオオダマブドウ、リンゴとイチゴだそうです」


 ヒューさんがパティシエとなにを話しているのかと思えば、何味があるのか聞いてたみたいだ。


「桃は果樹園で飲んだやつだよね。オオダマブドウってのは?」

「いぜん、こられた、ニホンのかたが、ヒトツブがオオダマだが、あじはブドウだと。オオダマブドウだと」


 大玉葡萄か。


「オオダマブドウ、ヒトツ、このくらい、オオきいデス」


 そういって拳を握って見せるヒューさん。

 握り拳大の葡萄?

 味と瑞々しさが葡萄に似ている果物で、俺の知る葡萄と別もので、房で実るわけでははないそうだ。

 リンゴとイチゴは、見た目も味も林檎や苺とほぼ同じらしい。

 桃とか葡萄とか苺とか、メリルちゃんに果物の名を伝えた日本人は、味重視で名付けたようだ。

 話しをしている間に、パティシエがヒューさんの皿にムースを盛っている。

 あ、良く見てなかった。


「じゃあ、俺はさっきのと別の2種をください」


 俺→メリルちゃん→ヒューさん→パティシエの順に俺の要望が伝わり、その隙に俺は自分の小皿をテーブルに載せ、パティシエの前に陣取る。

 パティシエが篭の中からボトルを取りだし、その先端についた取ってを握ると、取っ手が微かに輝き、ボトルの先端からニュルッとムースが絞り出されてくる。

 うわー、クリームよりもっと濃厚な紛れもないムースだ。


「トッテ、まほうせき、ハイってマス。まほうツカウ、ガスでます。ビンのシルが、アワたつデス」


 取っ手に仕掛けられた魔法石に魔法を込めると、ガスが発生してボトルの中の果汁がムースになって出てくるのか。

 なんて言ったっけ、エスなんとか? スペインでわりと最近開発された調理法がこんなだったような。


「アワだて、おかしツクル、きほんデス」


 ケーキ作りで必須の泡立て工程は、これで出来ちゃうらしい。

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