魔法の調理器
外へ出ると、いよいよ日も暮れ始めるかと言う日射しになっていた。
思っていたより長居していたらしい。
俺は見ためマグライトな魔法の杖を手にニヤニヤと眺めながら、ケイトさんに誘われるまま先へと進む。
杖の胴に描かれた文字のような、印のようなものを良く見ようと手に持った杖を目の前に掲げたところで、不意に手元が明るくなった。
おや、っと思い辺りを見渡すと、丁度すぐ脇を、おしゃれな服に不似合いな、オレンジ色の貫頭衣?を被った女の娘が走り過ぎていく。
防犯パトロールなんかで着てるようなアレだ。
目立つその色合いにつられて目線を送ると、女の娘はすぐに立ち止まり、上を見上げて手を振る。
あ、灯がついた。
なるほど、このアーケード街は、ああして灯をともしていくのか。
女の娘は既に次の灯へと走り始めている。
振り返ると、トイレとか廊下とかの明るさ。たぶん40Wくらいの灯が10メートルか15メートルくらいの間隔で灯っている。
酒場だろうか。
間口いっぱいに大きく扉を広げ、通路にまで椅子を並べだしている店が何軒もある。
そして店の奥から雑多な薫りが漂いだしてくる。
香辛料、甘味料、調理オイル。
異国情緒の漂う香りに誘われるように、夕刻の賑わいを見せ始める商店街をきょろきょろと眺めながら歩いていると、肩が触れるほどの距離に近づいたケイトさんに腰を押される。
通路に並べられたテーブルに、すぐ脇の店から若い女性が石の板?を持って、机に並べに出てくるところだった。
「■▽##▲の店ですな」
店に掲げられた看板らしきモノを見上げて、女性が置いていった机の上の石版をペタペタと触りながらメリルちゃん。
「■△””▲?」
「■▽##▲です。あちらのやまにあるまちの、めいぶつで」
メリルちゃんが石版の上にふよふよと浮かびながら左手の方を指す。昼時の太陽と反対方向なので北の方?
「このせきばんをあつくして、にくややさいをいためたりょうりです」
ふむ。溶岩焼きみたいなイメージなのかな。
でも、
「この石版をどうやって加熱するんですか?」
机の上に直に置いてあるだけなんだけど。
「このせきばんのうらがわに、まほうせきがつめてあるので」
いいながら、メリルちゃんが石版を叩く。
「かねつのまほうをつかえば、せきばんがあつくなりますな」
え?
俺は思わずしゃがみ込んでテーブルに顎を乗せ、石版の横面をマジマジと観察する。
よくわからん。
要するに電源のいらないホットプレートみたいなもんか。
「*****」
ケイトさんがちょっと引き気味に声を掛けてきた。
店員の女性が困惑気味に俺を見てる。
「ちょっと裏返して見てもいいか、聞いて貰えますか?」
ジェスチャー混じりにメリルちゃんに頼んで、ケイトさん経由で承諾を貰う。
お、この石版、結構重いな。
裏返して見ると、石版に十円玉くらいの魔法石がずらりと埋め込まれている。
なるほど。この石が熱源になって石版を加熱する仕組みか。
魔法便利だ。現代文明の利器よりも冴えてるんじゃないか?
「*****」
にゅっと、横から伸びてきて、石版の隅にあるマーク?を指し示す。
俺が見上げると、手の主であるケイトさんがドヤ顔で何か言っている。
「かのじょの、じっかの、しょうひんだそうです」
なるほど。




