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肉まん

 路地を進み、二本目の角を曲がる。

 そうして一際目立つ門構えの店に案内された。

 ドアマンが立ってるし。


 恭しくドアを開くドアマンにビビルも、店内はおしゃれなカフェといった雰囲気の店だった。

 少し着飾った雰囲気のお嬢様達が食事をするテーブルを片目に、衝立で巧みに視線を遮られた奥のテーブルへと案内される。

 中庭に面した窓から明るい陽のさす4畳ほどのスペースに大きな木の机。そこに一人分のカトラリーが用意されていた。

 一人分……。どうやら俺のための予約席のようだ。


「*****」


 俺が椅子に座るとケイトさんは俺の後ろに待機!?


「このおみせでひょうばんのひるごはんをたのんでありますと」


 なんかケイトさんが後ろに立っているということに、俺は若干キョドッてしまい、メリルちゃんのセリフが耳を素通りする。

 ケイトさん、俺の食事中ずっと後ろに控えてるの?

 食事どうすんの??


「のみものをどうしますかと、たずねられていますが」


 メリルちゃんが俺の目の前に降りてきて。ちょこんと首をかしげる。


「あ、ああ。料理にあったお茶を適当に……」

「おちゃというと、はっぱのにじるですな。はっこうぐあいはいかほどで?」


 醗酵具合? ああ、緑茶か紅茶かってことかな?


「それも料理に合わせて適当でお願いします」


 メリルちゃんが、なぜかくるくると回りながらケイトさんの方へ飛んでいき、会話を始める。

 しかし葉っぱの煮汁って。まあそうなんだが。なんだかな。メリルちゃん、ちょいちょい挟んでくるよな。


 飲み物の注文も終り、俺はフロアーを眺める振りをして、辺りをぐるりと見回す。

 やはり俺の斜め後ろにケイトさんが控えている。

 なんか一庶民としては、凄いプレッシゃーだ。

 ラノベだとメイドや奴隷に一緒の席に座るように言って好感度アップイベントを起こしたりするが、実際問題どうなんだろう。

 ヨーロッパ辺りの階級社会だとあり得ない話しだっていうけど、もしかしてこっちじゃありなんだろうか?

 むしろ声を掛けるのが礼儀という可能性もあるし……。


「メリルちゃん、メリルちゃん」


 テーブルの上で調味料らしきものを観察しているメリルちゃんに小声をかける。


「ケイトさんはお昼どうするのか聞いて貰えませんか?」


 わからないことは聞くしかない。まさかお昼抜きにさせるわけにはいかないし。

 了解了解といいながらメリルちゃんはすいーっとケイトさんの元へ向かい、すぐに戻ってくる。


「りょうりのせつめいをしたらあちらでと」


 メリルちゃんの示す先、衝立の隙間に護衛さんたちがテーブルを囲んでいるのが見えた。

 なるほど。ケイトさんもちゃんと一般席でお昼を食べるのだな。

 ほっと一息ついたところで、店員さんから蒸しタオルが渡された。

 手を拭けば良いんだよな?

 人目を気にして、いつもより丁寧にぬぐう。

 ずいぶんと触り心地のいいタオルだ。これも手織だろうか?

 タオルの感触の良さに感心しつつ店員さんに返すと、ふよふよとやってきたエマさんが俺の指先をポンと叩く。

 ピリッとした感触が手に広がる。

 思わず手のひらを返すとエマさんが覗き込み、フムフムと頷きながら飛んでいく。

 どうやら消毒をしてくれたらしい。さすが細菌使い。


 焼き物のコップに水が注がれる。

 氷は入っていないが、冷たい。

 冷蔵庫に入っていたのか、それともポットに冷却の魔石が仕込んであるのか。

 一口飲んでみる。

 スッキリとした柑橘系の酸味と香り。ようはレモン水だ。

 存外に喉が渇いていたらしい。思わず飲み干してしまった。

 再び一息ついたところで、昼食のプレートが運ばれてきた。


 灰色がかった陶製の皿の上に、薄いパンケーキのようなもの。

 その上に載っているのはスライスされた鳥の照り焼き?


「*****」


 皿をテーブルに置き、店員さんがなにかのたまう。


「???」


 皿の向こうに降りてきたメリルちゃんが、店員さんを見上げて首をかしげている。

 なにかおかしなものを出されたわけではないだろうが。


「*****」

「*****」

「*****」


 ついにケイトさんとの三者会談が始まった。


「りょうりのせつめいはむつかしいですな。ぱんのようなものに、ののいきものをやいたものだそうですが」


 料理の説明をしようと頑張っていたようだ。


「そうげんのくにからじょうりくした、ことしのはやりで、わかいおじょうさんがたに、だいにんきだそうです」


 ニューヨークで大人気。日本初上陸の惣菜系パウンドケーキ! みたいなもんらしい。


「こっちの小さなポットに入ったのはどう使えばいいんですか?」

「そちらのきるどうぐでちいさくきってから、このみでかければと」


 メリルちゃんの指すそちらの道具というのを見ると、なんかお好み焼きのコテのようなものだった。

 昨夜の食事で料理を取り分けてくれたやつだ。

 まあ、それくらいわかればなんとかなるだろう。

 あとは食べてみて、旨いかまずいかだ。

 俺は三人に礼を言うと、ケイトさんには昼食に下がって貰った。

 ケイトさんにもゆっくり食事して貰いたいし、なによりこんなテーブルマナーのしっかりしてそうな美人さんに見られながら食事なんて気が休まらないからな。


「まず、これで切る。か」


 と、テーブルに並んだカトラリーからコテのようなものを取る。

 左手に持ったフォークで軽く押えながら、右手のコテで押し切る。

 まあ、お好み焼きを切る要領だ。

 鳥の照り焼きもパンケーキも、思った以上にサックリと切れる。

 土台はパンケーキというより真薯とかはんぺんに近いかも。

 

 まずは土台と白身の肉を重ねてパクリと口に入れる。

 土台はもっとパリっとしているかと思ったが、ふっくらで柔らかい。

 白身の肉は、鳥の照り焼きだ。

 なんか食べたことのある味と食感なんだが。

 小さなポットに入ったタレを照り焼きに掛けようとスプーンで掬う。

 荒く刻んだ野菜がたっぷりはいった、少しドロッとしたタレ。


 おや? これはもしかして。


 俺は少し大きめに切り分けてから土台で照り焼きを包むように持つと、タレをたっぷりと照り焼きに掛ける。


 ああ、やっぱり。これは肉マンだ。ほんのり甘くてふわふわの生地。

 皮が少しパリっとして、クリスピーなピザにも似た食感もあるが、おおむね肉マンだ。

 竹の子のコリッとした食感はないが、変わりに皮のパリッと、タレに混ざった薄い野菜がふわふわの生地にアクセントを加えている。

 この鳥?肉も、濃厚な甘辛タレの味に負けない、しっかりとした味を主張している。


 一切れ、二切れ、三切れ。一気に半分ほどを平らげて、いつの間にか注がれていたお茶らしきものを手にして一息つく。

 ウーロン茶っぽいすこし苦みのあるさっぱりとした味のお茶だ。

 お茶をサーブされてたのに気がつかなかったとは、ちょっとガッついてたか?

 ひとまず食休みだ。

 あんまり早く食い過ぎて、ケイトさんや護衛の人を急かすことになっても偲びないしな。


 メリルちゃんが料理のそばによってきてしげしげと眺めている。

 土台をチョンチョン突っついて感触を確かめている。

 いやあ。ラブリーだ。

 俺は胃も心も癒されて、ポヘーッとしてしまう。


「この食事は、肉マンという料理に似ていると思います」


 俺の言葉にメリルちゃんが顔を向ける。


「肉マンというのは、細かく刻んだお肉や野菜を甘辛いタレでまとめて、パンを作る生地で包んで蒸した、惣菜系の饅頭です」


 肉マンなんて、冷凍食品を蒸した程度が限界だけど、おおむね間違ってないよな?


「ほかにもあんまんとか、ピザまんとか、カレーまんとか、中身が色々あって、美味しいんですよ」


 するとメリルちゃんが、「そういえば」と昔を懐かしむように。


「まえにこられたにほんのかたが、『せぶんのぴざまんがたべたい』とおっしゃっておられましたな」


 iPhone勇者はセブン派か。俺はこだわりない派。

 もしかして豚肉を手に入れようとして、猪に挑んだのか?

 俺は少ししんみりとしながら、さりげなく白身の肉を細切れに刻み、タレと混ぜてふわ生地に包んで食べる。

 これが流行ってるなら、中華饅の屋台をひらくってのもアリか?

 メリルちゃんにコンビニレジ前に並んだ揚げものの話しをしながら、俺はいつしか肉マン3個はありそうな料理を平らげていた。

飯テロへの道は果てしなく遠かった...

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