丸い白銅貨二枚で六角形の白銅貨一枚
酔い覚ましにぶらぶらと少し広めの通路を歩いていると、甘い香りの漂うゾーンにさしかかった。
カラフルなジェリービーンスとかキャンディっぽいものが量り売りされている。
こっちにあるのはかりんとう?に麩菓子?
ドライフルーツやナッツらしきものも。
ここは駄菓子ゾーンか。
あっちの屋台にはクッキーやラスクらしきものとか、フィナンシェっぽいのもある。
あの虫っぽいのがどうにかなってるっぽいのは見なかったことにしよう……。
やっぱりエビは食えるけど、イナゴは食えないよ。
まあこの辺りが文化的ギャップだね。
「あそこのおもりとおなじおもさで、ろくかっけいのはくどうかいちまいです」
あの重りどのくらいだろう。100円玉5枚くらいの大きさ。
六角形の白銅貨ってことは、円い白銅貨とか色々あるの?
鉱山持ってるって話だったし、侯爵が通貨の発行権を持ってるのなら、通貨の発行益でも稼いでるのか。
よくある異世界ものだとすぐに銀貨だ金貨だミスリル貨だのになるけど、ホント近代的。
そういえばさっきからの買い物も硬貨がじゃらじゃら鳴ってた様子もなかったし、紙幣とかもありそうだ。
えっ?
ケイトさんが急に俺の手を握ってきてビクッとなる。
他よりちょっとこじゃれた感じの菓子を売っている屋台へ導かれ、繋いだ手のひらに六角形をした銀色の板を三枚載せてくれる。
もしかしてこれが六角形の白銅貨?
「*****」
「こうしゃくけとしてはこのようなだがしはよろしくないですが、このやたいのものならおためしにどうぞと」
俺が駄菓子をマジマジと見ていたのを気にしてくれたみたいだ。
なるほど、この屋台の商品はさっきの駄菓子っぽいのと違って、中級菓子の割れ欠け不良品の様子。
それにここの重り、さっきの店より少し小さい。
ここも中級商品のアウトレット的な、この辺りでは少し高い商品の店なのだろう。
半欠けのクッキー?3種類を2枚づつと飴?5種類を2個づつ。それに形のいびつな煎餅?2枚を小さな籠に入れておばちゃんに渡す。
重り3個よりは少し軽いようだ。
ラスク?を追加して調整。
渡された六角形の白銅貨をそのまま差し出すとおばちゃんが受け取りお菓子を半紙で包んで渡してくれた。
これで300円くらいの感覚でいいのか?
しまったな。ラスク?で調整しないでおつり貰った方が小銭の勉強になったのに。
お菓子を包んだ半紙を危なげにもっていると、ケイトさんがすかさず引き取りエコバッグのような布袋にしまった。
「メリルちゃん、青服の仕事をどれだけこなせば、あの白銅貨一枚手に入れられますか?」
さて、とメリルちゃんは頭をかしげ、ケイトさんに聞いてくれた。
「かかえるほどのにをばしゃまではこんで、まるいはくどうかいちまい。せおうほどのにで、ろくかっけいのはくどうかいちまいだそうです」
うーん。丸い白銅貨が百円くらいか? 人件費は安そうだからもっと安いかな。
「丸い白銅貨は何枚で六角形の白銅貨になりますか?」
「まるいはくどうかにまいでろくかっけいのはくどうかいちまいですな」
背負うほどの荷物を持って駐車場まで行って、馬車を探して荷物を渡して。
丸い白銅貨が50円、六角形の白銅貨が100円な感じなのかな……
荷を背負って一時間に5往復したとして時給で500円。
市場の開いている午前中いっぱいの6時間仕事して、待機もあるだろうから日銭で2000円くらい稼げるのか。
住みかがあって、自炊するならそこそこやっていけそうだ。
「あおいふくのかたがたのしごとは、ねんれいせいげんがありますな」
ああ、そうだよね。子供の小遣い稼ぎの場だもんね。
良い機会だ。ちょっとこの国の貨幣と物価について教えて貰いたい。
ああ、今日はメモ帳とボールペンを持ってきてなかった。
なんか書くものは無いかな。
菓子を包むのに半紙を使ったくらいだから、半紙程度ならそれほど高くなさそうだが。
「メリルちゃん、この屋台で文房具を売ってる店はないですか?」
「ぶんぼうぐとはなんですか?」
「紙とか紙に文字を書く道具とか」
「ああ、よういちさんがじかんをはかるのにつかわれていたどうぐですな」
ぶんぼうぐ、ぶんぼうぐとつぶやきながら、メリルちゃんがケイトさんに聞いてくれる。
「*****」
「*****」
「*****」
「*****」
ケイトさんは思いつかなかったらしく、護衛の三人と頭を付き合わせている。
「とりあえず、どうぐやにいってみようと」
厳つい護衛さんの提案で、道具屋というのが集まっているところへ行ってみるようだ。
道具屋か。浅草のかっぱ橋みたいなところだろうか。
興味引かれる。
まあこの市場の中なら料理道具や食器なんかがメインなんだろうが。
道具屋の一角は鍋や皿のようなキッチン用品の他に、リビングで使う小物らしきものから布地などの日用品に至るまで雑多なものが山のように並んでいた。
キオスクとかアキバのパーツ屋を越えて、ドンキの圧縮陳列に近い。
ダメだ、これをいちいち見ていたら何日あっても足りない。
鍋や皿、スプーンにナイフくらいまではわかるが、何に使うものかわからないものが多すぎる。
もっとも興味本位で行った合羽橋の道具屋もよくわからんもので満載だったので、多分俺の知識が貧弱な所以だろう。
しかしわかる限りでも蒸し器はあるし、箸やフォークに泡立て器も見かけた。
日本で使ったことのある調理道具に近いものはほぼありそうだ。
食材があれだけ豊富なら、調理方法も研究され尽くしていると言ったところか。
異世界で美味しい料理チートもなさそうだ。
「かみとかくものはこちらにあるそうです」
護衛の女性が聞き込んできたのか、一台の屋台に案内された。
その店は紙と布、針と糸、それに絵の具などを扱っているようだった。
文房具と言うよりも手芸用品に近い品揃えか。
色々見たいところだが、まずは筆記用具をそろえよう。
紙は少し黄色い、藁半紙よりは質の良さそうな紙を選ぶ。安物のチラシ用紙か。
そして書くものは、なんと鉛筆があった。
まあ鉛筆なんて伊達政宗や徳川家康も使ってたらしいから、あるんじゃないかと思ってはいたが。




