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魔術効果の付与された生地

 小さなメッセンジャーバッグが気になったが使うあてもない。

 いずれ独り立ちできた時には買いにこよう。

 来たいな。来られるように頑張らないと。と思いつつ店を出る。

 店にはいって、商品を選んで、ものを買う。

 まあ異世界とはいえ商業活動ってのはどこも同じだ。恐れるに足らず。

 そんなふうに思っていた頃もありました。


 二区画ほど路地を歩いてからアーケードに戻ると、このあたりは入口よりも間口の広い店がならんでいた。

 どの店も高級そうか老舗っぽい、そんな店がならんでいる。

 ここは肉屋か?

 大きく開ききった間口。それを塞ぐようにして、牛とか豚とか、そんな感じの肉が、ガラスケースのなかにならんでいる。

 なんか松坂牛とか飛騨牛とか書いてありそうな、木製の削り出しのプレートが立てかけてあったり。


「あの青いのが、冷却の魔法石ですかね」


 ショーケースの天版をのぞき込む俺の顔の横で、一緒になって見上げているメリルちゃんに聞いてみた。


「あおいのがれいきゃくで、しろいのがしょうめいですな」


 メリルちゃんが、小さな指で指し示しながら教えてくれる。


「照明の魔法石には、昼白色とか昼光色とか、色の種類はありますか?」

「ちゅうはくしょく? ちゅうこうしょく?」


 どうやらご存知ないようだ。


「白い光っていうのは、実はいろんな色が混ざりあって出来ていて、」


 と、どこかの照明器具のカタログで読んだうろ覚えの知識を披露する俺。


「ひかりのさんげんしょくというのはしっていましたが、それは知りませんでした」


 メリルちゃんは感心しながらケイトさんの方へと飛んでいく。


「*****」

「*****」

「*****」

「*****」


 メリルちゃん、ケイトさん、エマさんに、護衛のヤサ男の方も混ざって首を振ったり頷いたりして、


「りくつはわかりませんが、“どこそこのまほうせきはしょうひんがはえる”というのはあるそうなので、こうぼうのひでんのようなものではないかと」


 おや、どこぞの工房の秘伝を解き明かしてしまったらしい。

 まあ、どの波長を減らしたらいいかとか、それはどうやってやるかとかを知っているわけではないから。

 iPadに入ってる照明のカタログに載ってる図表くらい見せるから、あとはがんばって開発して下さいと。



 そんな感じでアーケードをぶらぶら散策していると、一際高級感漂う店?の扉が開かれた。

 さあどうぞ、といった自然な感じでケイトさんに案内されるまま、店の扉を潜る。


 え? 何の店??


 中はとくに商品といった様子の品もなく、何脚かの長椅子が置かれた、お屋敷の玄関ホールのような場所だった。


「*****」

「*****」


 ケイトさんが、どこぞのマダム然とした女性と話しをしている。

 マダムの後ろには執事?とメイド?

 でも執事の方はそれっぽいが、その後ろに控えてる女性はメイドって感じじゃないか。


 つんつん、とメリルちゃんにつつかれて振り返ると、高校生くらいの女の子が立っていて、「どうぞこちらへ」と一脚の長椅子へと誘導される。

 なんだろう。あっちの女性とは衣装が違うし、私服だよねそれ。

 長椅子の前まで連れていかれ、さて座ってもいいのかと振り向くと、さっきの執事っぽいのが女性を連れて立っていた。


「すこしてをひろげて、たってほしいそうです」


 執事も手を広げて俺に笑いかけてる。

 え? 何の店?? 俺はノン気だよ?

 頭いっぱいに疑問符を浮かべながら、両手を軽く広げる。

 すると、しゃがんだ女の子が俺の右袖を取り、左に回り込んだ執事が左袖と肩に手を回した。


 ああ、これは採寸だ。

 なるほど。ここは、オートクチュールの服屋か。


 どうやら執事と見えたのはマネージャー。女性がパタンナー。女の子がお針子さんで、マダムがデザイナーの模様。

 男性はもしかすると仕立て職人とかかもしれないが、まあ、概ねそんな役職の人達みたいだ。


 採寸が終ると長椅子に座るよう促されて、出された飲物に口をつけていると、次々と布地が運び込まれてくる。

 布地だけじゃない、なにやらコチラの衣装らしきものを来たマネキン、そしてデザインスケッチ。

 あれ? そのマネキンが着てるの、俺が日本から着てきたシャツとジーパンだよね?


「*****」


 マダムとか女性とかが、俺のシャツとジーンズを見て誉めてるっぽい。

 この手前の水色した生地や、奥の赤いのだって、編みの細かさも一様さも、あんまり変わらないと思うんだが。

 ああ、これだけ目の細かい布地は、技術的には作れても、家内制手工業みたいだから、単純に“高い”のか。

 日本じゃ一着三千円程度の安物なんだが。



 カラフルだったり、緻密な刺繍がしてあったり、絶妙な染めだったり。

 俺の目の前に次々と、高級感漂う生地が広げられる。

 ぶっちゃけ何用の服のためなのかわかってないままだ。

 日常でそんな豪勢な刺繍の服着るの?

 屋台街じゃそんな派手な柄の服着てる人いなかったよね?

 さっき食事した店のお客さんは、……あれ? そんなの着てたっけ?

 でも当面のところ、あのお屋敷から外に出るなんて滅多になさそうなんだが。

 まさか、パーティーとかでることになってたりしないよね?

 あー、でもいずれは侯爵様にご挨拶もしなきゃならんだろうし、その時は礼装とか着ないとダメなのかも。

 とにかくここ十年ユニクロでしか服なんか買ったことのない俺に意見を求めないで欲しい。

 どんなに頑張っても、素材が素材だからどうにもならんよ。

 そんな俺のビビリオーラを感じとってくれたのか、女の子とマネージャーが俺に布地を次々と当て、マダムとケイトさん、それに店の女性と護衛の若い男の四人で、俺の意見を聞くこともなく、あれこれと言いあっている。


 そんなさなか、一枚の布地が俺に掛けられた時、メリルちゃんがふよふよと飛んできて、生地の刺繍を検分しながらふんふんと頷いた。


「このししゅうは、なかなかよいものですな。まじゅつてきに」


 へー、ほー。なんかこの刺繍には魔術的な加護があるらしい。

 俺は掛けられた布地を持ち上げ、刺繍を観察する。


「このあたりのししゅうに、まりょくをあつめるこうかがあります。あとそこと、あのあたりも」


 メリルちゃんが、丸く抽象化した赤い花らしき刺繍と、菱形の市松模様を示す。

 図柄が効くのか、色合いが関係するのか、はたまた縫い方か。

 魔方陣的ものはあるってことか?

 その辺りを縫う時に単純に念が込められてるって可能性もあるのか。

 そして少し距離をとって、


「ぜんたいには、かるいぶつりしょうへきをてんかいしていますな」


 布地全体を見回すようにして、ふむふむと頷いている。

 俺には特に何も感じられないんだが、メリルちゃんがそう言うならそうなんだろう。

 なんせ魔法生物の妖精さんだからな。


「物理障壁って言うと、なんか飛んできた時、バーンと跳ね返しちゃうとかですか?」


 それって、いかにも魔法的で、チョーカッコ良くない?


「むしにさされにくいですな。よごれもつきにくいですし」


 それは、便利は便利だが……微妙だね。

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