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魔法を生かした調理法は、料理の一分野を形成しているらしい

 彼女の名前も発声し辛い音が多用された長い名称なのだが、愛称がヒューというらしいので、それを使わせてもらうことにする。

 この人、なにげに伯爵家の御令嬢だった。

 どうやら、特にお貴族様の呼称というのは、『地方名.所領名.爵位.領主との属柄.個人名』という構成になっているらしく、ほにゃらら地方にあるホゲホゲの領主である伯爵家の次女ヒュー某、というのが正式名称らしい。

 なんか相撲の呼び出しみたいだと思ったのは許して欲しい。

 さらには地方名が“なんとか侯領の北にある××連峰の西側の麓”みたいな名前なので、いちいち長ったらしくなるようだ。

 国が大きく成るに従って、地名に重なりが生じて、どちらも譲らずに使い続けた結果の名乗りのままに、こうなってしまったのだとか。

 地方名と所領名の二段構成になっているのは、地方名=所領名の直系の爵位の他に、地方名を冠する公侯伯爵の下に傍系の爵位が沢山あるためなんだとか。

 相撲の呼び出しと言うよりも、大会社の名刺みたいだ。

 俺も会社では、なんとかセクターかんとか事業部ほにゃらら部ほげほげ課××チームの誰それだったし。

 正式な文章の署名には苦労するらしい。

 学生ならテストの答案に名前書くだけで時間とられるんじゃないかと心配したが、通常は“所領名+爵.個人名”で事足りるので、それで済ませるのだと。


 そんな話を聞いていたら、イケメンがやってきた。

 イケメンに対してフラットな言動のヒューさん。

 金持ちで性格のいいイケメンを見たら、普通の女子はもう少しリアクションあるんじゃないの?

 メイドさんも、そこはかとなく態度に差があるよね。

 もしかしてこの人、技術ヲタのちょっと変わってる系?

 なんてことを考えつつも、メリルちゃん頼みでイケメンの話に耳を傾ける。

 改めてヒューさんの紹介がイケメンからあり、しばらく俺に付いて日本語の会話と読みを学ばせるとのこと。

 かなり気さくな様子だけど、どうやらも御学友だったっぽい。

 その失敗談を話すのは止めて上げて。


 コミックの翻訳で学ぶ日本語はちょっと問題ありそうな気がするけど。

 魔法使いなんてリケ女だろうから、適当に化学の教科書でも混ぜれば大丈夫かな。

 昨日はあっさりゴムの合成をして見せたし、きっと理解できるだろう。


 朝食の用意が三人分で、ここには三人。

 特に侯女ちゃんを待つではなく朝食に手を伸ばすイケメン。


「侯女ちゃんは?」


 とメリルちゃんに聞くと、ヒューさんが早速何を言ってるのか尋ねてくる。

 メリルちゃん、大忙しだ。

 そして、お嬢様は女子会の支度で時間がないらしい。

 ああ、女性の支度に時間が掛かるのはどこも同じですか。

 ちなみに、イケメンも良い所のお坊っちゃんなので、公式の場へ出るときは支度には半端なく時間が掛かるらしい。

 その点、モブな庶民は気楽で良い。


 ヒューさんにいちいち日本語の解説をしていたら、いつの間にかイケメンは三個目のお握りを手にしている。

 俺もお握りを手にとって、まずは炊き込み風のご飯を観察。

 なんか凄い野菜エキスの香りがする。

 ひとくち含めば、ジワーッと野菜スープの味が口に広がる。


「これは凄く野菜スープの味わいが強いですね」


 俺の感想を聞いてメリルちゃんが朝食の回りを飛び回る二人と会話。


「たいた、こくもつの、すいぶんを、ぬいて、スープに、おきかえて、いるのだそうです」


 マジックドライで乾燥して、野菜スープで戻すらしい。

 そういえば、防災用に買った保存食の野菜ジュースに、そんな方法が書いてあったな。

 アルファ米でやるともっとベチャリとした感じになると思うのだけど、魔法のなせる技か。


「****」

「****」

「****」


 ああ、調理として確立した方法だから、米のモチモチ感がきちんと残されているんですか。

 俺とメリルちゃんの話に交ざりこんだヒューさんが教えてくれた。

 魔法を生かした調理法というのは、マジックドライを始めとして、料理の一分野を形成しているらしい。

 へえ、このお握りは、さらに真空密封して、低温で味を染み込ませることで、べちゃりとならないようにしているんですか。

 低温調理法とか含浸法とかっていう真空調理機を使った調理方法と同じことな気がする。

 真空調理法は、元世界ではそれなりの設備が必要な調理テクニックだったんだけど。

 そういえば加圧調理も圧力鍋じゃなくて、土鍋にグルッと輪を書いただけの魔法使ってたっけ。

 こんな調理を鍋釜だけでなんなくこなすなんて、異世界グルメもの全否定だな。



 朝食を食べ終えると、イケメンは格好良く手を振りながら去っていった。

 これから激務が待っているらしい。

 昨日、グライダーを飛ばしたり、自転車に乗って遊んでいたせいだ。

 自業自得である。

 ヒューさんも一度戻るそうだ。

 金工の人が来るまでにまだ時間があるみたいだし、そのあいだ何をするか。

 ぐるりと見回すと、人の気配が消えた鍛錬場が目に入る。

 そういえば、この間は表門の近くで機動隊の人達が朝練してたけど、今日もやってるかな。

 プロテクターとか銃とか見せてもらえないだろうか。


「ちょっと表門の方でも散歩してみようか」


 いつの間にか控えていたケイトさんに確認をとるとOKとの返事なので、それではと立ち上がる。



 舘の正面へ回るだけで結構歩いた感がある。

 思ったよりも長い距離を歩いて舘の正面にたどり着き、車寄せの端に立って表門へと続くなだらかな坂を見下ろす。

 真直に伸びた一枚板で舗装された広いアプローチ。左右に芝と水路。

 遠くに正門が見える。町中ならバス停一つ分くらい。

 表門へと続くアプローチ脇、滔々と流れる水路の縁を歩きながら、正門横の練兵場?を目指す。

 水路は階段状になっていて、結構な水量と勢いがある。

 幅は3メートルくらいか。飛び越えられそうにはない。

 そのためか、所々に石橋とか飛び石が設置されていて、それが景色のアクセントになって飽きさせない。

 メリルちゃんはフンフンとアニメソングを口ずさみながら俺の頭上を不動の位置としているが、あと二人の妖精さんは水路に突っ込んだり芝の上を転げたりしながら付いてくる。


「石橋や飛び石は、非対称に配置されてるんですね」


 芝の上からそのまま石舗装の上まで転がってゆく妖精さんを追って反対側の水路にまで目を向けた俺は、ふと気がついたことをメリルちゃんに漏らす。


「これは@▲▲□|△#ようしきですな」


 石橋に装飾のないただの石板を敷いてあるだけなのや、左右非対称で配置するのはそこそこ新しい様式らしい。


「*****」

「*****」

「せんだいが、けっこんまえに、つくりなおした、そうです」


 ふーん。と思いながらぐるりと見回す。

 ありゃりゃ、正面玄関が結構高い位置にあるぞ。

 これ、戻るの大変なんじゃないか?

 ちょっと後悔しながらだらだらと歩をすすめ、練兵場の境と思しき1メートルほどの高さの柵までたどり着いた。

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