マジカルエアバッグ
ちょっと大型でパワフルな三極式モーターを作って貰っているところで、ヒューさん再登壇。
「コウシが、コウボウに、クル、しました」
イケメンが工房で待ってるらしい。
東屋の階段下でメイドさんがお待ちかねだ。
丁度いい。このモーターで電車と電動バイクを動かしてみようじゃないか。
ヒョイっと三極式のパワフルモーターを持ち上げようとして
「オモテー」
あれよあれよという間に妖精さんたちが作り上げた三極式モータ。
10センチ角くらいの大きさなんだけど、かなり重い。
そうか、鉄の塊だもんな。
これ抱えて工房まで行くのか。
俺が呆然としながら腕をさすっていると、モーターをヒューさんが持ち上げる。
「コレは、オモイです」
やはりヒューさんでも重いらしい。でも、片手で持ってるけど。
俺のひ弱さがより一層際だつ。
だって、しょうがないじゃないか。
ヲタエンジニアのモヤシッ子なんだから。
おっさんだし。
メイドさんが一人、どこかへと走っていく。
男手を呼びに行ったらしい。
よろしくお願いします。
工房へ戻ると、イケメンたちがケーブルカーを前にしてはしゃいでいる。
はしゃいでいるは失礼か。角付合わせているっていうのかな。
そんななか、俺は邪魔にならないようソーッと工房へ入ると、親方と木工さんを捕まえ、最初に作った小型の直流式ブラシ付モーターを取り出し、電動車の作成に取り掛かる。
車軸に歯車をつけて、モーターを繋ぐだけの簡単な仕事だ。
しかし車軸は台車に対して回るように付けてあるので、本来なら車両に乗せたモーターと繋ぐには複雑な機構が必要になるが、今回のところは簡略化して駆動輪は台車に固定して繋げてしまう。
電動車の車両作成は手慣れたものであっという間。車軸とモーターの連結も、構造を簡略化したため親方がありものの歯車であっという間に組み付けてしまう。
まあ当然の事だが、イケメンを始めとする面々が、興味津々で覗き込んでいるが、とりあえず無視。
電動車の車輪を浮かせて、モーターに魔法の電池を繋げばジージーとギア音を立てて車輪が回転する。
イイいいんじゃないか。
一旦モーターを止め、電動車に客貨車を繋いで線路に並べる。
ふと思いついて一工夫。
電動車の前方にバンパーを取り付け、それに力が加わると電池からの配線が切り替わって、モーターが逆回転して戻ってくるようにしてもらう。
さあ、いよいよ試運転だ。
「出発進行ー」
かけ声とともにモーターを作動させると、客車を引いた電動車が動き出した。
客車には先生と妖精さん二人が乗り込み、電動車の上にはモーターの脇にサミカちゃん。そして運転手よろしくメリルちゃんが先頭に陣どっている。
グライダーや竹とんぼほどの派手さが無いせいか、特に喚声が上がるでもなく、ゆっくりと線路を走り始め、向こう側の壁にぶつかって、仕掛け通りにバックで戻ってくる。
イイいいんじゃないか。イイいいんじゃないか。
戻ってきた電動車は、イケメンが拾いあげ、早速モーターをばらし始めた。
解説はヒューさんとサミカちゃん、そして先生にお任せ。
俺は親方と木工さんを確保して、パワフルモーターを使った電動バイクの作成だ。
小型自転車のペダルを外してモーターをギアに直付けする。
後輪を浮かせて動作試験。
結構パワフル。
どうせたいしたパワー出ないだろうとたかをくくっていたが、もしかしてヤバイ?
「サミカが、つくので、ダイジョウブだと」
シートの下を覗くと、サミカちゃんがスピードの出し過ぎは抑えてくれるらしい。
サミカちゃんへの指示用として、ハンドルにレバースイッチをつけて貰う。
手前に引けばスピードアップ。離すとスピードダウン。
ワイヤーで引かれてサミカちゃんの前にある丸穴の裏で板が動き、赤黄青に変わるだけだけど。
ホント大丈夫か?
イマイチ不安はあるけど、ちょっと走ってみるか。
残念ながら、電動バイク一号は篭なしだ。
それでも妖精さんたっての希望によりハンドル前に妖精さん席を取りつける。
木工さんに蔦細工で、台所によくあるチープなワイヤーネットに引っかける調味料立てっぽいものをつくって貰い、ハンドルに掛けるだけ。
死なば諸とも。
妖精さんはご機嫌なようなので大丈夫だろう。と、思いたい。
工作室の外へ電動バイクを引いていく。
若手の魔法使いたちが、走っていく。
行けそうなら玄関スロープを下って朝に寄った練兵場まで行きたいんだけど?
イケメンからOKが出た。
簡易で作ったヘルメットとプロテクターを装備。
イケメンと魔法使いが小型自転車に乗って先を行く。
ヒューさんも自転車で隣を併走する構えだ。
クロスバイクだけど大丈夫?
本人が自信まんまんで頷いてるから大丈夫なんだろう。
アクセルレバーを倒して、さあ、出発だ。
発進加速は昔乗ってたスクーターなみ。
あっという間に馬車溜りに到達してしまい、スピードを抑え気味で玄関スロープへ向かう。
「さーすらおぉぉ、フフフンフンフフーンフーンフーン」
お笑いタレントが電動バイクで旅をする番組の主題歌を口づさみながら、玄関前のスロープを走り下りて行く。
途中で小型自転車組をあっさり追い抜き、朝に来た練兵場の柵前で停車。
シート下をのぞき込んで、サミカちゃんとサムズアップを交わす。
実用化にはスピードのコントロールの手段を考えなきゃだけど、なかなかいいんじゃないか。
ぼすん!
大きな音にびっくりすると、イケメンが柵に突っ込み掛けてなんかおかしなことになってる。
自転車に乗ったイケメンが、斜めになって、わずかに宙に浮いているのだ。
柵とイケメン+自転車の間、そして地面とイケメン+自転車の間に、見えない何かがある?
「クウキの、カマタリが、アルのですヨ」
メリルちゃんはそういうのだが、空気のカマタリ?
カマタリ、カマタリ??
「! カタマリ、ですか?」
考え込んでいたメリルちゃんが、ハッと気がついた感じで言い直す。チョウ可愛い。
なるほど空気の塊か。
おお、こんなコントをかましている場合ではなかった。イケメンは特に怪我とかしている様ではないが、バイクを置いて、イケメンのもとへと駆けつける。
ハハハと爽やかな笑顔をイケメンが見せているので怪我とかは大丈夫なのだろう。
おかしな格好になっていても、イケメンはイケメンのままなのが羨ましい。
「ここに、なんかあるよね」
触ってみると、イケメンと柵の間に、ふよんとした透明な塊がある。
「まほうで、カタメた、クウキの、カタマリですヨ」
さっそく妖精さんズが飛びついてはポヨンと跳ね返って、遊具扱いしている。
イケメンの自転車が止まり切らなくて、誰かが魔法でエアバッグを展開したらしい。
マジカルエアバッグか。便利な魔法もあるもんだ。
挟み込まれると身動きが取れないようだけど、手触りは人をダメにするクッションみたいで感じいい。
おっと。
あまり保つものではないようで、何気なく押していたら急に抵抗がなくなってびっくり。
柵の内側からも完全防備の機動隊員さんが何人も駆けつけてくる。
「このボウ、つよくセマル、ハタラク、シカケまほうデス」
追いついてきたヒューさんが、柵の横木を叩きながら教えてくれる。
エアバッグは非接触のセンサー式か。相変わらず謎のすごい技術力。
ヒューさんによると、この柵はいちおう軍事拠点の守りなので、暴徒の襲撃に際した拘束用の意図もあって、マジカルエアバッグの魔法が柵に仕込んであるのだとか。
今朝、柵によじ登ってたのはやっぱり不味かったのかも。
まあ今回は、イケメンに怪我がなくってなによりだ。




