えべれーた
異世界感台無しな迫撃砲を始めとする近代兵器が俺の前に披露される。
たとえば弓で矢を撃つのかと思ったら鉄棒が白煙を曳いて飛んでいったとかそんな感じ。
もちろん爆破魔法の詰まった手榴弾なんかもあるらしい。
これで犯罪者の人権とかなにそれ状態なので、暴徒鎮圧とかかなりエグいことになるのではないだろうか。
人権とかいいながら結局射殺しちゃう地域より、最初から戦車で引いちゃう地域の感覚?
なんというか、掃除が大変そうだね。
ただ、幸いにしてこの世界は魔法農業のおかげで食糧生産性は高く、また派手な戦争もアレな戦況の繰り返しで途絶えて久しく軍事費などが抑えられているためか、経済的に豊かで、政情は安定していて、そんなこんなで機動隊や軍隊の出番はほとんどないらしい。
衣食足りて礼節を知るである。
柵を挟んで機動隊の皆さんと和気藹々としていると、ガタゴトと背後から音がして、振り向くと本道に馬車が止まったところだった。
目を凝らすと、馬車の窓から、こちらを向いた侯女ちゃんが手に持った竹とんぼをくるくると回して見せていた。
女子会へのお出かけのようだ。
俺がボウッと見ているうちに、前後に四頭のちょこぼ騎士を従えた馬車が、再び動きだし、門を通り抜けていく。
回りの皆さんは胸元で手を重ねる朝の挨拶の仕草。あれが挨拶のフォーマルのようだ。
とりあえず挨拶の時は、朝夕関係なく胸元で手を重ねるポーズをすれば大丈夫っぽい。
俺も慌てて胸元に手を重ねるが、肝心の侯女ちゃんはすでに門を通り抜けてしまっていて、間抜けなこと甚だしい。
でもケイトさんとか、俺の仕草を見てウンウンと頷いているから、間違いではなかったのだろう。
馬車を見送っていると、フヨフヨと俺の視界に入ってきたメリルちゃんが、屋敷の方を指さしている。
振り向けば、屋敷の方からヒューさんが走ってきていた。
なんだ、あの軽やかな走りっぷりは。
そういえば侯女ちゃんも、フィジカル強いし。
この世界はイイとこのお嬢さんでもそういう感じなの?
「*****」
「*****」
「*****」
「ジカンです。カジヤさん、キました」
と、あっとゆう間にやってきて、しばらくメリルちゃんとやりとりしていたヒューさん。
金属加工担当の人が、もう来てるらしい。
しかし、日本語はまだ二日めだろ? うまいもんだ。
「こういう時には、メイドさんが呼びに来るもんじゃないの?」
文化的な違いなのかどうか、メリルちゃんに確認すると、
「タクサン、にほんご、キイて、ハナす、したいです」
メリルちゃんに教わって、ヒューさんがフンスと息を荒げながら話しかけてくる。
自分から志願して、はるばると俺たちを呼びに来たらしい。
まあ、この辺りの人にとってははるばるって距離じゃないんだろう。
それとも魔法で体力アップとか、身体を軽くして跳んできたとかあるんだろうか?
とにかく、ヒューさんはどうも知的好奇心が抑えられないタイプっぽい。
これで実はイケメンへの仕事できるアピールでしたとかだと、女性不審になるな。
とりあえず機動隊の皆さんに別れを告げ、練兵場でころげ回る妖精さんを呼んで、母屋へと続く坂道へと歩みを進める。
あー、動く歩道かエスカレーター欲しい。
「“えすかれーた”とは、デンキしかけの、カイダンですな」
俺のつぶやきにメリルちゃんが反応。
「デンキシカケのカイダン?」
ヒューさんも聞きなれない言葉に反応を見せる。
「別に電気仕掛けじゃなくてもいいんだけど、」
と、だらだらと歩きながら、チェーンに三角の箱をぶら下げるポンチ絵を描いて見せる。
「このチェーンを回すのは、そこの川の流れを利用した水車とかでいいと思うんだけど」
母屋を見通す用水路と緩やかな坂道をラフにスケッチし、今歩いている道にエスカレーターを追加する。
なんか葉っぱとか砂利で、すぐに詰まっちゃいそうだな。
「“えべれーた”とは、ちがうもの、ですか?」
「えべれーた?? ああ、エレベーター! エレベーターは、箱を滑車で吊り上げる乗物で、」
これもザックリとした構造図を描いて見せる。
「クマのひとが、ヒモをひっぱるのが、ニアゲの、そうこに、ありますな」
ヒューさんに俺の言葉を伝えながらフムフムと頷くメリルちゃんに、他の二人の妖精さん、ヒューさんまでが、首を縦に振っている。
単純な仕組みは、荷揚げで猿の人がやってたのと変わらないからな。
熊の人とか、猿の人のパワーがあれば、誰でも考え付く道具ではあるか。
と、横で話を聞いていたケイトさんがメリルちゃんに声をかけた。
「*****」
「*****」
「*****」
「クマのひとがひっぱるエレベーターは、ちいさなものが、たてものの、はじにあるそうです」
昨日作ったワゴンは便利だけど、エレベータに載らないから、エレベータ大型化してくれって要望が、早くもメイドさんからあがってるそうだ。
「なるほど。そのヒモをマキアゲルのに、エンジンが、ほしいのですな」
エレベーターがあるなら、列車と一緒にケーブルカーとか提案してみるか。
などと算段したものの、この表道は普段馬車が通るだけで、要らないんじゃないかって。
この程度の坂で音を上げるのは、この世界じゃ俺くらいなもんらしい。
あのフル鎧の騎士さんたちも、このくらいの道のりは、フル鎧着たまま平気で駆け回るんだって。
ヒーヒーいいながら母屋まで戻り、さらにグルッとまわって裏手へと向かう。
身長よりも高い生け垣に囲まれた洋風庭園を通り抜けた先、ガレージだろうか、馬車が何台か止まっている。
あ、ここ、昨日メリルちゃんが気球で流されたところだ。
チョコボ小屋と林を横目に更に進むと、昨日の工作室へとたどり着いた。
扉の前で、ハァハァと息を整える。
ヒューさんはさっきからやたら元気だし、ケイトさんもケロッとしてる。
二人とも良家の令嬢の筈なのに、都会のもやしっ子あがりのオッサンとくらべて、基礎体力に差があり過ぎる。
そうか、これが文明に毒されると言うことか。戦前の日本人も頑強だったらしいしなぁ(遠い目)。
心配そうに俺をのぞき込む妖精さんズは重力の鎖から解き放たれてるっぽいんで別枠だろう。
そもそもメリルちゃんは、最初から俺の頭の上で垂れてるし。
ラノベ界隈じゃ山の中に突然転移して、山賊倒しながら町まで歩くのがデフォだけど、俺なら、まず山賊にであうとこまで歩けてないだろ。
いかんいかん。急に疲れがきて、なんか怒りっぽくなってる。
膝に手をあて、息を整えながら窓から覗くと、木工さんが3人の職人風の人達を相手に、木造自転車を手になにやら説明をしている。
その横に、魔法使い風の一団と、学研肌の二人。たぶんあの二人は昨日夕食の時に論文書いてた人。
額に滴る汗を拭ってくれるケイトさんにラブを感じながら、中へ入るタイミングを伺おうとしてたら、ヒューさんがバンッと大きな音を立てて扉を開けはなった。
「*****」
なんだろう、一団に大声をかけて、こっちに手を差し出してくる。
“お連れしました!”とか言ってるんだろうか。言ってるんだろうな。
この人、思った以上にテンション上がりまくってんじゃない?
皆の注目を浴びてしまい、仕方ないので引き攣った笑いを浮かべながらスゴスゴと扉を潜る。
うぉ、手前の奥になんかモサッとしたのが動いたと思ったら、熊の人がお茶してた。




