異世界チートの余地が見当たらない
「みずのせいれいは、せいめいをつかさどるといわれているようですな」
ほほう、やはり水は回復系ですか。
「まあ、あのものたちにいわれるほどのちからはありませんが」
え? 今明かされる衝撃の事実?
「たいないのみずのながれをととのえるくらいのことです」
「身体の水分を自在に操れるだけでずいぶんなことが出来るんじゃないですか。血液とかが操れるなら、病気とかは結構いろいろ直せそうな気がします。怪我も軽いのなら回復を加速するとかできそうですね」
「なるほど。いきものはみずでできていますゆえですか」
肩こりとか、血行がわるくなってる系の治癒はできそうだ。
だからラノベとかでも回復魔法は水系統なのかな。
でもあの水の精霊に治癒を頼める気がしないんだが。
メリルちゃんは話せるみたいだから、馴れれば意思疎通とか出来るものなのか?
「あのものたちのこえをきくことはかないませんが、ねがいをつたえることはできるようですな」
へえ。でもさっきは全然話が通じる風ではなかったですが。
「かなうことはまれですが」
それってちゃんと伝わってないんじゃないか?
「たしかに。せいれいとひとは、ありようとしてからことなりますゆえ」
治して欲しいって思いは伝わっても、どう治して欲しいのかは伝わらないのか。
まあ肩こり治してって頼んでも、肩がどこかもわからなそうだもんな。
ところで治療なら妖精さんも色々出来そうだが。
「メリルちゃんは、人の病気や怪我を治せませんか?」
「きったりつないだりくらいなら。なおしかたをおおしえねがえれば、ほかにもできることもありましょう」
「メリルちゃんは外科が得意ですか。謎魔法でパパッとは直せませんか」
「ちいさきものたちのなすいたずらなら、エマがあつかえますな」
小さきモノ?
「きせつのかわりめにねつをださせるものや、いたんだたべものにはんしょくしてどくをだすものたちです」
ああ、ウイルスとか細菌とかか。
「醸すのが得意なんでしたっけ、エマさんは。細菌を従えることが出来るんですか? それなら細菌起因の病気なんかは治せそうですね」
俺の言葉にメリルちゃんともう一人妖精さんが「うんうん」と頷く。
あれれ? エマさんが居るじゃん。
「さきほどからいっしょでしたが。みそぐらをけんがくするそうです」
「*****」
「*****」
エマさんはメリルちゃんとなにか言葉を交わすと、親指をグッと立てて、後ろにいる護衛さんの方へ漂っていく。
ああ、後ろにいる護衛さんのところに居たのか。
早速付いてきているなんて、フットワーク軽いな。
「かぜならまかせろと」
なんと頼もしい。
細菌起因の病気が治せるなら、インフルエンザとか蔓延しないってこと?
インフルエンザとか超心配だったんだけど、安心できる。
ああ、ここにはもうすでに細菌とかの概念があるのか。
妖精さんが知っているなら、人もすでに学んでいるだろう。
だから妙に衛生的なんだ。石鹸とか入浴の習慣とか水洗トイレとか。
下町ですら下水道を完備してるし。
そうだ、この世界の医学レベルも確認しなきゃ。
魔法でどのくらい直せるのかとかも。
俺はポケットに入れていた半紙を取り出して、『医学、医療、公衆衛生レベルの確認』とメモした。
感染症の研究なんかはむしろ進んでいるのかもしれない。
少なくともこの辺りは治安も良いし、公衆衛生もしっかりしてる。義務教育に近い教育制度もあるみたいだった。
料理の技術だって発達してるし、武器や防具だって近代装備だ。
ラノベでありがちな、異世界で知識チートの余地なんて見当たらないんだが。
俺程度の知識でなんか手助けできるようなことなんてあるのか?
気がつくと、水の精霊の出現に集まっていた人たちもすでにばらけていた。
ていうか、メリルちゃんと話をしていたのって、周りの人からみると、一人でぶつぶつ訳のわからない言葉を話してるおかしな人に見えてたんじゃないか?
水の精霊は集まってくるわ。一人でぶつぶつ聞いたことない言葉をエアー会話してるわ。
まず確実に、危ない人だと思われて避けられたに違いないじゃんか。
恥ずかしい。
なんかケイトさんと距離がある気がするが、ケイトさんはメリルちゃん見えるし、味方だよね?
まあ仕方がない。行こう。
俺はケイトさんたちに合図すると、再び参道を奥へと歩き始めた。
やはり小川を越えてから、清浄な空気を感じる。
なんか神聖な力でも働いている?
「この辺りはなにやら神聖な雰囲気を感じますが」
「そういうかたにはおあいしたことがございませんな」
精霊や妖精はいても、神様はいないらしい。
「このばのきがよいのは、あのものたちがみずをととのえているせいでわないかと」
メリルちゃんの指さす木立を見上げると、枝葉に紛れて水の精霊たちがフワフワしている。
どうやら水の精霊がエアコンの働きをしているらしい。




