魔法石駆動の空気浮揚式鉄道
メタルフレームの自転車がそれぞれ2台づつ出来上がり、魔法使いたちは走行試験に出かけていった。
学研肌の二人はヒューさんと一緒にスペアのチューブタイヤをいじり回している。
親方を除く職人さんたちは、再び自転車の作成を始めている。あと三台ずつ作るよう言われているらしい。
そして皆の去った後の作業場で、俺は親方と一緒に指三本程の幅で線路を敷設していた。
ほぼほぼ親方任せであるが。
皆がそれぞれに仕事を始め、俺がメイドさんのいれてくれたお茶を手にハァーと腰を落ち着けてメリルちゃんに問われるまま列車とかケーブルカーの仕組みを解説していたら、じゃあ作ってみようってなったのだ。
部屋の端から端までで15メートルくらいの線路が敷設される。
さらにヒューさんと木工さんにも手伝って貰い、ゴムと木と鉄で3種類の車輪を作り、2軸の台車二組づつを長さ30センチくらいの板に固定する。
線路の上に鉄輪を転がしてみるが、なんか引っかかる感じがする。
身振り手振りにメリルちゃんとヒューさんを動員して、線路の表面を磨いて貰うよう親方にお願いする。
親方も職人だけあってか、線路の上に鉄輪を転がしてみせる姿に、すぐに意図を察した様子で、工具箱から石鹸のようなものを取り出した。
「石鹸? ワックス? 油がけじゃなくて、磨いて欲しいんだけど」
俺のつぶやきを伝え聞いた親方が、『任せておけ』てな感じで線路の上面を手にした石鹸?でなぞる。
あら不思議。みるみる線路が磨きあがっていく。
表面を手でなぞってみても、ワックスとかではなく、ちゃんと研磨されている感触だ。
なに、その深夜の通販番組に出てきそうな便利グッズ。
「あれも魔法グッズ?」
「ですな」
俺の素朴な疑問にメリルちゃんの簡潔なお答え。
「アレでナゾルします、ツルツルなります。タイラむつかしいデス。オハダにはツカエません」
線路が二本とも同じ高さでまっ平らに仕上がっている様に見えるのは、親方の熟練の技らしい。
あと最後の情報は鉄板ネタか。
クッキーなど摘みながらぼんやりと待っていると、さほど時間も掛からずに親方が線路を磨き終える。
「三種類での違いが確認したいので、ちょっと離れてて貰えますか?」
妖精パワーで走ってしまうとわからなくなるので、車両代わりの板に座ってワクワクしている妖精さんたちには一端どいて貰い、ゴム輪の車両を走らせる。
車両はコロコロと線路の上を走り、真中までいかないで止まる。
次の木輪の車両は10メートル程進んで停止、鉄輪の車両は端まで届いて壁に激突した。
思った以上に走ってしまった。車止めが必要だったようだ。
「*****」
「*****」
「*****」
メリルちゃんを始めとする妖精さんとヒューさんが、車輪を手に角つき合わせている。
「鉄は表面がツルツルに仕上げてあるので、引っかかりがなくて転がり易いです」
俺の説明を伝え聞いた親方が、なにか心あたりがあるのだろう、頷いている。
「あと、鉄は硬くて変形しにくいので、その分エネルギーの損失も少ないはず」
そんなレクチャーをしながら、親方に鉄輪の台車を2両分追加で発注。
追加の2両は横板を張って貨車っぽく仕上げる。
木工さんには車両の幅に合わせて片側2人掛けのベンチシートっぽいものを10個程つくって貰い、板に張り付けてみる。
覆いもなくシートがむき出しだけど客車一両、貨車二両編成のこの世界初の鉄道模型が完成だ。
できた3両を連結し、貨車には貨物代わりに鉄の塊を載せ、客車に妖精さんを跨らせて線路を走らせる。
「あっ!」
向こう端で、妖精さんが魔法パワーで止めてくれると思いきや、凄く楽しそうに突っ込んで激突。
勢いでふっ飛んだ妖精さんたちは、そのまま床を転がりながら大笑いしてる。
3両ともがふっ飛んで、脱線大破の大惨事になってるんだが。
丁度工作室に入ってきたメイドさんが、その激突音にビクッとして、手にした荷を落しそうになった。
二次災害発生案件だ。事故調査委員会発足だ。ブレーキパッドの開発が急務だ。
何じゃコリャといった風情で線路と車両に視線を這わせながら、メイドさんが手にした荷を机に並べ始めるが、どうやら昼食っぽい。
もうそんな時間か。
ワーイ、飯だー。と俺の心は机に並んだ食事に移っているが、ヒューさんは車両を拾いに反対側へと行ってしまった。
彼女の心はもう鉄道模型に奪われている。
仕事が楽しいのは何よりだけど、メリハリは大事にして欲しいのだが。
先に一人で食べ始めるのもちょっと大人げないかと思い、椅子に座ってメリルちゃんと議論を続ける。
「ていこうが、ひくければ、よいのですか?」
「ですね。浮くのが一番かと」
ほほうとメリルちゃんが頷くので、簡単な気圧浮上の実験をすることにした。
2メートル程の長さで線路幅の金枠を親方に組んで貰う。
その上から、少し落し込むようにして細かく穴の空いた薄板を張る。
そしてメリルちゃんに頼んで、金枠と薄板の間に空気を送り込んで貰う。
要するにエアホッケーの台だ。
薄板の上に台車を外した貨車を乗せて、細かく空いた穴から洩れてくる空気の勢いを調整して貰い、そのまま貨車を抑えた手をヒュッと振ると、ビュンっと貨車が走っていく。
側板だけで、前後に板が張ってなかったのも功を奏した感はある。
たぶん前後に板があったら、空気抵抗で途中で吹き飛んだだろう。
貨車に付いて飛んで行ったメリルちゃんが、向こう端から今度は貨車に立って戻ってくる。
なんかサーフィンしてるみたいだ。
空気の調整魔法は、いつの間にかヒューさんが請け負っていた。
「チカク、できます。トナリマチとどかせる、むつかしいデス」
さすがに魔法じゃムリか。
気圧浮上式鉄道を観察していた妖精さんが、メリルちゃんとぼそぼそと話を始め、ウムウムと頷くメリルちゃん。
「まほういしは、おもちですか?」
「今日は持ってきてないな」
ポケットをまさぐりながら応えると、話を聞いたヒューさんが、いつの間にか戻っていた若手魔法使いの元へ走って行き、魔法石を喝上げてきた。
マジ喝上げっぽかったんだけど。引くわー。
で、喝上げしてきた魔法石二つに妖精さんがなにか回路を書き込み、貨車サイズの板に穴を空けて前後二箇所にはめ込む。
「アナのないイタを」
というメリルちゃんの指示に従い、気圧浮上式列車実験線路の床板を張り替えてもらう。
線路に新型台車?を置き、妖精さんが魔法石をトントンと叩くと、板がフワリと浮き上がり、落ちる。
「イシしたに、クウキを、アツめてみたのですが、うまく、いきませんな」
板の下に空気を集めた? あ、ホーバー!
大分の工場に出張した先輩が乗ったことがあるって言ってたアレだ。
俺はメリルちゃんに柔らかめのゴム膜を作って貰い、板の下にぐるりとスカート状に張り巡らせた。
線路に置いた台車を妖精さんがトントンと叩く。
台車はフワリと浮き、こんどは落ちないで浮いたまま。
「おおっ」と声があがる。
そのままゆっくりと台車を手で滑らせると、ツーと台車が飛んでいく。
魔法石駆動の空気浮揚式鉄道の走行試験大成功だ。
ファンがないので静かで、かつエコっぽいのが素晴らしい。
と、案の定線路の先で大激突。まあ止め方はおいおい考えましょう。




