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シャンプーバンド

「まりょくの、たまりがよい、きを、かたしろに、けんげんするかたは、おられますな」


 とは、メリルちゃんの弁。

 魔力の溜った木に妖精が生まれることはあるらしい。


「はやえだを、ゆすることはあっても、あるくことは、ないです。ねを、ぬくのが、てまですゆえ」


 葉や枝を動かす程度はしても、根を地面から引き抜いて歩き出したりはしないと。

 大木の根は、見掛け以上に張り巡らされてるからね。


「でも、切り倒されたりしそうになったらどうするんです?」

「やどりを、でます。まりょくの、あるのは、ば、ですゆえ」


 精霊にとって大事なのはパワースポットである場所で、そこに生えている木ではないと。

 木は身体ではなく、家って感覚のようだ。

 愛着があったとしても、曳家して持っていくほどではないってことか。


「たぶん、テトラは、そのくちではないかと」


 手足にその名残があった? 気がつきませんでしたが。


 ちなみにその容姿は、大木に顔が付いてる“森の賢者”的な感じではなく、幹や枝の節々に目が付いていて、発声は葉や枝を揺らしておこなうという、夜中に暗がりで見たら失神しかねない“悪夢の代名詞”系らしい。

 それはちょっと紹介して欲しくないかな。


「あの木がそんな風になったら、この路は歩けないね」

「……、さきほどの、キラピカで、ちからをつかいましたゆえ、とうぶん、あらたにうまれることは、ないかと」


 メリルちゃん、グッジョブ。

 しかし、親指を立てる俺の気持ちは、メリルちゃんには理解してもらえなかった。

 妖精は妖精同士なので、見かけには頓着せず、とくに怖いとかないらしい。



 ケイトさんに案内された湯舟は、夜に入る大浴場の方だった。

 それも外から直で入る裏口っぽいところから。

 馬場とかも土埃が立ってたし、かなり埃っぽいと判断されたようだ。

 若干の攻防の後、腰にタオルを掛け、浴衣姿のメイドさんに髪を洗って貰う。

 洗髪前におでこにヘッドバンドのようなものを填められたが、どうやらそれがシャンプーハットの働きをする魔法具らしく。

 石鹸を泡立てた泡で髪を洗い、お湯で濯がれるのだが、顔には泡もお湯も流れてこない。

 なかなか便利。

 シャンプーハットならぬシャンプーバンド。

 広く使われている道具なのか、お貴族様ゆえの高級品なのかわからない。

 扱いがそれほど大事そうには見えないから、驚くほど高額な魔法道具という様子ではないが。

 シャンプーハットより魔法具の方がコストが安いのだろうかと思ったが、よく考えたらシャンプーハットを作れる素材が無いのか。プラスチックとか。


 そのまま背中を流してもらい、前は自分で。

 メイドさんが退出するのを待って、タオルで隠しながら湯舟へ。

 やや温めの湯舟に浸かりながらボーッと外を見ていると、身体を洗ってもらっている間、ふらふらと窓の外へ飛んでいったメリルちゃんが、エマさんと連れだって戻ってきた。

 今日一日の出来事をお互い話し合っているのか、大きなジェスチャー交じりで盛り上がっている。

 ジェスチャーから察するに、メリルちゃんは気球が気に入ったのかな?

 楽しそうでなによりだ。

 人が乗れる規模の試作品は、まずは気球かな。

 飛行船も捨てがたいが、スケール大きくするだけの気球が簡単そう。

 メリルちゃんに、「気球作ろうね。人が乗れるやつ」というと、とてもいい笑顔が返ってきた。



 入浴後はこじゃれた部屋着に着替え、そのまま食事にむかうらしい。

 案内された先は、はじめて入る部屋だと思うのだが、毛足の長い羊の皮っぽい敷き物が敷き詰められた床に、クッションが散りばめられた部屋だった。

 このまま食事が出てくる雰囲気ではないので、多分待ち合いなのだろう。

 まだ誰も来てはいない。

 とりあえずクッションを二つ程確保し敷き物の上に腰を下ろす。

 風呂あがりのだれた身体にいい感じのクッションで寝ちゃいそうだ。

 眠気ざましに敷き物を観察。

 中央の4畳半程が白く、その外周を彩るように、1畳程の焦げ茶と臙脂の毛皮がマーブル模様に縁取っている。

 この真中の4畳半てもしかして一枚皮?


「メリルちゃん。この敷き物はなんですか?」


 エマさんと二人、クッションに突進しては跳ね返されて敷き物の上を転がるという謎の遊びに興じている妖精さんを掬い止めて聞いてみる。


「これは、■■×△*の、かわですな。かなりおおがたのいきもので、ながい、けを、まとっています」

「この真中の白い部分は、一頭分ですか?」

「ではないかと。これだけの、おおきさで、きずのないのは、おたかいと、ききおよびますが、さすが、おかねもち、ですな」


 うーむ。この世界の羊は4畳半の毛皮がとれる大きさらしい。


「そのけは、つむいでは、じょうぶ、ぬのは、あたたかく、また、そのにくは、たいへんおいしい、そうです」


 丈夫で温かい羊毛が取れて、その肉も美味しいとは。

 すばらしい。



 大口を開けてあくびを漏らしたところで、廊下側の扉の方から一声あがり、侯女ちゃん登場。

 慌てて居ずまいを正し、侯女ちゃんを見やれば、よほど気にいったのか、まだ両手で竹とんぼをグルグルと回している。

 そして俺を見つけるや素早く横に座り、竹とんぼを振り回しつつ、なにやら熱弁を振るいはじめたのだが。

 ごめん、なに言ってるのかさっぱりわかりません。

 ちょっと涙目になりながらメリルちゃんに概略を説明してもらうと、「これはとても良い物だ。あした皆に自慢するよ」とおっしゃってるらしい。

 誰に自慢しちゃうの??

 メリルちゃんの解説から察するに、なにやら同世代の社交クラブ的集まりがあるらしい。

 メイドちゃんも参加ですか、そうですか。

 俺的にはどうでもいいのだが、竹とんぼってのはある種の技術の塊ではあるし、一つ忠告をしておきたいところだが。

 やべ、ケイトさんも、メイドちゃんもいないじゃん。

 しかたない。俺は意を決して、


「それ、ひみつ、いっぱい。おにいさんに、よくそうだんして」


 と、メリルちゃんの言う通りを耳コピーしてアドバイスを送っておいた。

 ここの人達に、ちゃんとものを言ったのはこれが初めてなんじゃないか?

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