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「えっ? 俺、殺されちゃうの?」

「*****」


 イケメンが俺をみて何か言っている。


「これはなにかと、おっしゃられていますな」


 机の上に放置されたナイロン織物をメリルちゃんが持ってくる。

 それを受けとった俺は、そのままホイッと、いつの間にか机の横に立ってオロオロしているメイドちゃんに差し出す。

 メイドちゃんは?と首を傾げたが、織物を渡した手をそのままイケメンに向けると理解したのか、トトトッとイケメンにナイロン織物を持っていった。

 とりあえず、なんていえばいいんだろう。


「たしか、『炭と水と空気から作れる、鋼鉄よりも強くて、クモの糸より細い』材料、だったかな」


 なるほどと頷いて先生が魔法使いの方へ漂っていく。

 メイドちゃんから受けとった織物を引っ張り驚いた様子のイケメンと魔法使い。

 その間から、腹を抱えて蹲ったまま、墓場から甦ったゾンビのごとく手を伸ばしてくる男がキモイ。

 メイドちゃんもビクッとして、壁際へ逃げていったので、あの男がキモイのは世間一般の認識でいいみたいだ。

 俺もあんな風に怯えられないように気をつけないとな。


「*****」

「*****」

「*****」


 イケメンと魔法使いが男にナイロン織物を渡して近付いてくるので、椅子を譲るようにして机の向こう、窓寄りに席を移す。

 だって、あのキモイ男が背中越しに居るのって怖いじゃん。

 一通り遊んで飽きたのか、机の上に放置されたPET膜と、メイドちゃんが編んだケブラー紐もツイッとイケメンの方へ滑らせる。


「*****」

「*****」


 机の向こうに立ったイケメンと魔法使いの相手を先生がしている。

 魔法使いの方は若干の理解はあるものの、イケメンは駄目っぽい。

 男がやってきて、先生に何か言ってるが、質問してると言うより文句を垂れてる感じがする。

 先生がつかれた様子で戻ってきた。


「げんし、というのがわからないようですな」


 原子か。どう説明すればいいんだろう。

 教科書の説明を読んでも、さっきの事以上には書いてない。

 もう、『ドントシンク、フィール』でお願いできませんかね。


「よういちさんは、ころされるのですか?」

「えっ!?」


 小首を傾げたメリルちゃんが、とんでもないこと言う。


「りけん、がどうのと」


 PET膜を手になにか話し合っているイケメンと魔法使いを指さすメリルちゃん。


「えっ? 俺、殺されちゃうの?」


 先生によると、イケメンが言うにはこのPET素材は、どこかの爵位持ちが王家への贈答品にも使う、秘伝の素材に似ているとのこと。

 だから、これを日用品として流通させるとゲキオコかも知れないってこと?

 なんじゃそりゃ。人造ダイヤモンドのデカイのつくると、デビアスが殺しに来るからクズ石しか作らないってアレか?

 知らんよそんなの。PETなんて、捨てるのに困るくらいのありふれた素材じゃん。

 魔法の使えるこの世界じゃ、高分子化合物なんて組成さえ理解できれば誰でも作れるって妖精さんの太鼓判がある材料だよ。

 3分間クッキングなみの手軽さじゃん。

 魔法学校初等科の化学実習でバンバン作らせちゃえばいいじゃん。

 魔法学校があるのかどうか知らないけど。


「Cを、こんな感じで正四面体に並べてやると、ダイヤモンドになるんですよ」


 ちょっとやさぐれた感じでダイヤモンドの結晶構造を広げた紙にお絵描き。

 水切りワイパーの妖精さんがふんふんと頷き、枝炭を持ってくるくる振り回すと、枝炭が手元からスーッと透明化していく。


「!?」


 超魔力で高温高圧を作らなくても、ダイヤモンドが出来ちゃった……。


「よういちさんに、なにかしようとされるかたがおられたなら、ガソリンで、もやしてしまいましょう」


 俺の描いた結晶構造図と枝の形をしたダイヤモンド結晶を見ながら先生が言った。


「われらの、めとみみをもってすれば、ことばにしたそのとき、すぐにわかりますよ」


 先生によろしくと頭を下げる。

 既得権益のために俺のことを殺そうとする金持ちなんてさっさと死ねば良い。

 いやいや、火に包まれて踊る姿が見たいわけじゃないんですよ、先生。

 そう、どこか俺の知らないところで済ませて貰えればいいんで。

 妖精さんは結構エグいな。

 あれか? 猫が殺したねずみを部屋に持ってきて自慢する感覚なのか?


 枝炭を一本メリルちゃんに取って貰い、ダイヤモンド化した枝炭を水切りワイパーの妖精さんから受けとる。

 二本の炭素棒を左右の手に持ちしばし考察。

 先生の解説に若干の理解を示していた魔法使いに枝炭を渡す。

 六角形のグリッドを層状に重ねた、グラファイトの板状結晶構造を紙に描く。

 そしてダイヤモンド化した枝炭を魔法使いに渡し、正四面体が連なるダイヤモンドの結晶構造を紙に描く。

 二つの構造図をじっと見つめる魔法使い。

 その時、魔法使いが手にした枝炭がほろほろと崩れて、炭のカケラは机の上に玉となって並んだ。

 どうやら先生の連れてきた二人めの妖精さんが炭玉を操っている様子。

 5ミリくらいの大きさの炭玉が、びっしりと詰まったハニカム格子の配列で、俺が描いた二つの構造図の間に3層をなす。

 そうして、大きく両腕を広げた妖精さんがゆっくりと手を閉じてゆくと、炭玉はダイヤモンドの結晶構造に形を変えてゆく。

 魔法使いはハッとした様子で枝炭を見つめ、ダイヤモンド枝を見つめ、再び枝炭を見つめると、静かに目を閉じ、フッと一息吐いたところで、枝炭の先端から透明なカケラが転がり落ちた。


「*****」

「*****」

「*****」

「*****」


 魔法使いとイケメンが少しばかり話を交わし、その後魔法使いが扉の方を向いて大きな声をあげると、文官ぽい人が入ってきた。

 にわかに慌ただしくなるまわりに、完全に草となす俺。

 妖精さん4人は、騒動完全無視で、iPadでラブライブを再生しながら踊りをコピー中。

 あー。今入ってきたメイドさんが持ってるのは、もしかして俺の昼飯じゃまいか。

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