赤い石、青い石、透明な石
手鏡は無いな。と思いながら、奥の魔法石が並ぶところまでやってきた。
奥の棚の手前にあるカウンターテーブルに小さな宝石が並べられて、エマさんがフムフムと頷きながら見ている。
カウンターの向こうに立つ店員さんは、妖精が見える人らしい。
「このあたりのいしは、てんねんものですな」
エマさんの横に並んだメリルちゃんが、カウンターに並んだ魔法石を指さす。
「きしょうなのでおたかいですが、せいのうはほどほどです。たんじゅんなせいのうなら、あちらのじんぞうものが、よろしいかと」
そう言ってメリルちゃんがふよふよと飛んでいく先にある、大きな宝石。
赤い石、青い石、透明な石。
握り拳ほどはある宝石が、間接照明に照らされて淡い輝きを放っている。
「ぜんぶおなじ、いろちがいです」
同一組成の赤と青の宝石?
ルビーとサファイアか。
ようするに酸化アルミニウムの結晶だ。すると透明なのはコランダムか。
そう言えば、杖は軽銀が良いっていってたな。
魔法はアルミと相性がいいのか??
「軽銀の杖もお勧めでしたが、同じものから出来てますか?」
俺の質問に首を傾げ、パタパタと杖の方へと飛んでいくメリルちゃん。
そしてまたパタパタと戻ってきて、こんどはエマさんを連れて飛んでいく。
暫く二人して軽銀の杖を突っつきまわしたあと、スーッと戻ってきて、
「すごいですな。よういちさん。たしかにおなじものです。べんきょうになります」
宝石にたかるようにしておおっと驚き、目を大きく見開くメリルちゃんたち。
「杖の方は、アルミという材料だと思います。単体では軽くて柔らかい金属ですが、混ぜものによってとても硬くなります」
ジュラルミンて、アルミの合金だったよな?
「宝石の方は、アルミの酸化したもので、混ざりものが無いと透明に、混ざりものの種類によって、赤かったり青かったりします」
「さんか?」
「酸化というのは、大気とか水とかを構成する物質の酸素というものが、硬くくっついた状態です」
俺の説明に、尊敬の眼差しを向けるくメリルちゃんたちに、ちょっと照れる。
「アルミは非常に酸化し易い物質なので、杖の表面、薄皮一枚は、この透明な宝石と同じもので覆われている筈です」
そうです、そうでした、と俺の言葉に同意をしめす二人。
「魔法はアルミと相性がいいんでしょうかね」
なるほど、と首を立てに振るメリルちゃん。
「それはだれかにけんしょうさせるひつようがありますな。せんせいに、おつたえしておきましょう」
どうやらメリルちゃんは、材料学にはあまり関心のないご様子。
『早速調べねば』とか言ってどこかに飛んでいかれたら、俺、死んでた。
他人に任せて貰えるのは助かる。
エマさんは醗酵のスペシャリストだけど、メリルちゃんはゼネラリストっぽいよな。
「ところで、」と話しを区切って、棚に並んだ魔法石をツラツラと見比べる。
「いい魔法石、っていうのはどういうのですか?」
「ためられる、まほうのりょうと、いちどにとりだせる、まほうのりょうで、よしあしをきめることが、ふつうではないかと」
蓄電容量と出力電力みたいなことか?
「あと、ろうえいまりょくが、おおきなものはだめです」
ますますモバイルバッテリーだな。
「こうしてまりょくをこめて、」
と、メリルちゃんが魔法石に手を当てて言うのだが、なんか俺の方を見たまま喋りながらなので、なんだか全然そんな魔法を込めてるなんて思えない。
「こんなふうに、みためがかわらないのが、ようりょうがおおきく、もれのない、いしですな」
ちょっと前屈みになって魔法石の方に顔を寄せてみるが、これ、近付いても大丈夫なんだろうか?
急に光ったり、爆発したりしないよね?
「あんなふうに、ぼんやりひかるのは、もれてますな」
メリルちゃんが指さす方では、エマさんが同じようにして魔法石に魔法を込めているが、たしかに薄ぼんやりとした光が魔法石から洩れてきている。
「あれは、まりょくこめすぎですが」
なるほど、容量オーバーでの注入でデモしてくれてるのか。
どおりでドヤ顔なはずだ。
「エマがあれだけこめてもボンてならないのは、むしろ、よいいしです」
メリルちゃんが胸の前で組んだ手を「ボン」というかけ声とともに、パッと開く。
仕草はかわいいんだけど、やり過ぎで爆発するのって危なくない?
エマさん、もうわかったから止めて……。
エマさんが魔法を込めていた石をおっかなびっくり観察しながら、『魔法の練習用に一個欲しい』と一言もらしたところ、伝え聞いたケイトさんが、それではと、なんか見るからにお高そうな杖と魔法石を用意し出した。
俺に魔法石が使いこなせるか、というか、使えるのかどうかも定かではないってレベルなんで、まずは練習とかお試し用に、小さいので良いんだけど。
と謙遜したら、あまい棒が味わえたなら、全然使えないってことは無いそうだ。
ほうほうほう。俺もいよいよ魔法使いか。それはテンション上がるな。
まあ、現代オタクの基礎知識的にはすでに魔法使いなんだが。
「よういちさんなら、このくらいのは、いけるでしょう」
なんかメリルちゃんが、奥の棚に並んだなかの、深い湖のような濃く澄んだ青色をした石をペシペシと叩いている。
それって、サファイアの中では最上とされる色じゃないかと思うんだけど。
「あかいほうが、おこのみですか?」
そっちのルビーも宝石として超の付く一級品だよね。
ああ、でもどっちも人造品か。
青いのと赤いのと透明なのでは、透明な方が良くない?
「いろは、こいほうがためやすく、うすいと、もれやすいですな」
「じゃあ、もっとこう濁った色では?」
「とうめいどがひくいと、ちからがとおりにくくなります。はつどうのばいたいには、とうめいないしがよいとされます」
なるほど。通しやすく、漏れにくく、より貯るのは、色が“濃く”てなおかつ“澄んでいる”のがいいのか。
「これと、これを、かたほうずつ、てにどうぞ」
メリルちゃんとエマさんが、丁度同じくらいの濃さと透明度のルビーとサファイアを両手で抱えるようにして持ちながら飛んできて、俺の掌に載せる。
「*****」
「*****」
「*****」
なんとなく石を握ろうとした俺の指先を押えるようにして身を乗り出すエマさん。
メリルちゃんとエマさん、それにケイトさんと店員さんまで集まってきて、俺の掌に載った宝石を観察しながらなにか喋っている。
「やはり、ようちさんは、あおいほうが、あいしょうがよさそうですな」
メリルちゃんが、俺を見上げて厳かに告げた。
へー、ほー、ふーん。
情熱の赤、知性の青?
そういうのは関係ないですか、そうですか。




