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ドワーフ親方との熱い交流はない

 オジサンはここの杜氏っぽい立場の人らしい。

 雇主の大切な客人ということで対応してくれているけれど、あなたが対応すべきなのはエマさんだよ?

 正直なところ俺は酒に弱くて呑むと気分悪くなるたちなんで、醸造の工程には工場萌え的興味があるけど、特に味とかわかんないんで。

 というようなことを伝えてオジサンには奥へ行って貰い、さて俺は一人のんびり工程見学でもと思ったら、オジサンに呼ばれて若手の青年が付き添ってきた。

 なにか話しかけてくるがさっぱりわからないので適当に愛想笑いで返す。実に日本人的対応。


「かれが、さかぐらの、かぐしょくにん、だそうです」


 今は空になっている果実置場、搾汁装置、いい匂いが洩れてくる果汁を濾過する装置を順に見学しながら青年についていくと、彼がそんな自己紹介をしていたらしい、メリルちゃんが教えてくれた。

 午後に打合せする家具職の人か。……。とりあえず木工さんだな。顔を覚えとかないと。


 ところでこの濾過装置、たんなる沈殿式かと思い気や、植物繊維を加工したフィルターを使った減圧濾過っぽい。

 持参したメモ用紙にポンチ絵を書いて質問する。

 図面に書いた日本語の横に、こちらの言葉をケイトさんに書いて貰うと、いい感じに対訳が集まってくる。

 しかし減圧の仕組みが腑に落ちない。やはり物理方則を数段階、魔法でスッ飛ばしてるのか。


 出来上がった図面を眺めていると、木工さんがタンクから搾った果汁をコップに注いでくれた。

 濾過された果汁は、入口で呑んだ果汁本来のねっとりした濃厚な甘さから、スッキリとした軽やかな甘さに代わっていた。

 これジュースにして売ればいいのに。なんでこの糖分をあのスッパ辛いアルコールにしちゃうのかね。

 などと、酒呑みに聞かせたら烈火のごとく怒りそうな感想を胸に抱く。


 更に奥へと進むと、小さな扉。

 この奥が醗酵倉らしい。

 扉にはめ込まれた小さなガラス窓から中を覗くと、オレンジ色の明かりが湯気にけぶっていて、かなり蒸し暑そうだ。

 俺の横からガラス窓の前に身体をもぐり込ませたメリルちゃんが奇妙な振付けを踊ると、奥からエマさんがスーッと近付いてくる。

 これが妖精のコミュニケーション手段なんだろうか。


 メリルちゃんに扉の前の場所を譲ったタイミングで木工さんが扉を開ける。

 ムッとした、酒臭い熱気が洩れてくる。

 中に招く木工さんに、俺は更に数歩後ずさりし、プルプルと身体を震わせる。醗酵倉の空気を浴びて、マジで目が痛いんだけど。


「はねが、べたべた、しそうですな」


 いつの間にか俺の頭の上に乗っていたメリルちゃんがぼやいている。


「******」


 扉から顔を覗かせたエマさんが可愛く首を傾げ、奥に見える醸造用の樽を指し示して、入らないのかと聞いているっぽい。

 ラノベとかだと未成年の癖に酒好きな主人公が、日本酒談義でドワーフ親方との熱い交流に突入する場面なんだろうが、残念ながら俺は下戸だ。

 親方は身長も俺より高くて、どうみてもドワーフじゃなさそうだしな。

 そもそも杜氏がドワーフで身長1mくらいだと、醗酵樽をかき混ぜられないんじゃないか?


「いかがしますか?」

「なんか酒の匂いがきつくて、俺はいいかな。蒸し暑そうだし」

「そうしましょう、そうしましょう」


 メリルちゃんも酒が好きなタイプではないらしい。

 そもそも妖精は飲酒どころか食事もしないって言ってたっけ。

 俺もメリルちゃんも、酒がボコボコと醗酵してるだけの樽に興味はないし、もちろんエマさんが細菌相手になにかしてようが認識できるわけでもなく。

 ということで、後はエマさんにお任せして、今日のところは醸造所から撤収することにした。

 戻りがけ、木工さんが午後はどんなものを用意したら良いかと聞いてくるので、とりあえず薄い板切れ、細いパイプ、太さの違う棒と、それらを組み合わせる加工をするための道具を用意して貰う。

 キャスターに自転車、それにグライダーの模型ならそんなもんだろう。

 倉を出るとメリルちゃんが来た路のさらに先へと飛んでゆき、俺を手招きする。


「りゅうけつで、つちのものに、あいさつを」


 あー、パワースポット。俺も行く。


 龍穴というのは、醸造所からさらに丘を上がった果樹園の中、15メートル四方に広がった木立にあった。

 背の高く、抱える以上の太さのある幹をした大木が20本程度。

 日あたりが悪いせいか下草はないが、地面にはびっしりと苔が生えている。

 水の神殿みたいな“不毛の地”なのかと思ったらそうでもない。

 その中心あたり、苔が噴火口のように盛り上がっていて、その口から時折ポッと土色の光玉が湧き出てくる。


「水の神殿の池と違って、ここはわさわさですね」


 俺の感嘆に、フムフムと頷くメリルちゃん。


「ちのせいれいは、おのれのいるとちが、ゆたかになるのを、ほまれとしますゆえかと」


 なるほど。精霊によって望むべき方向性が違うのか。

 とりあえず拝んどこう。

 うーむと考えて、神社スタイルがいいかなと二礼二拍手一礼。

 顔をあげたら、龍穴の上、俺の背の高さくらいのところに、妖精さんが浮いていた。

 二拍手してるときに、上の方からなんか降りてきたのは気がついてたんだけど、妖精さんだったか。


「*****」

「*****」

「*****」


 さっそくメリルちゃんがフワーと近付き話しかける。

 パワースポットっぽい場所で厳かに登場したんで、大物妖精なのかと思ったら案外気さくな様子。

 そういえば、水の神殿に居た妖精さんたちも、かるーい感じだったっけ。


「このあたりで、つちのものたちの、せわをしている、テトラです」


 土の祠に居るのがテトラさんね。

 今後ともお世話になるかもだから、しっかり覚えとかないと。

 どうも。と頭を下げると、テトラさんもサムズアップ。

 なんだか妖精さんに根付いてるらしい、サムズアップが。


「つちのものたちを、かじゅえんにてんざいする、りゅうけつにおくって、とちをゆたかにするのを、しゅみとしてるそうです」


 そっか。精霊を従えてるのは趣味なのか。


「なんか契約的なもので、この辺りに縛られてるわけじゃないんですか?」


「*****」

「*****」

「*****」


「ほしのみちを、300びゃくかいほどめぐるよりまえ、やかたをつくったひとに、そんなことをたのまれた、おぼえはあるそうですが」


 すごいフワッとした関係なんだ。

 ケイトさんも知らなかったみたいで、テトラさんの話に感心した様子で頷いている。

 その後、ケイトさんがテトラさんに色々お伺いする感じなのを待って、屋敷へ戻ることに。


「テトラは、あちらこちらをめぐっているので、はなしをするきかいが、なかなかえられない、そうです」


 ダラダラと路を下りながら、メリルちゃんが


「きょうは、テトラにあえて、とてもよかったと、およろこびですな」


 “ひと仕事してやったぜ”感を醸し出すケイトさんに顔を向けながら言った。

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