酒師の妖精、エマさん
そういえば、と俺。
「メリルちゃん。青服の子達より小さな子をあそこのちびっこの他に見かけませんが何故でしょう?」
「そのくらいのとしのにんげんさんたちは、このあたりではいまのじかん、よみかきをならいにいっていますな」
ほほー。教育制度もしっかりしていると。
「******」
「******」
「******」
「このあたりでは、ごさいからじゅっさいまでまなびやへかようそうです。おひるごはんがでるのでみないくそうです」
あそこで遊んでる子たちは五歳未満てことか。子供の見かけはさほど変わらんか。さっきの青服は十歳?
「あおいふくのかたがたは、じゅうからじゅうさんくらいだろうと」
へー。十三か。もう少し上かと思った。欧米系の見た目年齢な感じだな。
「ところで、そちらの方は?」
メリルちゃんと並んで飛んでいる妖精さんに軽く頭を下げながらメリルちゃんに尋ねる。
どうやらメリルちゃんが戻ってきたときに一緒に来たみたいだ。
メリルちゃんが挨拶に行った知り合いか?
「こちらははっこうのようせいで、エマといいます」
「薄倖の妖精? なにか恵まれないお生まれで?」
「はっこう」
「薄倖?」
「いえ、みそとかぱんとかおさけとかかもすほうで」
かもす? ああ、発酵か。
俺は『もやしもん』で知ったけど、メリルちゃんは結構難しい言葉しってるな。メリルちゃん明治疑惑発生。
「あちらにエマがおてつだいしたおさけをうっているそうです」
メリルちゃんとエマさんがふよふよと飛んでいくので、俺はケイトさんを促し慌てて立ち上がる。
護衛の三人はすでに立ち上がっている。妖精さんは見えないはずなのにさすがだ。
広場から屋台街へ入る一筋の入口でメリルちゃんに追いつき、二人の案内で中へと進む。
程なく酒を扱う一角へとやってきた。
瓶売りだけでなく、樽での量り売りもやっている。最近の日本では見かけない古い売り方だ。
「そのおさけと」
メリルちゃんが手を伸ばすより早く、護衛の厳つい方がメリルちゃんが手を伸ばした樽とその下の樽に手を伸ばす。
「*****」
「*****」
「*****」
「*****」
そして護衛の男性が樽を二つ確保しつつ、ケイトさん、エマさんとでこそこそと話し始める。
メリルちゃんは護衛さんの勢いに押されて俺の方に戻ってきた。
「あのおさけはエマがこねたので、しっかりまりょくがこもっていて、よういちさんによいとおもったのですが」
ほほう。でも俺、酒は強くないんだけど。
酒屋のおばちゃんが小さなぐい飲みを差し出してくる。
試飲させてくれるらしい。
まずは話題になっている酒を少し注いで貰う。
澄んだ透明な酒。やや甘い香り。
見た目と香りは良い日本酒に似ているが、微妙に異なる。どこかで飲んだ酒に似ているんだが、俺は酒に弱いので上手く思い浮かばない。
飲みやすいが度数はそこそこありそうだ。
なんかカクテルで飲んだのに近いのかな?
やばい、エマさんがこねた二杯と、目に付いたウイスキーっぽいの二杯をぐい飲みに少し飲んだだけで回ってきた。
手のひらが赤くなってる。
おばちゃんに水を貰いつつ、メリルちゃんに三人が何を話しているのかと聞けば、こんな場末の酒屋に魔力酒が売っている理由をエマさんに聞いているらしい。
「このさけをつくるこうぼうには、エマがみえるかたがいないそうです」
「じゃあ、エマさんが勝手に醸してるってこと?」
「そうなりますな。エマほどのものがてをかせば、すばらしいものとなりましょうが」
その酒蔵では、魔力感知に長けたものもおらず、この酒の貴重さに気がつかないでいたのだと。
さらに味は良かったけれど、金持ち相手の酒屋に卸す伝がなかったので、なじみのこの店に卸したそうだ。
エマさんが手を加えた数樽は目を見張る出来らしいが、それ以外はまだまだな酒蔵らしい。
で、この辺りに買いに来るような人は、魔力感知に長けていないからこの酒の貴重さに気がつかないでいたと。
残念なことだ。
結局、護衛さんの私費とケイトさんの経費で二樽ともお買い上げとなった。
他の酒に比べて味もダントツなので、この辺りで売るには高かったらしいが、こもった魔力を考慮すると激安価格だったらしい。
エマさんも今の酒蔵に愛着があるわけでもないので、ケイトさんの実家か侯爵家が懇意な酒蔵に行ってもいいと言っている。
できれば味噌蔵でお願いしたいところだか。
「メリルちゃん、日本酒の醸造工程を行う職人を酒師といい、その頭を杜氏というはずです。エマさんは酒師か杜氏なんですね」
「さかし、とうじ、ですか。なるほど、エマはひとりですがどちらですかな」
「うーん。酒師なのかな。杜氏は管理職イメージ強いし。実際に動くのは酒師な気がします」
「さかしエマですか。なるほど。びみょうなひびきがエマっぽいですな」
あー。メリルちゃんがちょっと黒いのか、ホントにこんなセンスなのか、どっちなんだろう。
「あと、麹造りを生業とするひとを麹師といったと思います」
「こうじし、こうじし」
「他にもいろいろな役所がありますが、俺が知ってるのはそのくらいかな」
全部マンガの知識だがな。




