お茶とかしながら「おほほ」とか言ってるポジションの人
手足を洗ったら、次はそのまま食堂へ向かうらしい。
メイドちゃんが案内してくれる。
そう言えば、このメイドちゃん。何もの?
「ちかくにすむ、いちもんのかた、だそうです」
近くを飛んでいたメリルちゃんに尋ねると、世間話?中に仕入れていたと思われる情報がすぐに返ってくる。
「まだ、としわかく、しゅぎょうのみですが、かりだされたのだと」
「近隣に住む一門の方だと、どこかのご令嬢なんじゃないの?」
「ほりむこうの、あおいへいのおやしきにすまわれる、おじょうさんだそうです」
「一門の武家屋敷でしたっけ?」
「ししゃくとか、そんなくらい?」
おぉ、門前屋敷の子爵家令嬢!
それはあれだ、将来侯女ちゃんの取り巻きになって、一緒にお茶とかしながら「おほほ」とか言ってるポジションの人じゃないか。
そんな御令嬢にお仕着せを着させて、俺のメイドなんかやらせて大丈夫なのか?
まだお子様みたいだけど。
「つきがろくどめぐるほど、いえでさほうをまなんだのち、このやしきでまなぶてはず、だったそうです」
「ああ、一応あと半年もすれば、行儀見習いに入る予定ではあったのね」
「なかなかにまえむきで、みどころのある、こどもですな」
メリルちゃんには好評価らしい。
「市場にいた、青服の子たちより年下ですか?」
「いちばんわかいものたちと、おなじほどだそうですが」
まだ小学校高学年。ちょうど侯女ちゃんと同じ年くらいか。
市井の子たちが小卒で働くのはわかるけど、貴族だと上級学校に進んだりしないのかな。
それとも、貴族とはいえ2番手、3番手くらいの女の子だとそんな扱いなのか?
「*****」
「*****」
「*****」
俺の疑問を尋ねにメイドちゃんのもとへとメリルちゃんがスゥーと飛んでいく。
そんなメリルちゃんに、きちんと立ち止まって相対するメイドちゃん。
お育ちの良さが伺える。
「ここのおんなのこと、いちねんほど、しんこうをふかめたのち、ともにみやこのがっこうへ、いくそうです」
いや、マジで侯女ちゃんのとなりで「おほほ」とか言いってる立場の娘さんだった。
さすがは良家のお嬢様。歩く姿勢が綺麗だよね。なんてことをメリルちゃんと話しながらメイドちゃんに付いていくと、どうやら食堂についたっぽい。
多分昨夜とは別の部屋だと思う。
扉の大きさが一回り小さい気がする。
メイドちゃんが声をかけると、昨日同様に中から扉が開く。
誘われるまま部屋にはいると、20畳ほどの部屋のさらに奥が膝丈ほど高くなっていて、8人掛けくらいの堀ごたつ風になっている。
その堀ごたつの一辺に魔法使いが陣どり、なにやら書類仕事中。
そばに控えていた青年に声を掛けられて俺に気付くと、「どうぞこちらへ」といった感じで対面の席を示されるので奥へ進む。
この一段高くなったところ、靴は脱ぐんだよな?
段に腰かけて前屈みになりつつ辺りをこっそりと伺うが、誰も止めに入らない。
靴を脱いでくるりと身体をまわし、堀ごたつにもぐり込みアラウンドチェック。
うん。側仕えの青年も靴履いてない。
俺が席をきめている間に、青年が机の上の書類を片付け、メイドさんが食事の準備を進めていく。
今日はA3ファイルサイズくらいの盆に2つの皿と3つの小鉢が載った、膳みたいな仕様だ。
それにナッツの様なものが混ぜ込まれたパン。
「*****」
「*****」
「*****」
「きょうは、このあたりでふつうにたべられている、きょうどりょうり、だそうです」
フム。
見ためは春巻と肉野菜炒め。
小鉢のなかは不明だが、幸いにして忌避感を感じる形質のものは入って無さそう。
テーブルの上には膳が2つしか並んでいないが、後の二人は来ないのだろうか?
魔法使いは、どうぞどうぞ、と言ってるようだが。
「あとの二人、待たないで食べちゃっていいのかな?」
「*****」
「*****」
「*****」
「おとこのかたは、よういちさんのほうこくに、じっかへいかれたと」
「*****」
「*****」
「おんなのこは、おつきあいで、でかけているそうです」
やはり異世界人の召喚なんてのは、自ら上に報告すべき案件らしい。
そして侯女ちゃんは、隔離したか。
妥当な判断だろう。
俺も、妙な気を使わなくて済む分助かる。
あれ? もしかして、ケイトさんの変わりにメイドちゃんが来たのは、俺にロリ癖がないかを試されてる?
ふわふわとお膳の上を飛び回りながら小鉢の中をチェックしているメリルちゃんと、俺の横に控えているメイドちゃんに、さりげなく視線を送る。
小さいものを可愛く感じるのは普通の感情。俺はロリじゃない。おっぱいはあった方が好き。
じゃあ、気をとりなおして、食事をさせて貰うとしよう。
まず春巻をコテで一口サイズにカット。
パリっと薄皮が破れるいい感触。
ただ、中身はふんわりとしたはんぺんとかそんな感じ。
フークで突き刺しまずは口に運ぶ。
食感は、はんぺんを春巻の皮で包んで揚げたもの。
たぶん、はんぺんを甘辛く味つけて、春巻の皮で包んで揚げるとこんな感じ。
はんぺん春巻を一本食べ終り飲物に手を伸ばしたタイミングで、魔法使いから半紙が一枚渡された。
なんだ、このへたくそな絵は……。
俺の描いたキャスターバッグじゃないか。
え? キャスターをご存知ない? そこから?
「こうして二枚の円版に軸を通して、その軸を上から固定して、さらに縦軸を回転するように……」
半紙を用意して貰い、メリルちゃんに説明しながら、フリーハンドで絵を何枚かと三面図を描く。
図面に加え、身振り手振りを重ね、さらには料理の中にあった胡瓜みたいな円柱状の野菜まで動員して説明をしていると、ちょっと偉そうな執事さんみたいのがやってきた。
あれ? 肉野菜炒めが下げられてしまう。
怒られて、飯抜き、みたいな?
この胡瓜みたいの、ちゃんと食べますよ。
「あたたかいものを、おもちしますと」
違ったようだ。
話しに熱中して肉野菜炒めが冷めちゃったのを気くばりしたらしい。
全く持って、申し訳ない。
春巻の方は、皿に保温の魔法が掛かってるらしい。
肉野菜炒めは?と聞いたら、保温すると乾燥してしまうのでやらないのだとか。
凄いな。いろいろ考えられてる。
肉野菜炒めが出てくる間、春巻をかじりつつ、パンをこねくり回してメリルちゃんサイズの自転車を作ってみる。
メリルちゃんに硬化の魔法を掛けて貰うと、フランスパンで作ったパン屋のディスプレイみたいな自転車が完成。
ペダルとチェーンで後輪を回転させて、体感でバランスをとりながら進む乗り物という説明をする。
微妙な出来ではあるがそれなりの形をした模型があるせいか、なんとなくは理解できたようだ。
新しく作り直された肉野菜炒めと温かいパン、そして良くわからない小鉢の中身を美味しくいただいて、食後の飲物で一息いれる。
氷菓子の入った壷が10種類も出てきて何か選べというので、プレーンなアイスっぽいのとシャーベットらしきを2種類セレクト。
明日の予定を聞かれたので、多分、筋肉痛で動けないと言ったら笑われた。
シャーベットを食べながら、なんの気もなしに折った紙飛行機を飛ばすと、結構良い感じに飛んでくれる。
“魔法の気配もなく空を飛ぶ”ということに魔法使いとメリルちゃんが強い感心を示すので、うろ覚えの航空力学に関して若干のレクチャー。
メリルちゃんが対抗心を燃やしたみたいで、紙飛行機を拾ってくると、もう一度投げろと。
だが、二投目はあっさりと失速。
追いかけて飛んだメリルちゃんのドヤ顔が愛らしい。
そりゃあ、月までも飛ぶ魔法生物と手折りの紙飛行機を比べられてもねぇ。
とりあえずキャスターと自転車、それにグライダーの模型を作りましょうと、木工職人を手配して貰うことになった。




