水洗トイレはウォシュレット付き
用意ができたのでメイドさんについて長い廊下を歩いていく。
所々に飾られた壷とか甲冑とか絵画とかを、時々立ち止まってふむふむと文明レベルを調べる。
壷や飾り皿は素焼きもあれば磁器やガラスもある。
甲冑は鉄製っぽい。
絵画は写実的。
大きな板ガラスは見当たらないが、窓は手の平サイズのガラスを組み上げたガラス窓になっている。
「そうだ、トイレに行っときたいんだけど、なんて言ったらいいですか?」
まだ洩れるほど切羽詰まってないんだが、早めに手を打っておくことにする。もしかしてオマルとか野外とか現代人には厳しい仕様になってるかも知れんし。
「といれ?」
メリルちゃんは、眉をひそめてムムムとうなる。
「といれとはなんですか?」
え! トイレ知らないほどのレベル?
「トイレ知りませんか? 便所、厠、お手洗い。食事の排泄物を処理する場所のことですが」
色々と言葉を変え、ジェスチャーを交えて説明する。良かった、早めに聞いておいて。切羽詰まってたら漏らしてる。
「******」
俺の怪しげな仕草に何かを閃いた様子のメイドさんが言葉をかけてくる。そして踵を返し、今来た廊下の途中にある階段へ俺を誘う。
「こちらへどうぞと。たぶんトイレとやらのことだとおもうのですが」
他に方法もなく、メイドさんの理解力を信用してつき従う。階段を降り一階へ、そして舘を出て渡り廊下を進むと風通しのいい場所にポツンとある東屋に辿りついた。メイドさんが開く扉をのぞき込むと、トイレの個室サイズのブースが両側に5部屋ずつ。
「……洋式便器」
個室の扉を開くと、見なれたものとは若干異なるが、洋式便器と思われるものが。背後にはタンクらしきものも。個室をのぞき込む俺の脇をスルリとすり抜けたメイドさんが、タンクの横についたハンドルをキコキコと回す。
水が流れた。
異世界スゲー。水洗じゃん。
「*****」
メイドさんが便座の脇にある青いガラスのドームに手を充てて呪文?をとなえると便座の中央から唐突に細い水流がピューと吹き出す。
ウォシュレット!!!
異世界スゲー。魔法スゲー。文明レベルが計り知れない。
「こめるまほうのつよさでみずのいきおいがかわるそうです。あとをぬぐったかみはそこにすててくださいと」
腰の高さほどにある棚板に積まれた紙を手にする。薄めの藁半紙のような紙質。まだトイレットペーパーレベルの紙は無い様子。
メイドさんが退出した後も俺の前でホバリングしている妖精さんを押しだし
て扉を締め、パンツを下ろすと便座に腰を降ろす。
青いガラスのドームに手を充てて撫で繰り回す。魔法の使い方がわからんからウォシュレットは使えないけど、これは早く勉強して使えるようにならねば。
ふと見上げると、扉の上の隙間から妖精さんの顔が。
俺は諦めて小用をたした。さすがに見られながら大はムリ。
洗面台と思しき場所に、ハンドルの付いたパイプがあったので捻ると水が出た。地上高1メートルくらいまでの高さは上水道が整備されているようだ。粉石鹸らしきものがあったのでメイドさんに目線を送りながら、粉を摘んで手に広げる仕草をすると、メイドさんが手本を示してくれる。やはり粉石鹸だったようだ。
手を洗い、ハンカチを履き変えたジーンズのポケットに入れたままだったことにきづいて、サテと思った時にはスッとタオルが差し出される。できるメイドは一味も二味も違う。
「妖精はトイレに行かないんですか?」
「わたしたちはかたちあるものをとりませんので」
なにそれ、どこのアイドル?