歌姫と吟遊母娘の師匠の座も譲ろう。
伯爵邸の玄関を出ると馬車が2台停っていた。
乗ってきた侯爵家の馬車は大型車並の幅とはいえ3人並んで座るにはキツいと思ってたが、一台増えてた。
馬車の横についた紋章が同じだから、新しい1台も侯爵家のものだろう。
護衛の人達が乗っていた馬車だろうか?
乗ってきた馬車に侯女ちゃんとメイドさんが乗る。
俺と宮之森さんはヒューさんに引っ張られて後ろの馬車。
最後に顔馴染みとなった護衛の女性が乗り込んできた。
妖精さんは全員こちら?
「*****」
乗り込んですぐに妖精さんたちが話し掛けてくる。
「歌と踊りはどうなっているのかと」
え? なに?
メリルちゃんがのんびりと聞いてくるが、宮之森さんが急に俺に掴みかかってきたのだ。
「どうしたの?」
なんか顔色が青くなってるんだけど。
馬車に酔った?わけないよね。
まだ走り出してないし。
「……なにか、幻聴が聞こえるんです」
キョロキョロと辺りを見回しながら宮之森さんが答える。
幻聴?
「もしかして、俺とヒューさん以外の日本語とかかな?」
「……はい」
宮之森さんは、妖精さんが見えない人だっけ。
「えっとね、この世界には妖精さんがいるの。見える人と見えない人がいるんだけど」
「……はあ」
「召喚された時も、逃げるようにアドバイスくれたよね?」
宮之森さんは混乱している。
「メリルちゃん、宮之森さんに見える様になれる?」
「よいですよ」
「ヒャッ!」
メリルちゃんがなにかしたのか、宮之森さんが声をあげた。
「なんかクレーンゲームの景品みたいなのが浮いてる!」
「二人見えるかな。右に浮いてるのが侯領で私の面倒をみてくれているメリルちゃん。左のが王都の日本語担当さん」
そういえば日本語担当さんの名前、知らないな。
「こんにちは、メリルです」
「あ、こんにちは。カエデです」
宮之森さんがメリルちゃんと挨拶を交している。
おっかなびっくりではあるが、落ち着いて顔色も良くなったようだ。
「王都の妖精さんが、宮之森さんが召喚されたときにアドバイスくれた妖精さん」
車内をぐるっと見渡すと、他の妖精さんは網棚に固まって俺達を見下ろしている。
「そこらの妖精さんも紹介できます?」
メリルちゃんに聞くと謎光線で網棚にたむろする妖精さんが謎光線で照らされた。
宮之森さんに妖精さんのことを色々教えていく。
「私には妖精が見えないんですね」
宮之森さんが、ちょっと寂しそうな顔で呟いた。
「私のまわりには見える人が配置されているけど、普通は見えないらしいよ。あと妖精も普通はほとんどいなくて、こんなに大勢いるのは異常事態らしい」
「*****」
「*****」
俺が宮之森さんに説明していると、網棚から妖精さんがやってきて俺の前で騒ぎ立てる。
ああ、歌と踊りね。
「えーと、宮之森さんはカラオケとかする人?」
「はい、それなりには」
という事で、妖精さんたちがポップス?に嵌っていて、新曲と出来れば振付とか踊りを教えて欲しい事を説明する。
スマホにアイドルのビデオとか歌が入ってない?
もちろん宮之森さんが歌って踊れるなら、それでもいいし。
「スマホは電池が切れてしまって」
「電池なら領舎に戻ればソーラー充電器があるから」
「本当ですか?」
宮之森さんはスマホが復活すると聞いて喜んでいる。
やはり写真とかを見たかったようだ。
曲もサブスク以外に保存しているのもあるらしい。
それに韓流?ジャニ系?グループ名をいわれてもわからんが、何曲かは歌って踊れるそう。
それを聞いて、妖精さんズが大変喜んでいる。
そうだ、歌姫と吟遊母娘の師匠の座も譲ろう。
あと、良かったら宮之森さんのスマホで妖精さん製の充電器、試してくれないかな。
いつのまにか馬車が出発していた。
なにげなく窓の外を見ていると、宮之森さんが言葉を漏らした。
「馬車ってもっと揺れるものだと思ってました」
宮之森さんの方を振り返ると、彼女は俺の方を見ている。
「馬車にね、サスペンションが付いてるの」
「え? サスペンションですか?」
「サスペンション。わかる?」
「わかります」
「馬車の足回りが、自動車とそんなに変らないんだよ」
宮之森さんがびっくりしている。
「ラノベに出て来るナーロッパよりずっと進んでる。トイレやお風呂も近代的だったでしょ?」
「……トイレは水洗?でした」
「ウォシュレットも付いてなかった?」
「え? ウォシュレット?」
宮之森さんは覚えがないの?
「伯爵邸も、トイレに水でおしりを洗う装置、付いてますよね?」
にこにことして俺たちの話を聞いていたヒューさんに確認すると、付いていると言う。
「丸い硝子ドームみたいのが壁になかった? それに魔法を流すと水がでるの」
「魔法!」
「宮之森さんは、魔法使えそうかな?」
メリルちゃんに確認してもらおう。
「トイレや天井灯を使うくらいには十分ですね」
「魔法、私にも使えるんですか?」
メリルちゃんの声が聞こえたのか、宮之森さんが嬉しそうな声をあげた。
王都の日本語担当さんも頷いてる。
「魔法、生活魔法くらいなら使えるらしいよ」
と言って気が付いた。
これって俺が教えないとダメじゃないか?
宮之森さんの嬉しそうな顔を見て、面倒臭いからヤダとは言い辛いな。
引き取った手前、鬱になって死なれても後味が悪いし、宮之森さんの元気がでて、こっちでの生活を頑張ろうと思うなら、少しは手伝うか。




