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透過型マジックコピー

 俺が食後のデザート(今日はパンナコッタみたいな食べ物だった)を堪能した後も皆さん何やらお話を続けているようなので、失礼ながらおいとましようと思うんだが。

 メリルちゃんは残るの?

 まあ部屋に戻るだけだし、何とかなるから大丈夫。


『へや、もどる。ひとり』


 後ろに控えたメイドさんを手招きし、メリルちゃんに聞いた言葉をそのまま鸚鵡返しに喋りながら立ち上がろうとすると押し留められる。

 え? まだ退席しちゃダメ?

 きょろきょろと辺りを伺っていると、メイドちゃんが呼ばれてやってきた。

 メリルちゃんいないけど、担当はメイドちゃんがしてくれるらしい。

 席を立ち、愛想笑いを浮かべつつメイドちゃんに付き従って目立たないようにダイニングを後にする。

 なんだか深残確定な同僚を後目に定時退社する時のことを思い出してしまった。

 廊下へ出る辺りで、頭になにかしがみつく感触がする。

 手で触りつつ頭上を伺うと、エマさんが頭の上からのぞき込んでくる。

 エマさんも戻るらしい。逃げ時だよね。


 部屋へと戻り、リビングのソファーに座って暫しの寛ぎタイム。

 エマさんがベッドルームの方へ行ってしまったので、何気なくiPadの電子書籍ソフトを立ち上げ、読みかけだったコミックを開いた。

 女子校生がゆるい部活でアウトドアライフを送る日常ものだ。

 本で読んでる分にはキャンプとか楽しそうだ。

 リアルにやろうと思うとかったるいけど。

 この世界では、テントとかどうなってるんだろう。土木系魔法でロッジとか作っちゃうんだろうか。

 寝落ちしかけながらコミックを読み進めていると、いつの間にか肩先からが覗き込んでいたエマさんが、ページをめくれとiPadを叩く。

 読めているわけではないだろうが、なんとなく分かるのかな。


 ちょっと感動的な見開きのページ。なにかエマさんの琴線に触れるものがあったのか、iPadの画面をエマさんが叩く。

 良く分からないが、このページを開いたまま机に置けっていってるっぽい。

 手にしたiPadを机に広げるとエマさんがウンウンと頷き、机の端に置いてあったメモ用紙を引っ張ってくる。

 そしてiPadの上にそのメモ用紙を広げると、タンポポの綿毛の様なものでメモ用紙をなぞり始め――。

 おお、なんか浮かび上がってくるんですが。

 iPadに表示されていたイラストが、メモ用紙の上に浮かび上がってくる。

 どんな仕組み?

 カラーページも複写できるの?

 聞きたいことは色々あるが、俺とエマさんではジェスチャー以上のコミュニケーションは成り立たないのが残念だ。

 あとでメリルちゃんに聞かないと、と思いつつメモ用紙を見ていると、丁寧に見開きページを複写したエマさんが、どや顔でメイドちゃんに見せに飛んでいってしまった。

 あとで俺にも見せてね……。


 続きを読んでいるとエマさんが戻ってきた。

 iPadの画面を見て、ページが進んでいることに気がつきガーンという顔をする。

 しかたない、ページを戻して、と思い立って表紙に戻る。

 机に広げ、メモを載せると、エマさん早速コピー。

 でも色がなにかおかしい。残念そうな顔をするエマさん。ああ、カラーはCMYK変換しないとダメか。

 とりあえず、さっき読んでいた章の冒頭に進み、一話分をコピーしてもらった。

 コピー時間は事務用複写器ほど早くもないが、安い家庭用の複合器で高解像度の手刺しコピーをするくらいの時間。

 机の上にバラケて広げると、壁際に立つメイドちゃんが興味深そうな視線を送っているので、手招きして机の端から順に並べてもらう。

 メイドちゃんは一枚一枚内容を確かめるようにしながら並べていく。

 ときどき頷く様子が伺えるところを見ると、大体のストーリーくらいは読みとれているのだろうか。


 手近の一枚を手にとって、天井灯に透かすように掲げる。

 指で擦ると微かに滲んで指に黒いものがついた。

 書きたての鉛筆画より、よほどしっかりと紙に染料が浸透しているようだ。

 どっかから炭素を取り出して、紙の繊維を染めているのだろうか。

 まさかカビじゃないよね?

 こんな複写技術があるなら、むしろ活版印刷なんかの技術は遅れている可能性もあるな。


「ほほう。これは、えで、ものがたりを、つづっているのですな」


 クッキーを摘みながらコミックの続きを読んでいると、メリルちゃんが机の上に浮かんで、並べたコピーを眺めていた。


「いぜん、こられた、わかいかたが、なにかを『よみたい』とおっしゃっておられましたが、これのことですな」


 なにやら納得した様子のメリルちゃん。


「もじを、このんで、よまれる、ようすは、ありませんでしたが、これならば」


 iPhone勇者の事だろうか、なにげに酷いこと言われてる。

 俺はコピーを裏表に束ね、メリルちゃんに見えるよう、見開きで一枚ずつめくっていく。


「こうして右上から左下へと一枚ずつ読んでいくのです」


 そうしてコマ割とか吹きだしとかの作法やらの説明を行なう。


「この、ひとがはいっている、まるいもののついたはこが、“くるま”ですか?」

「このじてんしゃには、あしもとに、こぐぼうがないようですが」


 コミックの概論が、いつのまにか作品の各論へと話題が移り、仕舞いには、メイドちゃんを巻き込んで吹き出しの翻訳まで始まってしまった。

 この世界に無いものとか、SNS表現の事とか説明し出すと全然進まない。

 合間合間に聞いたところでは、色の素はカビなどではないらしい。

 ようやく4ページほどの説明を終え、一服しようと肩を回したところで、背後にメイドさんが着替えを持って立っているのに気がついた。

 よし、一風呂浴びてこよう。

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