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“異世界”で“魔法”で“鞄”

 メリルちゃんと話しながらも、ちらちらと店の窓をのぞきこんでは、ウインドウショッピングに興じる。

 そのうちの一軒、やや広めのガラス窓のすぐ脇に、丁寧に鞣された綺麗な色合いの革の鞄がディスプレイされているのを見つけた。

 両手に抱えるほどの大きさの、がま口のような形。いわゆる郵便鞄というやつだ。

 ただし、落ち着いたグリーンに染められた、ヨーロッパの高級ブランド品のような仕立てだけど。

 物珍しさにマジマジと見ていたせいか、ケイトさんがにっこりと微笑みながら店の扉を開いてしまった。

 折角なので、店を覗いてみることにした。

 “異世界”で“魔法”で“鞄”とくれば、やっぱり気になることがあるしな。


 店に入り、ぐるりと商品を見渡す。

 中央のテーブルには、やや小振りのショルダーバッグがずらりと並んでいる。

 日常用に使い易い売れ筋ってことか。

 左の壁には大きめの旅行鞄がずらりと並び、右の壁にはリュックタイプの鞄が吊り下がっている。

 奥の棚にならんでいるのはトートバッグ。意外やハンドバッグがない。

 俺は中央のテーブルに並んだショルダーバッグの一つに手を伸ばし、手にとって蓋を開ける仕草をしながらケイトさんをみる。


「*****」

「*****」


 ケイトさんが、いつの間にやら俺のすぐ脇に控えていた店員と言葉を交わすとうなずいてきたので、多分触ってもいいのだろうと手にとり、蓋をあけて中を確認する。

 鞄は革製で内張りもしてある。中仕切りが一つ付いていて使い易そうだ。

 蓋はバックル止め。外のボタン付のポケットも便利そうだ。


 鞄を戻し再び店内を見回すと、左の壁の方に、飾り窓に置いてあったのと同じ形で色違いの鞄があるのを見つけた。

 その赤い郵便鞄まで歩み寄ると、店員がすかさず鞄の口を開きながら俺に手渡してきた。

 メイドと護衛付の一行なんて、上客と思われたか?

 買う気は全然ないので申し訳ないと思いつつ鞄を検分する。

 革にさほどの厚さはなく、思ったほど重くない。それでもかなり頑丈そうな感じがする。

 大きな口をガバリと開ききり、中をのぞき込む。モノはいっぱい入りそうだ。


「メリルちゃん、メリルちゃん」


 俺の手元からスルリと鞄に入り込んで、中を検分しているメリルちゃんに、気になっていたことを聞いてみることにした。


「魔法の鞄てないですか?」

「まほうのかばん? なんのまほうですかな?」


 大きな鞄の底に立って薄ぼんやりと光るメリルちゃんが、俺の方を見上げて首をかしげる。


「物語りに良く出てくるのは、見かけの数十倍は物が入る鞄とか」

「それはどこにはいるんですかな。くうかんがきょすうじくほうこうにのびているとか、くちがどこかにつながっているとかでしょうか」


 メリルちゃんはそういいながら、鞄を広げるつもりか、内側をグイグイと押していく。


「まあ、『魔法だから』で、理屈なんかつけないんだけど」

「なるほど」


 とバックルに手を掛けて、鞄から顔だけ出して俺を見上げながらうなずくメリルちゃん。


「じぞくせいのくうかんまほうをかけたとして、じゅつがきれたり、かばんにあなとかあいたらどうなるんでしょうな」


 それはまあ、爆発するんじゃないかな。あるいは、中身が津波のように溢れ出すとか?


「そんなあぶないものてもとにおいたり、」


 とメリルちゃんは鞄の縁に腰をおろし、鞄の中を見ながら言った。


「どこにつながってるかもわからないあなにてをつっこんで、こわくないですか?」


 確かに。ブラインドボックスに手を入れてギャーギャー騒ぐのは、バラエティーの定番だ。

 でも便利であれば、すぐに慣れちゃうかも知れないけどね。


「うったかばんがおおきなじこでもおこせば、せきにんをとわれそうですな」


 ああ、それはあるかも。

 マジックアイテムの製造物責任問題なんて、せちがらい話だ。


「まほうけんでの、たいしょうごにんによるじこは、せいぞうしゃせきにんか、しようしゃせきにんか、もめることがおおいです」


 そう言えば、似たようなはなし、車の自動運転で問題になってたっけ。


 結局、もし作れたとしても持続性の空間魔法なのでとてもお高くなる。その割に事故が起きた時のことを考えると、それほど大容量の鞄は作れない。そのため、程ほどしか入らないけど、やたら高い鞄になるので多分売れないだろう。ってことになるようだ。

 まあ空間魔法ってのがそもそもほとんど実用化できてない魔法らしい。

 異世界と繋ぐのはズボッと手を伸ばすだけでいいけど、同じ世界に繋ぐには他の空間魔法との干渉とか世界そのものとの干渉とかいろいろ影響し合うので、制御面で難易度はむしろ跳ね上がるのだそうだ。

 魔法の鞄なんて作れるのなら、その応用でテレポートとか出来て、物流革命達成しちゃってるか。


 そんな風に納得しながら、旅行鞄と思わしきコーナーを巡る。

 どこかの有名ブランドで見たことのある、洋服ダンスみたいな鞄とかもあった。


「キャスター付きの鞄はないんですか?」

「きゃすたーとはなんですかな」

 

 あれ? キャスターってないの?


「小さな車輪と引き手のついた鞄で、」


 説明しながら、新しい半紙に簡単な絵図面を描いていく。

 絵ごころの乏しい俺だが、さすがにこれくらいは描ける。描けてるよね?


「*****」

「*****」


 俺の描いた絵をのぞき込んだケイトさんが半紙を受けとり、なにやらメリルちゃんと話したあと、そっと半紙を畳んだ。


「あとで、くわしく、こうしにしょうかいしてほしいそうです」


 そうですか。なにやら金の匂いがしますか。

 俺はポケットの半紙に、『キャスターバッグ』とメモを追加した。

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