声がコダマのように広がっていく
飛ぶもの繋がりで飛行船か気球でも作ろうと思ったが、どうだろう。
竹とんぼを追うのに飽きたのか、俺の頭に乗ってフンフンとラブライブなど歌っているメリルちゃんに相談。
「袋に軽いガスを詰めて、吊した籠を浮かせる乗り物なんですが、」
手を広げ、ふんわりと形を示す俺。
「両手を広げたくらいの袋なら、メリルちゃんたちが乗れるくらいの籠が下げられるんじゃないかと」
「それはよいですな」
メリルちゃんを含めた、先生以下4名の妖精さんにお集まりいただき、馬房の隅にあった作業台に陣取る。
外だと時折グライダーを飛ばす強風が吹くので。
「あのものたちは、きょうじゃくのせいぎょが、いまひとつですな」
とは馬房の入り口で風に煽られて流されたメリルちゃんの弁。
妖精さんから見ると、魔法使いたちの風を制御する技術はまだまだらしい。
風の吹かせ方が、気流を制御するのではなく、空気の塊を後ろから力尽くで押している感じだからだとか。
まずはメリルちゃんと先生にシーツほどのナイロン生地を2枚ほど作って貰う。
メリルちゃんのつくり出すナイロン繊維は、もう目に見えないレベルの細さだ。
それを先生と炭玉さんが瞬く間に編み上げていく。
出来上がったナイロン生地の薄さ、軽さは、いわゆるパラシュート材を越えるレベル。
そのあまりの薄さに生地の強度が不安だけど、デモ用だから多少のことには目をつぶる。
気密性をあげるため、水切りワイパーさんのワイパー捌きで生地にアルミを滅金。やってる作業は塗装に近いか。
炭玉さんに生地のカットと接着をお願いし、メリルちゃんに水素を詰めて貰えば、あっという間に船長2メートルほどの細長い水素気球が完成。
しまった、ゴンドラを付ける前に浮かせてしまった。
あわてて見渡すと魔法使いらが馬房の入口から覗いていたので呼び寄せ、四隅に繋いだ牽引ロープを引いて貰い、PETで作ったゴンドラを気球の下に取り付ける。
さらに、適当に拾った石をゴンドラに積んで浮力を調整。
早速、先生と炭玉さんがゴンドラにもぐり込み試験飛行開始。
牽引ロープを緩めると飛行船は高度をあげる。ゴンドラに積んだ小石を少しずつ落としていくと、天井にぶつかるより少し低い高さで安定し、ゆっくりとした速度で馬房を巡り始める。
そういえば昔、フィルムメーカーのロゴがついた飛行船が、運動会場の空を飛んでたな。と懐かしい気持ちになる。
チョコボが頭をあげて飛行船をツツこうとするのが危なっかしい。
推進装置が無いのになぜか前進しているが、先生たちがなんかうまく気流をコントロールしているのだろうか?
「*****」
「*****」
「*****」
「あれは、どうやって、おりてくるのでしょうか」
しばらく飛行船に併走していたメリルちゃんが魔法使いと話しながら戻ってきて、飛行船を指し示しながら聞いてくる。
「安いガスを使うなら、気球のガスをゆっくりと抜けば降りてくるし……」
さて、ヘリウム使うときはどうするんだっけ?
「そうそう。ガスを捨てるのがモッタイナイときは、気球の中に袋を仕込んでおいて、それを空気で膨らませて軽いガスを圧縮すると浮力が減って下りてくるんだったかな」
さらにバスタオルサイズのナイロン生地を16枚追加発注。
メリルちゃんとワイパーさんの頑張りでナイロン生地16枚が完成したところで炭玉さんを呼び戻し、生地の加工を依頼。
全高1メートルほどの熱気球の機体があっさり完成。
PET製のバスケットをケブラー紐で吊し、熱源をどうするかメリルちゃんに相談。
「バスケットの上部に熱源をつけて、そこから上に向けて、熱い空気を気球に送り込むと、中と外の空気の密度差で、気球が浮くんです」
メリルちゃんはなるほどと頷き、なにやらちびた鉛筆のような魔法石を作ってくれる。
馬場から木工さんを呼び寄せ、身振り手振りで魔法バーナーをゴンドラに取り付けて貰い、バーナーを着火。
魔法加熱なので炎はあがらないが、バーナーの先端が高熱を発して輝き、加熱された空気をメリルちゃんが手を振って気球に送り込むと、徐々に気球が膨らんで浮きあがっていく。
「*****」
「*****」
「*****」
魔法使いが何やら問いかけてくるが、対応は先生にお任せ。
あれ? 先生がいる? 飛行船は? と見回すと、馬房の向こう端に浮いていた。
いい感じに膨らんできた気球に、メリルちゃんとワイパーさんがバスケットにもぐり込み、そのままフライト開始。
「あっ!」
しばらくバーナーの強度調節をして上下動を繰り返していたメリルちゃんだが、馬場側の大扉から吹き込んできた風に乗って、馬房の裏へと旅だってしまった。
慌てて追いかけ馬房の裏出ると、そこは思ったより広いスペースがあり、どうやら馬車のガレージ兼整備場らしかった。
気球は風に煽られて整備場の向こうへと流されていくが、同時に高度をどんどんと上げていく。
「うえにあがれば、かぜは、こちらへとながれるので、しんぱいないでしょう」
あああ……とつぶやく俺に、先生のお言葉。
それはひと安心だ。
でも先生は凄いな。風が読めるのか。
「あ、でも、あんなのがふらふらしてたら、警備の人に撃ち落とされたりしないですか?」
「おお、それは……」
先生もちょっと慌て気味に、後ろから出てきた魔法使いの元へと飛んでいく。
「*****」
「*****」
「*****」
先生と何やら会話して魔法使いもちょっと慌て始めた。
杖を構えてなにやら振ると、信号弾?が打ちあがる。
そして
「*****」
「*****」
「*****」
魔法使いの声が、コダマのように広がっていく。
「なにやら、こえをひろげるどうぐが、しかけられているようですな」
あそことあそことあそこ、と辺りを指さしながらの先生。
音声信号に対応した中継局みたいのがそこここに仕掛けてあって、敷地内を声が駆け巡るらしい。
拡声器の上位バージョンみたいなものか。
「あ、戻ってきましたね」
先生の言っていた通り、目を凝らしてようやく見えるくらいの高さまであがった気球が、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
馬房を飛び越え馬場の先まで進んだ気球は高度を落し、低空の風に押し戻されながら、グライダーと竹とんぼの飛び交う馬場を進み、やがて馬房の前まで戻ってきた。
顔の前に飛んできたバスケットをイケメンが受け止めると、メリルちゃんとワイパーさんが飛び出してくる。
クルクルと楽しそうに、二人でワイワイと踊りながら。
自力で飛べるくせに、何がそんなに面白かったのだろう。
すごく不思議。
メリルちゃんたちも戻ってきたので、次は危険物の処理に取り掛かろう。
馬房へ戻り、飛行船を外へと引っ張ってくる。
「これから水素の危険性を実験でみせるから、魔法使いに良く見ておくよう言ってくれますか?」
飛行船の上に乗って辺りを睥睨しているメリルちゃんにお願いする。
「この気球の中に詰まったガスは、非常に燃え易いので、ガスの取り扱いには注意が必要で、」
「*****」
「*****」
「*****」
ちゃんと伝わってるのかわからんが、魔法使いがそれなりに真剣な態度で頷いている。
「ちょっとどのくらい燃え広がるかわからないので、離れて下さいね」
イケメンの先導で馬場の中央まで進み、飛行船を係留ロープを杭で止め、火は??
「あのふねに、ひをはなてば、よいのですか?」
先生の言葉に俺が頷くと、先生の合図で炭玉さんが飛行船の上空へ移動し、火のついた炭らしきものをポイッと放つ。
火の玉が気球に乗っかると、
ボンッ
大きな音を立てて気球が燃えあがる。
近くで見ていたワイパーさんが熱風に煽られて飛んでいく。
でも、もっと凄い爆発になるのかと思ったらそうでもなく、炎上って感じだった。




