ミニサイクルとクロスバイク
片付けついでに結晶構造やらを書き込んだ紙を魔法使いに渡し、お昼ご飯の石焼きカレー丼?を美味しくいただく。
イケメンと狼藉男は姿を消し、魔法使いは追加で持ち込まれたカレー丼を美味しそうに食べてる。
午後はキャスターバッグと自転車作りたいんだけど、いいんだよね?
妖精さんにスチレンゴムの作成をお願いする。
「このぐらいの太さで、」と親指と人差指で3センチ程の輪を作り、「長さがこのくらい」と10センチくらいを示す。あと中心に1センチくらいの穴。
炭玉を操っていた妖精さんが薪を抱えもって来て、トントンと叩くと炭になる。
それに水をかけて、新しく描いた構造式を横目に捏ね始めると、いつの間にかゴムの管が出来上がった。
CとHが存在したのは確かなことだが、相変わらず何が起こったのかわからない。
まず薪が炭になって、それに水をかけると捏ねれるってところから不明だ。
でも、その作業をじっと見ていた魔法使いは、なにか思うところでもあるのか頷いているので、魔法的にはありらしい。
「ゴムは金属に比べて柔軟性があるので、衝撃や振動を押えるのに便利なんですよ」
ゴム管をコロコロと転がして観察している先生に説明。
手に持ってぶらぶらさせると、魔法使いがボールを前にしたワンコのような顔をするので渡す。
すると妖精さんが炭玉やPET玉を扱い、スチレンゴムの立体模型を作成。
立体模型、とてもわかり易くていい。
是非とも魔法学校の教材に採用して下さい。
とかなんとか軽口を叩きながら、俺は自転車の図面作成に取り掛かる。
菱形フレームのクロスバイクっぽいのと、車輪の小さな折り畳み自転車で良くあるFフレームタイプの二種類。
動力伝達には変速機なしのチェーンでいいか。
メリルちゃんが質問してくる箇所に応えながら、適宜図面に修正を加える。
フリーハンドで描いたにしてはまあまあなんじゃないかと、図面を机の中央に押し出す。
魔法使いがメイドさんに合図をすると、昨夜パンで作ったデフォルメ自転車模型が横に並べられる。
うんうん。これで自転車の木製模型はOKじゃないか?
ゴトゴトと音がするので目をやると、扉から木工さんが大工道具を持って入ってくるところだった。
その後ろから、大きな熊が二頭ほど木材を抱えて登場。
ああ、熊の人。この屋敷にもいたんだ。
熊の人は抱えてきた木材を部屋の隅に並べると、ペコペコとした感じで退出。
木工さんは魔法使いの後ろで立ちすくんでいる。
「*****」
魔法使いが机の横に席を移し、木工さんを呼び寄せる。
あー、この世界でも愛想笑いってあるんだ。
まあ、仕事を割り振れば、気にならなくなるだろう、と木工さんに挨拶も早々Fフレーム自転車の図面を差し出す。
完成画とフレーム図面をしばらく見比べていた木工さんはおもむろに太さの異なる二本の棒材を拾いあげると、トントントンと切り分けた。
なんかそのナイフみたいなの、刃がないよね?
「このせんにそって、もくざいを、わかつのです」
メリルちゃんが端材の切口をペシペシと叩くが良くわからない。剣の達人が兜を目に沿って裁つとかってやつか?
木工さんの作業は続く。
同じように刃のないナイフで太い木材を1/3程まで割いて、軽く曲げると何故か音叉状に型が付いてしまう。
そして音叉状に加工した棒材の柄側の先にパイプを重ね力を込めると木材がウネウネと蠕いて繋がってしまった。
同様に音叉の股にパイプを繋ぐと、あっという間にメインフレームの完成だ。
なにがどうなって繋がっているのかは不明だ。
次に細い方の木材を手にとり、こちらも音叉状に加工。パイプに通し、柄の方に横棒を繋いで形を整えるとハンドルフレームの完成。
イスの部分を指さして俺を見るので、多分どうなってるのか聞いてきてるんだろうと思い、棒材の上にレンガくらいの大きさの木材を重ねて手渡す。
それを木工さんがグリグリとやると何故か繋がってしまい、音叉の股に繋いだパイプに刺せば、Fフレームの完成。
え?え?え? まだ10分経ってないんじゃないの?
出来上がったフレームを受けとり接合部をチェックしている間に、棒材を輪に曲げた木工さんは、パイプと三枚の板を使って三スポークのホイールを作り上げていた。
タイヤホイールを受けとり、先生に3センチ厚程度のゴムタイヤをホイール周りに作成して貰う。
作業を始めて1時間。Fフレームのミニサイクルが完成。
ケブラー繊維で繋いだ後輪用ブレーキも装備済みだ。
もっとも作成時間のうち45分はチェーンのパーツを繋ぐ加工してる時間だったけど。
さらに30分。クロスバイク完成。2つめのチェーンは木工さんがフレーム作成してる間に妖精さんたちが作ってくれたので、クロスバイクはフレームを作る時間だけですんだ。
完成したクロスバイクの状態を確認していると、扉付近にバタバタした気配。
驚く我々の目の前に、肘膝にプロテクター?を巻き、頭にヘルメット?を被った侯女ちゃんがミニサイクルに跨りドヤ顔で登場。
遅れることしばし、お付きの人と魔法使いが息を切らして到着。
クロスバイクの作成に当たり、魔法使いにミニサイクルのテスト走行をさせていたのだが侯女ちゃんに見つかったらしい。
取り上げられても、ちゃんとプロテクターをつけさせたところがセメテか。
その後も侯女ちゃんは部屋の中、作業台の間をスイスイとミニサイクルで巡回。
ミニサイクルとはいえ初乗りでここまでこなすとは凄い運動神経だ。
と、さすがに魔法で強化していたとはいえ木工細工のチェーン。あえなく切れてしまい、侯女ちゃんの自転車無双終了。
クロスバイクに目を輝かせる侯女ちゃんだが、さすがにクロスバイクは駄目でしょう。
こけて怪我でもさせたら誰ぞの首が飛ぶんじゃない?
「うまにのる、けいこの、いっかんだと」
すごい言い訳吐いてた!
でも、クロスバイクはさすがに乗せるわけにもいかず、まずは俺が手本に数メートルほど走らせて、次に馬術の練度が高いという基準で、侯女ちゃんお付きの武官らしき人が長距離テスト走行に旅だった。
ちょっと走らせた感じでは、木製にしては問題無さそうだったんだけど、木製にしては、ね。
侯女ちゃん一行がクロスバイクに気をとられている間に、俺と木工さんはキャスターの製造に取り掛かる。
自転車に捕らわれていると、なにかメンドクサイことになりそうな予感がしたので。
俺は木工さんに刃なしナイフを借り、ゴムパイプの切断に挑戦。
いや、これ無理でしょ。
「魔法が使えないと切れませんか?」
ナイフとゴムパイプをしげしげと見る俺に、「かなり、むつかしいかと」とメリルちゃん。
やっぱり魔法使ってたか。
仕方ないので木工さんにゴムパイプを3センチ幅で2個切って貰う。
それぞれに軸を通し、木製パイプで繋ぐ。
出来た車軸にL型のフレームを二本くっつけて昼食を入れてきた岡持ちを張り付ければ固定車式キャリーバッグの出来上がり。
さらに何個かゴムパイプと棒で車軸を作り、端切を組み合わせて枠を示すと、木工さんが自在車を完成させたので板に4個つけ、取っ手をつければ台車の完成だ。
まあ馬車があったんだから、こんなの既にあってもおかしくないが、ゴムタイヤっていうのがかなりのアドバンテージになるだろう。




