これが中流階級の集う商店街
戦争がーとか、文明の成熟がーとか、色々言い分はあるんだろうが、魔法があったり獣人がいる時点で、現代日本と比較しても意味がない。
町中で魔法をドンパンやらかしてないってことは、それなりに危険物の取り扱いは分かってるんだろう。
教育レベルもモラルも高そうだし。
見ため中世レベルでヤバそうだけど、大きな戦も絶えて久しいって言ってたし。
魔法や獣人なんて危険物レベルのものが溢れてる分、現代日本なんかよりずっと成熟してるかも知れない。
手始めに気球あたりからはじめて、次に飛行船とグライダー。その間にエンジン開発して……。
魔法燃料にして動力に変換できたら、すごいエコエンジンが作れそうだな。
エンジンが出来れば鉄道だって、車だって作れる。
その湖沿いの避暑地まで鉄道を敷こうじゃないか。
首都とでもいい、なんか風光明媚が売りの国があればそこまででも。
それで二束三文の戸地にベッドタウンとか別荘地とか作って売り出すんだ。
もちろん元手はイケメン持ちで。
目指せ五島慶太、堤康次郎。
頑張るぞー!
俺は一人で盛り上がり、人差指でメリルちゃんとハイタッチ。
メリルちゃんも何だか良く分からないままにイェーとかいってクルクルとまわってる。
なんか、俺にも出来ることがありそうだ。
帰ったらイケメンに、木工職人と金工職人用意して貰おう。
ふと我に帰る。
やべ、またヤッチマッタ。
みんなメリルちゃんが見えないんだよな。
一人で急にはしゃぎ出して、完全に危ない人じゃん。
まあ、メリルちゃんが見えてても、我ながら危ない人だったけど。
やっぱり急にわけ分かんない世界に連れてこられて、どっかおかしくなってるのか。
日本にいた時は、ここまでテンション上げ下げするタイプじゃなかった筈なんだが。
うーん。ボッチだったからはしゃぐ相手がいなかった、というわけではないと、断じて思う。
ちょっと浮かれ気分で歩いていたら、いつの間にか店の感じが変わってきていた。
さっきまでの土産物らしき品々と違って、惣菜らしきものだったり、日用品的な感じだったり。
辺りに漂ういい感じの匂いにつられて手近の惣菜屋をのぞいてみる。
コロッケとかフライとかに似た揚げものが並んでいる。
こっちは焼物か。ブツ切りの鳥肉に似たものを、白っぽいタレに付けて網焼にしている。
肉屋のコロッケやスーパーの焼きとりっぽいが、屋台街に比べるとちょっとお高い感じがする。
んん?
これって、値段なんじゃないか?
「メリルちゃん、メリルちゃん。これは数字ですか?」
俺は店先に並んだ何種類かの揚げ物の前に張られた紙に書いてある3文字?を指し示す。
「せんとうの3もじがすうじですな。ちいさな2もじはつうかをしめすたんいです」
これは110ですな。こっちは130。といいながら文字を指さして飛び回るメリルちゃん。
アラビア数字とはまた違う形だが、せいぜい三画からなる単純な記号でできている。
で、こっちの二文字が円とか$とかってことか。
あーこっちの数字覚えなきゃいけないんだな。
俺は半紙を取り出して、『数字を覚えよう』とメモ。
ついでに『飛行船、グライダー、エンジン、鉄道、車』
さらに思いついてメモに追加。『竹とんぼ、自転車』
ふんふんと店をチラ見しながらさらに進むと、そこには立派なアーケード街。
ほほう。これが中流階級の集う商店街か。
ゴーン、ガラーン、ゴローン
丁度時報の鐘が鳴り響く。
もう昼なんじゃないか? お腹が空いてきた。お昼ご飯はどうするんだろう?
漂ってくるいい匂いに心惹かれながらアーケード街をウインドウショッピング。
これは花屋。こっちは家具屋か。この薪っぽいのが積んであるのは燃料店か?
あっちの店のにならんでるガラス棒みたいなのはもしかして
「あれはまほうをつめるいしですな」
やはりそうか。
魔法石なんて銀座のブランドショップのような趣の店で売ってるのかと思ってたが、どちらかというと町の家電店って感じだった。
材質はなんだろう。水晶とかガラスとかか?
「あまりしつのよいものはありませんな」
そんなことを言いながら、メリルちゃんとエマさんが店の奥から戻ってきた。
いつのまに入り込んでいたのやら。
「*****」
「*****」
「*****」
ケイトさんによると、この辺りで売っているのは家事などで使う中級品とのこと。
メリルちゃんの御眼鏡に適うような品を扱うのは、宝飾品店ぽい店が別にあるらしい。
そういえば魔法使いさんも杖持ってたっけ。
やっぱりああいうのには宝飾品扱いの魔法石がはまってたりするのかな。
メリルちゃんたちがそのままふよふよとアーケードの先へ進んでいくので俺もついていく。
おや、このでかい刺のいっぱいついたブラシみたいなのはなんだ?
「それは、くまのひとのぶらしですな」
熊の人のブラッシング用か。さすがにデカイ。ブラシの面は俺の掌より二回りは大きい。持ち手も随分太い。
ブラシを置いて先へ進もうとすると人が立っていた。
この店は人が並んでるな。ああ、定食屋か。
あっちでも並んでる。あれは甘味の持ち帰りか?
と、ケイトさんが俺の腕を取るようにして、路地へと俺を誘う。
ああ、二の腕に柔らかな感触が。
「*****」
「おひるごはんだそうです」
へえ、路地裏の隠れた名店てやつか?
路地を曲がると、アーケード街にあったよりも高級そうな門構の飲食店がポツリポツリと庇を伸ばしていた。




