あれはとかげのひと
いつか味噌おでんの食べられる日を楽しみに、さらに奥のブースへと向かう。
ウーウー、チッチと小動物の鳴き声、うなり声。
この一見ペットショップのごとき佇まいは噂に聞く野生肉か?
うーん。加工前の謎肉は、生きているのもいないのも、きついものがある。
食育的な視点からは重要なことだけれども、匂いも凄いし足は早めで。
じっくり見ると今後の食事が喉を通らなくなりそうな変なのもいるし。
げっ歯類っぽいのとか。
ああ、こっちは加工肉だ。
こうして適当なサイズにカットしてある肉なら大丈夫。
「よういちさん、これが×△*のせなかのにくですな」
メリルちゃんが、なかでも一際大きな小サイズのダンボール箱くらいある肉の塊を指し示す。
これが背肉? カットしてあってこのサイズ? でけー。ちょーでけー。
この塊だけでも焼き肉にしたら何人前とれるんだ?
繁盛店でも一日で使い切るかどうかって量じゃないか。
そのでかい×△*肉の塊を、お客さんの要望にしたがっておっちゃんがカットしていく。
牧畜で食用に飼っているのか、脂の入り方もいい感じだが、それほどお高い雰囲気ではない。
「*****」
「*****」
「もってきたときは、このさんばいくらいのおおきさだったと」
うわ、なにそれ。肉屋のおっちゃん(あんこ型力士なみ)の胴体くらいってこと?
背肉の切り身でそんなサイズだなんて、ドラゴン牧場の見学が楽しみだわー。
ゴーン、ガラーン、ゴローン
なにやら鐘のような音が。
「くじのじほうですな」
急にグイという感じで腕を引かれる。
ケイトさんが俺の腕を掴んで通路の先へと引っ張っていく。
護衛の三人の輪も少し狭まったような。
なんかヤバいことでも起きたの??
人垣をかき分けるようにして狭い通路を進むと、中ほどに噴水のある広場へと出た。
屋台街に比べるとこの辺りは人波も少ない。
というか、広場のテーブルに座っていた人たちが、どんどん屋台街へと流れ込んでいく。
護衛の男性が確保した四人がけのテーブルに導かれて座ると、ケイトさんが飲物を持って戻ってきた。
「*****」
「*****」
「なまもののみせは、みせじまいでねさげをはじめるじかんだそうです」
ああ、閉店前のセールで混み出すから逃げ出してきたのか。びっくりした。
椅子に座り、受けとった飲物で喉を潤しながら辺りを見回す。
先ほどの『食堂』な雰囲気のスペースと違い、こちらは『喫茶』な雰囲気の屋台が広場を囲んでいる。
あれはドーナッツ? こっちのはクレープだろうか。そこのは焼き団子か焼きまんじゅうか。
調理法で見当がつくものもあれば、さっぱりわからないものも多い。
あっちのなんか、いもりの黒焼きに見えるんだがマサカ。
「よういちさん、よろしいですか?」
メリルちゃんがふわりと飛びたち俺の前に浮かぶ。
「しりあいをみつけたのであいさつしてきます」
ふよふよと飛んでいく先、噴水の辺りに妖精さんが屯している。
妖精の数詞はなんだろう。人? 柱?
ともかく頼みの綱のメリルちゃんがいない今、何もできない俺はコップを手にしたままぼんやりと広場を見渡す。
妖精さんの集う下、低い柵に囲まれたところには小学生低学年くらいの子供が何人かいるが、あれは買い物に出ている親から子供を預る場所だろうか?
青服の少年が何人かで子供が柵から出ないように注意している。
庶民向けの市場というから東南アジアのマーケット的なイメージで考えていたが、青服の少年たちが馬車まで荷持つ運びをしていたり、児童の預り施設があったり、運営は日本のショッピングセンターに近い。
青服の少年たちの働きぶりを見ると、治安もモラルも日本並みで、安心して買い物ができそうだ。
きちんとした管理組み合いの元、この市場は運営されているのだろう。
色々と得体の知れないものもなきにしもあらずで、色彩的にもクルものがあったが、庶民街の生鮮食料品市場はおおむね理解の範囲にあったと思う。
と、一台の荷車が広場の先を動いていくのが目に入った。
え? あれ?
あの荷車引いてるの、とかげ?
服を着た、三足(足より太い尻尾)歩行の大蜥蜴。推定身長二メートルが、のたのたと身体を揺らしながら荷車を引いて行く。
「あれはとかげのひとですな」
俺がテーブルに身を乗り出すように凝視していると、いつの間にか戻ってきたメリルちゃんが教えてくれた。
「蜥蜴の人ですか」
「ふつうはひのやまのほうにすんでおられます。おんこうでちからもちなかたがたです。あたまのほうはしょうしょうざんねんですが、ああしてにはこびのしごとなどをしながら、このあたりにすまうかたもおられるようです」
ほー。へー。ふーん。
妖精の次はリザードマン登場ですよ。
市場の普通っプリに気が抜けてきたところですが、これぞ異世界って感じですか。
もっとも、あの頭骨の形と大きさでは、脳の容量が足りていない御様子。
「あのしっぽがなければ、もうすこしつかいどころもふえるのですが」
ああ、やっぱりあの太い尻尾は邪魔なのね。
「あたるときょうれつにいたいですな」




