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天井灯は魔法の明かり。

 生活費と意志疎通が何とかなりそうな流れになり安心したせいか、妖精さんたちの生「踊ってみた」をポケーと見ながらいつしか寝てしまったようだ。

 肩をゆさゆさと揺らされて目を覚ますと、申し訳なさそうな顔をしたメイドさんのアップが俺に迫っていた。手の届くほど近くに突然あらわれた美女の顔にキョドッてしまうが、メイドさんはニコリと微笑んですぐに離れてしまう。

 寝惚けた振りして抱き付いたらどうなっていただろう。転移ものでお馴染みのラッキースケベなるものは本当にありうるのだろうか。

 雇用サイドからはお咎めないだろうけど、メイドさんに嫌われると今後の生活は針の筵か。庶務のオバちゃんとは良好な関係を持つのが会社生活の鉄則だし。セクハラ厳禁で。


 何か言っているようだがさっぱりわからん。

 意志疎通のためにドジッコメイドがパントマイムを始めてラッキースケベに至るのが王道展開だが当然そんなことはなく。

 なんか衣類らしきものを手にしているが、着替えろってことか?

 頼みの綱の妖精さんをきょろきょろと探すと、枕の上に大の字で寝ているメリルちゃんを発見。

 ベッドによじ登って枕元まで這い進みポンっと枕を叩いてやると、メリルちゃんはブワッと飛び上がり、ベッドの天蓋にぶちあたる。

 しばらくじたばたしたのち、辺りを警戒しつつ降りてくるメリルちゃん。

 俺の手が枕にかかっているのに気がついて状況が把握できたのか、ちょっと照れ臭そうな感じで俺の前にホバリングする。マジ可愛い。

 ドジッ娘枠はメリルちゃんか。


 そういえばメイドさんには妖精さんは見えないのではないかと気がつき、俺っておかしな人に見えてるかなとメイドさんをちらっと伺うが、さすがはリアルメイド。きっちりとアルカイックな微笑みフェイスであった。

 天蓋の布が風もないのにバタバタするのにも驚いた様子はないし、妖精さんがいるのは聞いているのだろう。

 俺はわかりやすい仕草でメイドさんをみて、メリルちゃんをみる。

 メリルちゃんもメイドさんも俺の意図に気がついてくれたようで。


「*******」

「ゆうげのしたくができたので、きがえてほしいといっています」



 用意されていた服は、長袖のポロシャツ。

 機織りされた木綿のような風合い。襟があり袖は筒状になっている。胴は前身頃と後ろ身頃を横で縫い合わせてある。首元が開いているので、被って着ればよいのだろう。まんまポロシャツだ。

 パンツは開きはなく、はいて腰紐で止める部屋着っぽい仕立て。素材は少し厚手。

 上は水色、下は紺の単色。どちらも華やかな刺繍が施してある。

 夏場のおっさん部屋着だ。スーパークールビスでも仕事に着ていくにはためらわれる。

 日本人の感覚ではプライベートだとしても有力貴族との夕餉に着る服ではないが、文化の違いなのか、それともリビングで一人で食べろと言うことか。大勢の中で言葉の通じないままボソボソと食べるよりは、一人で食べていた方が気安くはあるが。


 開け放たれた窓から差し込む日の光は低く、そろそろ日の暮れる頃合いと思われる。暑くもなく肌寒くもなく。日本なら初夏の気候。多分この辺りは気候的に過ごし易い場所なのだろう。


 シャツのボタンを外し前身頃を開くと服の肩を引かれる。

 やはりメイドさんの介助がありますか。こんなところはお貴族様っぽい。

 しかし32にもなると、温泉施設のロッカールームや会社のトイレに掃除のオバちゃんとかが平気で入ってくるのにもなれたもの。よくある転移ものの主人公のような、あからさまなブリッコをする気にもならず。そんな意志疎通できんし。

 躊躇なくパンツのジッパーを下ろす。さすがにメイドさんには背を向けたままだが。

 用意された服を着ながらちらりとメイドさんに目をやると、不思議そうな顔でズボンのジッパーを観察している。この世界にはジッパーは無いようだ。イケメンに売れるかも知れん。


「メリルちゃん、メリルちゃん」

「なんでしょうか」


 俺はパンツの紐に手をかけ、シャツの裾は出すべきか仕舞うべきか考えながら妖精さんに声をかける。


「先生はどうしました?」

「せんせいはちゃーじできたとおっしゃって、かえりました」


 そう言って窓際を指し示すメリルちゃん。

 スマホのなくなったソーラーチャージャーがポツンと窓際にたてかけられている。

 どうやら先生が訪れた最大の目的はスマホの充電だったらしい。


 シャツの裾をパンツの中に刺したり外に出したりしながら、どっちにするべきかを仕草でメイドさんに尋ねる。


「そとにだすのがよいといってます」


 片手でお腹を押え、もう片方の手の平を上から外に向けて下ろすメイドさんを見て、俺も多分そうなんだろうと思った。


 パンツの紐を締めながら窓際に歩み寄りバッテリーチャージャーを手にする。

と、ふと思いついてサイドデスクに置かれたiPadに繋ぐ。サイドデスクの上はすでに暗くなってきているので、もう今日は充電できないだろう。


 そう言えば、照明はどうなってるんだろう。

 ランプでも吊すのだろうかと思ってメイドさんを振り返りながら天井を見上げると、メイドさんが何かに気がついたように手をかざした。


 天井に埋め込まれた細長い水晶のようなものが薄く光り始める。明るさと大きさは、30Wくらいの蛍光灯。それが10本。


「あれは何ですか? あの薄ぼんやりと光ってる奴」

「あれはあかりのまほうをつめたまほうのいしですね。ひとのよではそれなりのおねだんがするそうですが。このおたくはおかねもちのようです」

「どのくらいの時間使えるんですか?」

「いしはまほうをつめなおせばいつまででも。まいよつかうだけなら、つきがさんどめぐるほどでまほうのつめなおしでしょう」


 なるほど。魔法を電池みたいにして使ってるのか。文明レベルは意外と高そうだ。

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