テイラー・スイフトは知ってます。
帰り道。
前に通ったような、通らなかったような?
まだ数度、馬車で連れられただけだから全然覚えてないわ。
ここ屋台が出てた通り?
ああ、この路地、熊とか猿の人とかがヤンキー座りしてたとこか。
そういえばメリルちゃんと話をしている間中、馬車内に音楽が流れている。
網棚の上で妖精さんズの辺りから音がする。
みんなで指をクルクルまわしてるけど、あれで演奏できてるの?
妖精さんズの演奏は楽器を奏でないで直接空気を揺らしているらしい。
そういえば、話声も魔法で拡声してるんだっけ。
ふと隣りに目を遣れば、宮之森さんはヒューさんとなにか話をしている。
急に宮之森さんがこちらを振り向いた。
「あの、私って何か出来ることありますか?」
???
「え? 出来ること?」
狭い馬車の中で、急に女子高生の顔が目の前に現れてキョドってしまう。
ヤバイわ。この子やっぱり凄い美人だわ。
「はい」
なんか勢いが怖いんだけど。
まあ召喚の最初がアレだったんで仕方無いだろうけど、もっと気楽に行こうよ。
「あー、まず二つやって欲しいことがあって、一つはここの言葉を覚えて貰うこと。もう一つは日本で流行の歌と踊りを歌姫たちに教えること」
「歌姫に歌と踊りを教える?」
「あと妖精さんにも!」
俺の言葉に注目していた妖精さんズから拍手があがったぞ。
「そんなに気張らないでいいから。簡単に教えれば、歌姫たちが勝手に作り込んでくから大丈夫」
妖精さんにはもうすでに何曲か伝授できてるじゃん。
その程度で大丈夫だから。
「歌姫ですか?」
ちょっと引いた?
「歌姫と吟遊母娘。歌姫はエディット・ピアフとマリア・カラスとテイラー・スイフトを足してマドンナを掛けた感じの女性」
「すいません。テイラー・スイフトは知ってます。マドンナは名前を知ってるくらいで」
「マジか」
ジェネレーションギャップ!
まあエディット・ピアフとマリア・カラスは、もともとジャンンルが馴染みないかもだけど。
「まあ王都で一番のポップスシンガーらしい。吟遊娘ちゃんの歌った新時代とアイドルに衝撃を受けてポップスの勉強を初めちゃった人」
「王都一のポップスシンガー!?」
「あと吟遊娘ちゃんは侯爵領から帯同してきた吟遊詩人の母娘で、妖精さんが歌い踊るラブライブとかに感銘を受けてまねし初めちゃったマジ歌の申し子。新時代もアイドルもMV観せたら勝手に覚えた」
「!? そんな人たちに歌と踊りを教える!?」
「ああ、二人とも天才だから、スマホでMV観せて、できれば実際に一通り踊って観せれば、あとは勝手にやるから」
あの二人なら勝手にやるよね?
メリルちゃんも妖精さんたちも頷いてるからきっと大丈夫。
馬車は広場へ入り、大きく曲ると楼門をくぐる。
さあ、着いた。
馬車が停りメイドさんが扉を開くと、一斉に妖精さんが飛び出していく。
メイドさん、ヒューさん、宮之森さんと順に降り、俺は最後。
馬車を降りて中庭を見渡すが、歌姫も吟遊娘ちゃんも見当らない。
今日はお仕事か?
「自転車!」
宮之森さんが驚きの声をあげる。
指差す方を見ると、侯領のアンテナショップ?の壁に自転車やキックボードが並べてある。
侯爵の屋敷で図面引いたのを絶賛発売中と教えると、ちょっと尊敬した目で俺を見て来る。
特許制度とか無いらしいよ。
侯爵家と特段の取り決めもしてないし。
まあ侯爵家が頑張って儲ければ、俺の待遇も上がるだろうって感じだよ。
宮之森さんもなにか思い付いたら相談してね。
さて、まだ日も高いし、部屋へ戻って宮之森さんのスマホを充電しよう。
宮之森さんの部屋はもう決ってるよね?
「じゃあ、部屋へ行って、スマホの充電しようか」
俺の言葉に嬉しそうになる宮之森さん。
なんか俺のこと良い人っぽく思ってるかもしれないけど、周りで様子を伺う妖精さんたちの圧が強いだけだから。
「わわっ!」
動き出そうと向きを変えると驚きの声をあげて宮之森さんが抱き付いてくる。
え? なに?
「クマ!」
指差す方を見れば、馬車の後方から熊の人が荷物を担いで出て来た。
「ああ熊の人ね。あと大猿の人がいるよ。そこそこコミュニケーションが取れる知性があって、力仕事をやってる」
熊の人に手を振ると笑い顔を向けてくるが、正直なところ怖い。
仕方無いよね。
顔がまんま熊なんだもん。
中庭でわちゃわちゃしていると、馬車を降りてすぐどこかへ飛んで行った妖精さんが戻って来た。
吟遊娘ちゃんたちは何処かの箱で昼からコンサートらしい。
歌姫と吟遊母娘を探しに行ってたようだ。
すっかり迎えのメイドさんを待たせてしまった。
じゃあ部屋へ行こうか。
あ、トイレは1階にあるから、あとでメイドさんに案内してもらってね。
あと一人で歩き回らない方が良いと思う。
メイドさんに先導されて、階段をあがって3階へ。
「俺の部屋はここね」
後を付いてきた宮之森さんに俺の部屋を教えていると、隣りの部屋から熊の人が出て来た。
「となり、彼女、部屋デス」
ここまで案内してくれたメイドさんが、メモを読みながら片言の日本語で隣りの部屋を指し示す。
宮之森さんは隣りか。
3階が男性部屋かと思ったけど、お客さん部屋なのかな?
「*****」
一緒に付いてきていた妖精さんがなんか言ってる。
「スマホ、充電!」
うわ、日本語上手になってる。
宮之森さんにも聞こえてたっぽい。
「スマホ取ってきてくれる?」
「あ、はい!」
宮之森さんが隣りの部屋へ駆け込んで行く。
充電セット渡した方が良かったか?
まあいいや。
部屋に入るとケイトさんが待っていた。
宮之森さんと二人分、お茶の用意してもらえます?




