ライトアトラクション
炎上する飛行船を馬場の片隅に座り込んで眺めていると、いつの間にか日が暮れはじめていることに気がついた。
もう、そんな時間か。
自転車二台。グライダーと竹とんぼ。飛行船に気球。
今日作ったものを指折り数える。
結構できたな。
もう10年分くらいの仕事したんじゃないか。
教科書に載ってるレベルの図面を描いたくらいなので、全然なにかを成した気はしないけど。
木工さんの技術の高さも存外だけど、妖精さんたちが有機化合物を簡単に錬成してくれたのが良かった。
そうそう、有機化合物とダイヤモンドも成果物に入れないと。
今日の仕事で侯爵家の技術顧問の口は目指せそうだし。
煩わしそうな暗躍集団は妖精さんの情報網と対処力にお任せしておけば良さそうだし。
あとはiPadに入ってる技術の教科書類を翻訳してるだけで、寝て暮らせるんじゃないか。
いやもう、異世界サイコーじゃないか。
今日レベルの新商品開発を、この先ずっと要求されても困るけどな。
パンパンと手を叩く音がする方に首を回すと、なんか偉そうな女の人が辺りを睥睨している。
昨夜の充電器外れ騒ぎの時にいたメイド頭のオバサンかな?
馬場ではしゃいでいた大人たちがドナドナされていく。
考えてみたら、馬場にいる人たち、今日の仕事ほったらかしてたんだよな。
特に侯女ちゃんとか。習い事とか、予定詰まってたんじゃ無いか?
さて俺も、と立ち上がり辺りを見回すと、舘へと続くであろう小路から、ケイトさんがやってくるところだった。
メリルちゃんを始めとする妖精さんズも戻ってきた。
「では、また」
「今日は、とても有意義でした」とおっしゃる先生の挨拶におじぎを返すと、両手を振りつつ炭玉さんとワイパーさん、それに先生が連れだって飛んでいく。
妖精さんズは、わざわざ挨拶に戻ってきてくれたっぽい。
喜んでいただけて何よりだ。
メリルちゃんは俺の頭に。
おや、いつの間にかもう一人、ああ、果樹園にいたテトラさんか。
最後の飛行船炎上を含め、気球とかグライダーとかが果樹園の丘の上からも見えて、界隈に散らばる妖精さんの間で結構な騒ぎになってたのだとか。
さっき挨拶をした仲ということで、テトラさんが代表で様子を伺いに来たと。
馬場周辺の林の中でも何人かが様子を伺ってるとか。
たぶん常套句だと“視線を感じる”とか入るところなんだろうけどさっぱりだ。
視線感じるってなんだよ。俺TUEEE人達って、統合失調症か視線恐怖症なんじゃ無いか?
妖精さんを探して林の中を伺っていると、テトラさんが果樹園のある林の中へと消えていく。
林の奥で妖精の羽の輝きらしき灯がテトラさんの方に集まっていくように見えた。
大勢いたのはホントらしい。
というか、妖精さんて居るところには居るみたいだな。
「*****」
妖精さんたちとの挨拶を終えると、ケイトさんが声をかけてくる。
「まずは、きくずをはらいに、おふろ、にしましょうと」
「木屑?」
言われて身体を手で払うと、図面を描いて指導してただけだけなのに、結構埃っぽくなってた。
そういえば、果樹園とか馬場とか、土っぽいところには居たな。
ケイトさんの案内で、馬房脇から林の中へ続く小道へと入る。
日の陰り始めた林の小道だが、オレンジ色をした外灯の明かりが小道脇の立木毎に灯っていて意外に明るい。
気がつけば、木立の中ほども、そこここに灯が灯されていて、ちょっとしたイルミネーションの様相だ。
もう少し日が落ちていい塩梅に薄暗くなると、綺麗に違いない。
ケイトさんあたりと腕を組みながら歩けば、さぞや楽しかろう。
そう思って見回すと、灯の配置が絶妙で、林の中に影が出来ないようになっていることに気がついた。
防犯的な意味合いが大きいのだろうが、不埓な真似は出来ませんか。
どういう仕掛けかと外灯に目をこらすと、樹に10センチほどの照明の魔法石がぶっ刺さってる。
立木にただ刺さってるだけの照明の魔法石。それがイルミネーションのごとくにたくさん。
「あれのチャージはどうなってますか?」
思わず立ち止まってメリルちゃんに質問。
「なんだか、たくさんあるようですが」
俺の質問にメリルちゃんは木立を見回し、
「このはやしは、まほうのたまりが、よきようなので、しぜんとたまるようですな」
うむうむと頷くメリルちゃん。
この林の樹木は魔法を溜め易い品種とのことで、樹木から自然と充魔されるらしい。
ソーラー外灯みたいな扱いか。
と、メリルちゃんが「おぉ」と声を上げて、木立の奥を指さす。
なんか、奥の方で光る魔法石に、ボンヤリとした妖精の羽らしき白光がポンと当たっては離れていく。
「はやしにつどう、せいれいやようせいが、たりなきぶんを、よきように、おぎなっているようですな」
自然充魔で足りない分は、さっき林の中から様子を伺ってたという妖精さんたちが、通りがかりに軽くタッチして魔法を継ぎ足してるっぽい。
なんか凄いエコシステムなんだけど。
ケイトさんの後をゆっくりと追いながらも、灯篭流しを思い起こさせるオレンジの灯に気をとられてしまう。
「あかりは、おすきですか?」
メリルちゃんは、俺に向き合いながらケイトさんとの間を飛んでいる。
後向きにとんで、よく路を外さないものだ。
「照明としてはちょっと薄暗いかもですが、 風情ある情景かと」
ほほう。と感心した様子のメリルちゃん。妖精の感性はまた違うものなのだろうか。
「*****」
何かに気がついた様子のメリルちゃんが、ケイトさんに一声掛けるとスーッと林の中へ飛んでいく。
俺はメリルちゃんに気をとられたまま歩いていたせいで、立ち止まっていたケイトさんと軽く接触。
美女に優しく抱き止められてちょっとうれしい。
と、メリルちゃんは一本の木の周りをくるくると周り、こちらを向いて俺が見ているのを確認するそぶりをみせると、
青紫色を基調としたグラデーションのついた同心円状の灯が、その木の下から上に、上から下に、流れる。
しばらく木の幹を上下していた灯が葉の茂る上まであがり、今度はそのまま下から上に流れ続け……
色を変え、動きを変え、その様子はまるでスカイツリーか東京タワーのライトアトラクションの様だ。
木の電装につられるように、周りの外灯も色と輝きを変えはじめる。
夢と魔法の国のナイトパレードは、きっとこんな感じなんだろう。行ったことないので知らないが。
ドヤ顔のメリルちゃんが戻ってきた。
「うたひめの、おどりのうしろで、あのような、かがやきがありましたので」
振付けをしながら「白い飾りのついた赤い衣装で踊る姫たちが、」と鼻歌交じりに説明するメリルちゃん。
どうもiPadに入っていたクリスマスソングの動画に、背景に描かれたツリーの電飾がウェーブするシーンがあって、それを再現したらしい。
「あのきは、おかのうえの、りゅうけつからつらなる、あなのうえに、たっていますゆえ、まりょくの、たまりが、ほうふです」
果樹園にあった龍脈の支穴があの木の丁度下にもあって、木に直接パワーが流れ込んでいるの?
でもそれって過充電で爆発とかないのか?
あるいは樹木の精霊が湧いて動き出すとか。
樹木が歩き出すって、異世界っぽいけど。




