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気分壮快

 精霊に包まれていたのはほんの五分にも満たない時間だったろうか。

 それでもマッサージの90分コースを受けた後よりも遥かに調子は良くなっていた。

 仰向けに寝そべりながら、元気ハツラツとなった体で空を見上げていると、俺を包み込んでいた水の精霊たちが光の柱となって巨木の枝へと昇っていく。

 最後の精霊が枝の影に隠れたところで体を起こそうと身を動かすと、護衛の女性が背中に手を添えて起こしてくれた。


「*****」


 なにか話しかけてくるのでメリルちゃんを探す。

 心配そうな表情で傍らに膝をついたケイトさんの肩から、メリルちゃんがドヤ顔を出していた。


「おかげんはいかがですかと」

「すごく調子いいです……」


 どうやら見ためはかなり事故っぽかったようだ。

 いつもは少し離れたところに立っている護衛の人が、すぐ脇に駆けつけてたもんな。


「*****」

「*****」

「*****」


 案内してくれた女性をはじめ、デッキチェアに寝ていた人達を含めた全員が俺達を、いや俺を注目して何か喋っている。


「あれほどのかずのせいれいにつつまれたひとをみるのははじめてめてだと、みなさんおっしゃってますな」


 妖精さん5人が俺の前に集まってきて、ハイタッチとかしてる。

 神殿の妖精さん三人がかりで集めた精霊だ。大判振舞いにも程があるだろう。


「凄いのはわかりますが、施術室でもないところで精霊を集めて、迷惑になってないか聞いて貰えますか?」


 結局俺の心配をよそに、むしろ「うちの妖精がやらかしまして申し訳ありません」的な対応をされてしまった。

 こっちこそメリルちゃんがと思いつつも、鷹揚に頷いておく。

 迷惑だっていわれても、謝って逃げるしか手はなかったしな。


 汗も凄いことになってたので風呂を貸して貰えることになった。

 施術室の浴槽が借りられるようだ。予約なしで場所を貸して貰えるとは、これも侯爵家の威光か。

 ついでに何か施術しますかと聞かれたけれど、これ以上はエステティック的な施術になるらしいので遠慮することに。

 汗びっしょりで、ぐったりしててもおかしくない見ためらしいんだが、気分は実に壮快だ。

 もしかするとエロティックな施術もあったかも知れないが、そこまでは確認しない。しないよ、メリルちゃん。

 そろそろ腹も空いてきたし、さっさと汗だけ流して昼飯食べに行きたいから。


 ウッドデッキに架かった階段を上がり建物にはいる。

 案内された先はやはり先ほど施術室があると踏んだホール右手の通路だった。

 ちょっとエキゾチックな香りが漂う廊下を歩く。

 中央付近の扉を案内の女性が開いたところでふと思い立ってトイレアピール。

 腹を押えて前かかがみになる姿勢ですぐにわかって貰えたようで、さらに先の扉へと案内される。

 癒し効果のせいか、凄いいっぱい老廃物が排出された。

 トイレの個室を出たところにある水場で手を洗う。

 ここの蛇口は自動で閉鎖するレバー式だった。

 特に魔法を使ってる様子もなく、水圧を利用した機械式のようだ。

 壁に10センチくらいのタオルっぽいものがいっぱい用意してあったので、手拭きだと信じて使う。

 高級ホテルとかだと普通にあるし。


 施術室に案内されると当然のごとく、服を脱ぐのに手伝いの女性がついた。

 お金持ち対応なのだろうが、若くて美人の女性なのが照れる。

 まあ、ちゃんと手伝って貰ったけど。

 そこはまあ、アレだ。侯爵家の客分ともなると紳士の嗜みの一つだ。

 でも、汗を流すだけだからとそれ以上の手伝いは断って浴室に入ったヘタレな俺。

 まあ、アレだ。紳士だし。


 施術室の奥にしつらえられた浴室は、日本のユニットバスのような作りだった。

 壷庭に面した窓がついていて、解放感がある。

 湯舟は畳一枚分くらい。白い大理石風な石作りだ。手前に洗い場がある日本式。

 洗い場に据え付けられた蛇口のハンドルを回すとお湯が出た。

 湯温調節の仕方がわからなかったが、ほぼ適温だったので気にしないことにする。

 良い香りのする粉の石鹸をタオルに付け、素早く身体を洗う。

 なかなかに泡立ちのいい石鹸だ。

 良くわからない油らしきものの入った容器があったが、シャンプーではなさそう。

 身体に塗るボティーローション的なものか、もしかすると洗髪用のコンディショナー的なものなのかも知れない。

 しかし、なんだか分からないものを適当に使うチャレンジャー精神も持ち合わせていないので放置。


 身体を洗い終え、折角お湯が張ってあるので湯舟にも浸かる。

 湯舟には綺麗な花びらが浮いていて、こちらもまたいい香りが漂っている。

 もしかすると、アロマオイルのようなものが溶かし込んであるのかも知れない。

 本当にリゾートホテルのエステルームそのままだ。


 ちょうどよい湯加減でのんびりしたいと思うところだが、ケイトさんたちも待たせてるし、なにより身体の調子が良過ぎてジッとしていられない。

 一息ついたところで浴槽から上がり、扉の取っ手に手をかけたところで思いあたり、絞ったタオルで身体を十分に拭ってから前を隠して扉を開く。

 やはり、服を脱ぐのを手伝ってくれた美人さんが、大判のバスタオルを手に待ち構えていた。

 挙動不審にならないように気を配りながら彼女に歩み寄ると、彼女はすぐに俺の背後にまわり込み、手にしたタオルを肩にかけてくる。

 あ、これタオルじゃない。ガウンだ。


「きがえはこれを、と」


 施術室の植栽に群がって遊んでいたメリルちゃんとエマさんが飛んできて、施術台の上に置かれた衣類を叩いた。


 下着はトランクス?と7分丈の肌着。

 パンツは琥珀色の綿パン。やはり腰で紐止めするようになっている。シャツは前開きのボタン止め。襟はない。色は海老茶っていうのか?

 さっきまでの服に比べると上質な気がする。

 この後、中流の人達が使う商店街に行くって言ってたからかな。


 施術台を前、美人さんを背にしてガウンを羽織ったままトランクスとパンツを履く。

 ガウンを脱ごうとすると、美人さんがガウンごと俺の背中を叩くようにして水気を払ってくれる。

 そのままガウンを脱がされ、肌着を被ろうとするとこれまた美人さんの補助が。

 いちいち背中に人肌の温もりを感じるんだが。

 これはなんだ、貴族や金持ちは子孫繁栄のため子作りに励めと言う罠か。


 しかしまあ当たり前のことだが、特筆すべきラッキースケベも生じないまま着替えは終了。

 美人さんに廊下を案内されて、ホールへと戻った。

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