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例え異世界だろうと、そうあちこちにラブコメは落ちてない。

「どうぞこちらへ」


 と誘われた気がするので、頭の上にメリルちゃんが居ることを確認しながら一歩踏み出し、ふと気がついてエマさんを見返す。


「*****」


 メリルちゃんの呼びかけに応えて、味噌の品質確認?に余念のなかったエマさんが振り返りフワフワと飛んでくる。


「*****」

「*****」


 なにやら会話をしていた妖精さんたちだが、話がまとまったのか、二人して俺の頭に座り込んだようだ。

 なぜなら、四本の棒のようなものが、俺の額にぶらぶらと当たるから。


 妖精さんズを頭に載せて店の奥、ケイトさんのもとへと歩いてゆくと、更に奥へと誘われる。

 物珍しい調理道具やら高級そうなカトラリーの間を通り抜けると、奥には立派な扉が控えていて、その扉から外へ出ると、そこは車寄せのようだった。

 お貴族様の御令嬢っぽい別嬪さんが従者を従えて佇むところ、スーと静かに入ってきた大型の箱馬車が俺の前に止まる。

 今朝型乗ってきた、あまりお忍び感のない箱馬車の登場に、お嬢様っぽいのの視線が馬車→俺→馬車→俺と二往復する。

 そりゃそうだ。

 自分の前に割り込んだ、貴族名鑑の上位に書かれているに違いない紋章を抱いた馬車の登場にイケメン侯子が現れると思い気や、庶民派な醤油顔のおっさんが立ってたら二度見するのも致し方ない。

 ごめんよ。期待させてすまんな。


 ありがちなラノベだと、車寄せで御令嬢が「あてくしの前に割り込むなんてキーッ」ともめるとか、唐突に暴れ馬車が突っ込んでくるとか一波乱あって、ラブコメる展開に雪崩込んだりするのだろうが、まあ現実はこんなもんだ。

 暴漢が現れたところで、なにが出来るでもないしな。

 例え異世界だろうと、そうあちこちにラブコメは落ちてない。と思う。経験的に。

 異論は認めるが。

 二度見されたくらいだから、茶話会の席で“侯爵家に身を寄せる謎の醤油顔”として小ネタくらいにはなるかもだけれど、俺のところまで因果が巡ってくるのは風桶くらいの距離がある話だ。


 さておき、この馬車。

 乗っていた時は気付かなかったが、まるで高級乗用車のような、しなやかで優雅な動き。

 サスペンションとタイヤの性能の良さに改めて感心する。

 その上、なんか今朝見たよりデカクね?と思ったら、馬車は俺の前に止まると、客室がゆっくりと沈んだ。

 まさかのハイドロマチック仕様。

 今朝、乗る時、降りる時、上下動なんてしたっけ??

 若干驚きはしたものの、今朝方と違って足周りを覗くことはせずに馬車に乗り込んだ。

 こんなところでワタワタと時間を掛けて、御令嬢を待たせても失礼だし。

 結構歩いた疲れもあって、一度しゃがんだら、立ち上がる時「よっこいしょ」とかいいかねない気がするしな。


 でも、馬車に乗り込む時、足を少しぷるぷると震わせていたのは多分バレテタ。

 このままよろけたら、ケイトさんに抱きつけるかなとか思ったのは秘密だ。

 それをオッサンがやると、ラッキースケベではなく、セクハラに分類されてしまう。

 そんなことを考えてモタついてたらケツを押された気がしたんだが、どうもエマさんが風魔法?で押したらしい。


「きたいのあつりょくせいぎょは、まほうのしょほ、ですな」


 風魔法じゃなくて、気体制御なのか。動力としてもっと利用されてても良さそうだが。


「こまかくちょうせいするのは、ぎじゅつがいります」


 なるほど。ボンとやってワーっとするのは簡単だけど、小刻みに出すのは技術がいるのか。

 でも、エンジン開発のヒントになる予感。


 行きと同じ並びで座り、一度足を伸ばしてからふくらはぎを軽く揉む。

 しかし、この客室の広さも相当なもんだ。

 横は楽に三人座れる幅があるし、奥行きだって、前屈みになっても足を伸ばしても、護衛さんにぶつからないし。


 え? この座席、リクライニングするの? オットマンも付いてる?


 このオットマンに、ポンポンと風が吹き出すとか、風がウネウネする魔法具が付いてたら欲しくないか?


 いやー、異世界イイわー。

 俺の人生、どうなっちゃうんだろうと思ったけど、この異世界転移、むしろラッキーかも知れない。

 豪華リビングの1Lにメイド、賄い付き。

 食事もうまいし、衣食住に文句はない。

 まあ娯楽には乏しいかも知れんが。


 とはいえ、異世界転移者の端くれではあるが、あまり波瀾万丈なのは勘弁して欲しい。

 戦争は絶えて久しいらしいし、国としても治安はかなり良さそうだから、滅多な心配は必要無さそうなのがありがたい。


 飛行機のビジネスクラスなみの座席に包まれて、クッションの質感を確かめていたら、うつらうつらとする間もなく舘まで辿り着いてしまった。

 馬車に乗った裏通りを出てすぐに曲がった大通りが、行きに右折した高級住宅街とを分ける路だったので、どうやら銀座八丁目から京橋近くの距離を歩いてきていたようだ。

 途中で“回復魔法”を受けたとはいえ、普段ろくに歩くことのない生活を送ってきたデスクワークエンジニアには辛い旅だったわけだ。

 会社の健康ナンタラとかで一週間ほど万歩計を付けて、一日平均3000歩だったのはさすがに考えさせられたが。

 まあ、考えただけで、改善はしなかったんだが。


 二つめの堀を渡って屋敷の門前につくと馬車が止まる。

 今朝方と同じように数度の会話が交わされた後、馬車の扉が開いて機動隊さんが顔を覗かせる。

 ご苦労さまですと軽く会釈をするが、馬車をのぞき込む機動隊さんは出門の際とは違って、ちょと厳めしい顔のまま何やら灯のようなものを掲げて馬車の中を照らす。

 をお、灯に照らされて、反対側の窓に枠に掴まり外を見ていた妖精さんズの羽が鈍色に輝いた。

 外道照身霊破光線か。

 差し出された書類にケイトさんがなにか書き込み、署名らしきことをしている。


「エマのなが、とうろくされたようですな」


 いつの間にかケイトさんの持つ書面をのぞき込んでいたメリルちゃんが、何をしているのか教えてくれた。

 機動隊さんは書面を受け取りつつ、客室の下をのぞき込んでいる。

 入門にはそれなりのチェックが必要らしい。

 でも、メリルちゃんの先生とか、妖精さんは結構簡単に入ってきてるけど、良かったのかな?

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