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芯金入りのチューブタイヤ

 しばしお茶を飲んで寛いだ俺は、さて、と考え、芯金入りのチューブタイヤを作ってみることにする。

 馬車に付いてた複合素材のタイヤや、昨日のチューブレスより、ゴムチューブの方が快適だろう。

 思ったようなものが作れるかは別だけど、方向性さえ示せれば、あとは何とかしてくれるよね。

 うまいこと出来れば、馬車とかにも応用が効くし。

 あとは変速機も欲しいんだが、あまり機構に詳しくないってのもある。

 フレーム担当さんに断って、鉄棒と太めの針金をもらい、ぐるっと見回すと作業台の隅に万力らしき道具を発見。

 3センチ径くらいの鉄棒を万力で固定し、ちょっと太めの針金を巻き付けていく。

 これでコイルを巻いて、ゴムチューブの芯にするつもりだ。

 本物だと網状に編んであったりするらしいが、とりあえずのサンプルとしては十分だろう。

 なかなか良いアイデアだと、ウヒヒと笑いながら針金を巻いていく。

 スルッと巻けるかと思って始めたけど、針金は長くて扱いにくいし、意外と力が必要で掌と指が痛くなってくる。

 軍手が欲しい。

 やっとの思いで10周ほど巻いたけど、想定以上に巻きがガタガタで不細工だ。

 メリルちゃんがチョウ笑ってる。

 作業半ばで諦めて、机に座ってヤサグレていると、見かねたのか、親方がやってきた。


「*****」

「*****」

「*****」

「どれクらい、ほしいデス?」


 不様に巻き付いた針金をみて、可哀想な子を見る目で尋ねてきたので、長さを考えていなかったことに気付きハッとする。

 作業台の上にばらしてあった木製の小型自転車からホイールを取ってきて、巻いたコイルをあてがいながら、グルッと一周分欲しいと身振り手振り。

 俺のワタワタとした説明をメリルちゃんとヒューさんが分かり易く伝えてくれたらしく、頷いた親方は、鉄棒を持って熊の人が座る奥へと行き、なにか作業を始めた。

 ゴトゴトと音を立てるので、熊の人を避けつつ覗き込むと、なんと旋盤が。

 旋盤というか、木工用のろくろなのかもしれないが、こんなものまであるんだ。

 そういえば工房街では足踏み式のミシン使ってたっけ。

 親方が旋盤の主軸に太い棒を固定してクルクルと回しながら、針金を巻き付けていく。

 針金の長さが足りなくなると謎魔法で継ぎ足し、50センチほどのコイルを4本作ると、さらに2本ずつ繋いで完成。

 出来上がったコイルをグルッと輪にして両端を繋いでもらい、メリルちゃんにコイル部分をゴムで覆ってもらう。

 うむ。芯金入りのゴムタイヤっぽいじゃないか。

 こんな何もない作業部屋で芯金入りのゴムタイヤが出来ちゃうなんて、魔法って不思議。


「この管の中に、空気をいっぱい詰めたいんですが、なんとかならないですか」


 出来上がったタイヤの空気充填をメリルちゃんに丸なげ。

 正直、空気穴のことなんか全然考えてなかった。

 しかし、空気穴を開けてないのに妖精さんの一人がタイヤをポンポンと叩くと何故か空気が充填されていく。

 さらに親方が持ってきた金属ホイールに、興味深そうに見ていた熊の人を呼んで、熊パワーで填め込んでもらう。

 をぉ、なかなか良いんじゃないか。

 あんなに簡単に空気が充填できるなら、空気入れる前に填めてもらうべきだったが、ささいな事だ。

 床に弾ませて様子を伺うが、昨日のチューブレスタイヤもどきより良い感じに仕上がっている。

 親方に渡すと感心した様子で観察しているので、針金を網状に並べてヒューさんにゴムで覆ってもらい、中の芯材はこっちの方がいいかも的な説明をしたが、わかってもらえただろうか。


 そうこうするうちに、Fフレームの小型自転車が出来上がった。

 どこで擦り変わったのか、メインフレームは直線の横棒からペダルの付け根でへの字に曲がった、おしゃれでカッコいいデザインに仕上がってる。

 何処かで見たデザインだと思ったら、昔欲しかったルノーの折り畳み自転車に似てるんだ。

 タイヤをつけて上から体重を掛けたりしてみるが、特に強度面でも問題なさそう。

 チタンやアルミといった難易度の高い加工材を苦もなく加工して見せる魔法技術に恐れ入る。

 本当なら凄い溶接設備とか曲げ加工機とか必要なはずなんだが。


 妖精さんがなんかフロントフォークの又を叩いて何かいってるんだけど?


「ここ、ヨワイ、いってるデス」


 指摘を粘土細工のごとく肉盛りして修正できるんですか。そうですか。

 金属の接合加工に全く熱を使わないんだが。魔法って素晴らしい。


 親方にハブで固定するスタンドを作って貰い、両輪を浮かせて固定。

 両輪を手で回したり、ペダルを漕いだりしてガタツキなど確認。

 素人目には全然問題ないように見える。

 試乗してみようとヒョイッと持ち上げると凄く軽い。

 これがチタンフレームの小型自転車か。

 その軽さに感動しながら試乗しに外へ出ようと扉へと向いたとき、メイドさんが手頃な藤かごっぽいものを持っているのを見かけてしまった。

 このおしゃれ自転車のフロントに篭を付けるのは邪道か?


「あの篭、貸して貰えないかな」


 俺の一言を受けて、お茶の道具を入れてきたらしい篭を、ヒューさんが借りてきてくれる。

 屋敷の備品だよね? 権力にあかせて私物を接収してきたのではないと信じてます。


 親方に頼んで、フロントフォークに篭を付けて貰う。

 篭には傷を付けないようにお願いしますね。


「まあ、悪くはないんじゃないかな」


 篭の付いた小型自転車を俯瞰してメリルちゃんに同意を求める。

 ちょっと自転車と篭のデザインが微妙だが、そこはおいおい修正して貰うとして。


 いつの間にか篭に入り込んでいる妖精さんが俺を手招きしている。


「ちょっと一周、試乗してこようと思うんですけど」


 メリルちゃんに声を掛け、自転車を転がして裏へと出る。


「馬車の駐車場まで行って戻ってきます」


 馬車の止まっていた辺りを指し示しつつ、グルッと手を回して見せると、ぞろぞろと付いてきた魔法使いたちが先へと走っていく。


「すこしマツ、おねがいします。カレたち、サキデまちますデス」


 さほど待つでもなく短い笛の音がして、これが準備OKの合図だったらしい、ヒューさんからもOKを貰い、出発進行。

 メリルちゃんも、妖精さんズとならんで篭のなかから頭だけだして、キャッキャとはしゃぎだす。

 駐車場までゆっくりと漕ぎ進み、駐車場の広いロータリーで、軽く風を受けるほどの速さで三周。そしてまた、のんびりとコケない程度の速さで作業小屋へ。

 申し分無さそうだ。

 小屋の入口で自転車を止めると、妖精さんたちは大満足な様子で篭から飛び出してゆく。


 追いかけてきた魔法使いたちに自転車を預け作業小屋へと戻ると、丁度クロスバイクのフレームが完成。

 メリルちゃんとヒューさんに、タイヤの設置面やトレッドパターンの形状と安定性の関係を、自動車タイヤのカタログを思い出しながら説明していると、親方がタイヤの芯金を巻き終えてゴム加工を頼みに来たので、心持ちクロスバイクのタイヤっぽく仕上げてもらう。

 良いんじゃないか。

 チェーンも張り終わり、タイヤを取り付けて、クロスバイクの完成です!

 俺が作ったわけでもないけど、ドヤ顔で辺りを見回すと、書類書き担当の二人がスペアで作った小径タイヤをいじり回してブツブツと言いあってた。

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