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精霊力の籠った良いお守り

 ホールではケイトさんと護衛の三人が既に俺を待ち構えていた。

 ちょっと待たせてしまったか。申し訳ない。

 妖精さんに挨拶でもと見回すが、さっきの妖精さんは誰だったんだろう。見分けがつかない。


「さっきの妖精さんは居ませんか? いたら挨拶だけでも」

「あそこにいますな」


 そう言ってメリルちゃんがホールの一角に手をぶんぶんと振る。

 あ、ひとり降りてきた。


「*****」

「*****」

「*****」


「ミヤです。ほかのものはせじゅつにはいったそうです」

「今日はお世話になりましたとお伝え下さい」


「*****」

「*****」

「*****」


 ミヤという妖精さんが、親指ををグッと立てて、再び飛んでいく。

 エマさんもやってたけど、サムズアップって転移者の誰かが伝えたんだろうか。


「またくるがよいと」


 次はちゃんとした施術を受けたいものだ。


 じゃあ、早速と商店街へ行きましょうか。



 外へ出ると、また茶屋を通り抜けて妖精の湧く池に向かう。

 茶屋の中、社務所の奥で妖精さんが両手を振っていた。

 多分あれが、さっき池のほとりで合流した妖精さんだろう。

 メリルちゃんとエマさんも手を振っている。

 すぐに仲良くなれて羨ましい。


 なんか記念にお札かお守りでもと思い立ち止まると、エマさんが少し奥にある作りの良いお札を叩いた。


「おや、これはなかなかよいいれものですな」


 入れ物という表現に疑問を感じるが、メリルちゃんもおすすめらしい。

 俺がそのお守りに手を伸ばすと、ケイトさんがさっと支払をすませてくれる。

 お守りだから支払とは言わないのかも知れないが。


 お守りを仕舞おうとすると妖精さん二人に止められ、池のほとりまで引っ張られた。

 え? これを前に吊せって?

 メリルちゃんに指示されるまま、お守りを摘んだ手を伸ばして池の上に吊す形になる。

 するとエマさんが水の精霊を一灯連れてきて、


 おお、なんだ。水の精霊がお守りの中に入ってしまった。


 この中に水の精霊が入ってるのか?

 お守りを目の前に掲げてしげしげと見ていると、護衛の厳つい方が気にしている様子。

 この人、エマさんのお酒のときといい、魔力感知に長けてるみたいだからな。

 お守りを渡してみる。

 あげないよ。返してね。

 彼はお守りをしげしげと観察していたが、頷きながら返してくれた。


「*****」

「*****」

「*****」


「せいれいりょくのこもったよいしなですと。せいれいひとたまならこのくらいでしょう」


 水の精霊が精霊力とかに戻って、このお守りに取り付いた?らしい。

 水の精霊は結局どうなっちゃったの?

 というか、精霊の数詞は玉? 灯のほうが洒落てない?


 どうも精霊というのは魔力に犬猫レベルの霊知?が結び付いたものらしい。

 半分優しさの妖精さんとは似て非なるもののようだ。たんなる上位互換ではないらしい。

 そして纏った魔力が気に入れば精霊として空へと昇るのを目指し、あるいは魔力を脱皮?して再び新しい魔力に取り付きに行くのだと。

 で、脱皮?の際に脱いだ魔力を精霊力として器に取り込むことができると、その品は精霊力の籠った名品として珍重されると。

 なるほど、その器ってのがこのお守りで、脱いだ魔力が精霊力としてお守りに籠ってるのか。

 魔力と精霊力ってのは若干違うものらしい。

 使ってみれば一目瞭然らしいのだが、今後の修行の成果をこう御期待ってとこか。


「じゃあ、精霊力の籠った良いお守りを作るのは、簡単なんですか?」

「おまもりにかかわらず、できのよいうつわをつくり、いろめのわるいせいれいをさそえば、かんたんですな」


 こんなところにも小銭稼ぎのチャンスが?

 色目の悪い精霊が狙い目らしい。どれもピカピカしてて、色の違いなんて分かんないけど。

 良く見るとグレーがかってたり斑だったりするの?


「できのよいうつわのみわけはつきますが、つくりかたはしりません」


 まだまだ研究の余地はありそうだ。

 今度イケメンに教えてやろう。

 なんのご利益があるのか知らんがな。


「*****」


 耳もとで声がした。

 びっくりして振り返ると、水掛けをしていた神職の女の子がなにか話しかけてきている。

 やべー、なんかヤラカシチャッタか?

 俺が目を見開いてキョドッていると、女の子はメリルちゃんと話し始めた。

 クレームをつけに来たのではなさそう。


「お守りを見せて欲しいと」


 いいけど、ちゃんと返してね。

 折角ケイトさんが買ってくれて(俺目線)、メリルちゃんとエマさんが真心込めてくれた贈物(俺感想)なんだから。

 彼女はお守りを軽く確認したあと、メリルちゃんや、彼女の相棒?の妖精さんと話しをしている。

 そしてお守りを俺に返すと茶屋へとって返し、すぐに戻ってきた。


 お守りを手に提げて池に掲げる。

 彼女の相棒の妖精さんが、水の精霊を連れてくる。

 ふうん。こんな風に見えてたのか。そりゃあ注目を浴びてもしょうがない。


「あれはあまりできのよいうつわではないですな」


 ありゃりゃ、精霊はお守りに近付きはしたが、あまり興味を持たなかったようですぐに上がっていく。

 メリルちゃんの言葉通り、どうやら精霊はそのお守りが気に入らなかった様子。

 女の子は二度三度頷くと辺りを見回し、俺を手招きする。

 なんでしょか?

 護衛さんもケイトさんも動かないところを見ると、危険なことではないようだが。


「*****」


 彼女が何かいいながら、お守りを3つ取り出す。


「どれかひとつえらんでくださいと」


 お勧めは? との問いに、両手の人差し指を口の前で山形にして口を塞ぐ仕草をするメリルちゃんたち。

 なにそれ、ちょー可愛いんですけど。どうやら『言っちゃダメ』の合図らしい。

 俺が右端の赤いのを選ぶと、女の子が池を指さす。

 ああ、もう一度やれってか。

 池にお守りを掲げると、彼女は俺から少し距離をおいて、手を振り下ろす。

 すると彼女の相棒の妖精さんが、また水の精霊を連れてきて、

 今度の精霊はお守りに少しの間まとわりついて、やがてフワフワと上がっていく。

 はてさて今ので精霊力は籠ったのか?

 モヤモヤした気分で女の子の方へと振り返ると、彼女はなにやらウンウンと頷いている。


 あ、わかった。これ、くじ引きっぽい体験販売にする気だ。


 彼女の商才に感心しつつ水の精霊の神殿を後にする。



「ところで、精霊を数えるのは、ひと玉ふた玉ですか?」

「わたしがもてるくらいのまるいものは“つぶ”。それよりおおきなものは“たま”とうかがいました」

「なるほど。灯を数える場合、一灯二灯と数えることもあるので、それもいいかと思ったのですが」

「いっとう、にとうですか。にほんごはものをかぞえるのがむつかしいですな」

「物の数をあらわす言葉を数詞といいますが、実に沢山あって使いこなすのは大変です。日本人でも数種類で済ませてしまいます」

「すうしですか。ほかにはどのようなものがありますか?」

「例えば、屋台が台。船が隻とか艘。織物は反とか機とか……。神様は柱です。妖精はなんだろう。人でいいのかな」

「だいとかせきはきいたおぼえがありますな。おりものははたですか」

「あと風呂桶は槽じゃなかったかな」


 俺はケイトさんとならんで歩きながら思いつくまま、メリルちゃんに数詞を教えていく。

 そしてふと思う。

 数詞が浮かばない、違和感を感じるものが、この世界独自のものなのかも知れない。

 熊や猿は“頭”とか“匹”だが、熊の人や猿の人、蜥蜴の人は“人”だよな?

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