軽くて丈夫でありふれた、安価な素材
一団の視線を浴びてしまい、挨拶の仕草をしつつ、オッカナビックリ部屋へ入ると、手近な机の端に立って辺りを見回す。
奥からガチャガチャと音がするが何だろう。
魔法使いの集団に会釈をしつつ、奥が気になって覗こうとすると、ちょうど妖精さんが一人飛んでいくところだった。
と、木工さんと職人さんがやってきて、なにか言いながら挨拶の仕草。
たぶん名乗ってるんだろう。
アルカイックなスマイルを浮かべつつメリルちゃんに視線を動かすと、金属加工師の親方と弟子とのこと。
俺も自分を指さし名前を名乗る。
「***やまのち***」
親方らしき人が、俺の名前らしき単語を口にしながら頷いている。
外資系の本社スタッフが来社したとき程度のファーストコンタクトには成功したようだ。
すなわち名前を覚えてもらうだけ。もちろん相手の名前は分からないまま。
それにしても癖の強いドワーフ親方みたいなのじゃなくて良かった。
「*****」
親方がガチャガチャと音をたてる方に、大きな声をあげると、音が止まり、小僧が二人、立ち上がって挨拶をしてくる。
三人だけじゃなかったらしい。
親方×1、弟子×2、小僧×2の大所帯だ。
「あれ、何やってるんですかね」
小僧さんたちをこっそり指さしながらメリルちゃんに聞くと、ちょうど妖精さんが何か小さなプレートを持って、戻ってきた。
瓢箪型の薄板。チェーンのプレートか。
「これを、うちぬきで、ツクっているそうです」
いつの間に準備したのか知らないが、チェーンのプレートを打ち抜きで作り始めてるらしい。
「*****」
「*****」
「*****」
挨拶に来た弟子のうちの一人がパイプ材を3本出してきて、なにか言ってる。
「ジテンシャ、ボディーします。どのボウ、ヨイか?」
ヒューさんがメリルちゃんに頷きながらパイプを机の上に並べる。
「この重そうなのは鉄ですか?」
3本並んだパイプの、端の一本を指しながらメリルちゃんに質問。
鉄にしてはピカピカなんだが。
「これはサビないテツですな」
「錆びない鉄?」
ステンレスのことだろうか。
「そのトナリは、カタいケイギンなのです」
硬い軽銀? ジュラルミンとかか?
「それは、」
そう言って3本目を指さしたメリルちゃんは、なにか空を指さしながらブツブツとつぶやき、
「22バンは、なんといいますか?」
と聞いてきた。
「22番??」
「はい。ゲンシバンゴウのヒョウで、こんなキゴウでした」
といってメリルちゃんがTとiを書く。
「チタン?」
持ってみると、確かにアルミより軽い。でもチタンて。
「ケイギンもチタンも、ありふれたザイリョウですから」
確か地球では地殻含有量でベストファイブに入る豊富さを誇る材料だった筈だが。
この世界の謎精錬にかかれば、チタンは軽くて丈夫でありふれた“安価”な素材らしい。
チタンフレームの自転車なんて、30万とかしちゃうんじゃなかったっけ?
「是非チタンで」
パイプ材を持ってきた人はフレーム担当らしい。
俺の返事に頷くと、パイプ材をもって作業スペースの方へと歩いていった。
しかしメリルちゃん、周期表なんてちょっと見せただけなのに良く覚えてるな。
俺なんかスイヘーリーベで20番までもうろ覚えなんだが。
次にやってきた職人さんは、ドーナッツ状の金属部品を持っている。
もしかしてベアリング?
開いて中を見せてもらうと、ベアリングはボールではなく、円柱を使った円筒ころ軸受だった。
へえ、馬車の車軸にもついてたんだ。
あるならもちろん使いますよ。
「*****」
「*****」
「*****」
職人さんのさらなる言葉にメリルちゃんが首を捻ってる。かわいい。
「ウシロの、ワは、ハグルマと、ヒトツにして、よいかと、きかれているのですが?」
「*****」
「*****」
「ジクまわる、ワまわる。ワまわる、ジクまわらない」
輪回る、軸回らない?
ヒューさんの説明でなんとなく理解。
「ああ、後輪の軸には、ラチェット付けてください」
簡単な図面と手振りでラチェットを表現すると、職人さんが頷いてくれる。
ラチェットの機構もあるっぽい。
俺が図面を描くたびに書類担当の二人がのぞき込んでほっとした顔をしている。
そんなにホイホイと新しい技術なんて出てこないよ。
作業を始めた金属加工さんたちの指導は木工さんにまかせ、俺はお茶にしたいんだが。
メイドさんは、いない?
熊の人たちの向こう側にそれっぽいのがあるんだけど、飲んじゃっていいの?
「*****」
「*****」
「アレ、カレらヨウ。アジ、ウスい。カオリ、ダメ。オイシクないデス」
そういえば、獣人は薄味のほうが好いんだっけ。香りもダメなのか。
こっちには特に水指しとかも用意されて無さそうなんだけど。
「オチャたのむ、メイドつくるデス」
メイドさんに頼むと出来たて淹れ立てを持ってきてくれるものらしい。
淹れ置きの冷めた飲み物とかとんでもないって。
さすがお貴族様は違う。
じゃあ、熊の人達にはいいのかってことだが、特に差別があるわけではなく、獣の人たちは熱いのも冷たいのもダメで、人にとっては香りの抜けた、冷めて温くなったくらいの飲み物が合うのだそうだ。
依頼主を訪問して、出された香り高い高級茶葉の飲物を顔で笑って心で泣いて飲むのが獣人あるあるらしい。
確かにラノベとかで、戦闘や探索では獣人たちの感覚が鋭敏としておきながら、味の濃い現代料理を旨いといいながら食べ尽くすのには違和感あったんだよな。
あ、ケイトさん、それお茶ですか。どうもすみません。




