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演目は婚約破棄から始まるざまあ系令嬢物語

 歌姫と出会ったホールを過ぎて、ちょっと高級で落ち着いた雰囲気の区画を進む。

 領舍の前より少し狭めな広場に馬車が入った。

 ぐるりと広場を周り込み白い台座?の前に停る。

 馬車の扉が開くと正面に青く大きな円屋根をした黒光りする建物が白い台座の上に聳えている。

 この間歌姫が歌っていた箱よりも幅は広くて背が高い。

 厳かな雰囲気のある建物だ。

 そんな建物の前にヒューさんにエスコートされて馬車を降り、正面の大階段を登る。

 台座の上には黒く光る巨大なホール。

 正面玄関脇には大勢の人が並んでいる。

 しかしメイドさんがチケットを確認し、行列とは反対方向へ俺達を案内する。


「上級席を用意してくれた様です」


 ヒューさんが嬉しそうだ。

 上級席は入口から違うらしい。

 しかしこの建物。

 黒壁のくせにキラッキラだ。

 玄関口の前に立ち止まって、建物の壁を観察。

 黒水晶か黒曜石かもしれない。

 でもなんで光るかな。


「この壁材は黒い石英で、裏に細工があります」


 メリルちゃんが壁に手をあてて撫ぜている。


「黒い石英? 黒曜石かな。裏の細工とは?」

「裏に光が戻る板が貼ってあります」

「ああ、裏に反射板貼ってあるんだ。猫の目みたいな」

「ねこのめって、なんです?」


 俺とメリルちゃんが壁の前に立ち止まって話をしていると、ヒューさんが話に混ざってくる。


「猫っていう生物の目が夜に光る……」


 メイドさんに即されて、3人で話しながら扉をくぐる。

 建物に入ると更に階段。

 階段を上がると狭いホールがあり、外壁側にバーカウンター。

 内側には小振りな扉が並んでいる。

 窓はないが、照明が明るい。

 床はふかふかの臙脂色をした絨毯敷きで、壁は赤漆塗りかな?

 なんか高そうな絵画がかかっている。

 思わず足と会話が止る。


「これが今日のお話で、中央の男性と女性は主役です」


 隣りが来月公開の新作です。とヒューさんが教えてくれる。

 宣伝ポスターなんだ。


「コチラにドゾ」


 メイドさんが扉の上にある番号札を確認し、センター寄りにある扉の一つを開いて俺達を呼んでいる。

 扉の先は階段状に2列の長椅子が並んだ6人用の個室桟敷だった。

 個室の向こうには馬蹄型のホールが広がっている。

 前方の手摺りに身を乗り出し、ホールを見渡す。

 俺達が居るのは少し張り出した2階中央寄りの個室桟敷。

 3階と4階にはバルコニー席があり、その上にも天井桟敷がありそう。

 1階は広めの座席が700席くらいある大ホール。

 オペラ座とかスカラ座とかが確かこんな感じ。

 写真でしかみたことないけど。

 テンションあがる。

 正面に舞台。

 侯領からの途中で立ち寄ったエルフの森っぽい絵が刺繍された巨大な緞帳がかかっている。


 妖精さんズがふらふらと飛んで行こうとするので、舞台が始まる前には桟敷に戻るようメリルちゃんに言ってもらう。

 メリルちゃんは見て来ないでいいの?


「以前来たとき、音響効果を助言した者に案内して貰いました」


 2、300年前の話らしい。

 なんか出っ張った彫刻の多い内装だけど、そのひとつひとつが音響効果を計算したサイズや形状になってるそうだ。


「*****」


 ジャージ?っぽい衣装の妖精さんが前方から飛んできてメリルちゃんと挨拶を交す。


「*****」

「*****」

「*****」


 メリルちゃんに紹介されて、俺に挨拶をする妖精さん。


「このホール建設の際に音響効果を助言した者です」


 ちょうど今、話のでた妖精さん。

 侯爵領の音響担当さんの師匠筋らしい。

 メリルちゃんは音響さんと昔話に花を咲かせている。多分。

 ヒューさんはメイドさんの持って来たパンフレット?に目を通している。

 妖精さんズはホールを飛び廻り、ちょっとした騒ぎを巻き起こしている。

 俺はヒューさんと並んで前方の長倚子に座り、メイドさんが持って来たしゅわしゅわな飲み物を飮みながら、開演を待つとしよう。


 1階ホール席で人の移動が収まり、さほど待つ事もなく照明が暗くなった。

 先に戻っていたエマさんが合図すると、ウチの妖精さんズが桟敷に戻って来る。

 舞台の前方に控えた楽団?からチューニングの音がする。

 チューニングの音が止み、ホールから音が消え、緞帳がゆっくり開くと舞台の左手にイケメンと可愛らしい感じの女の子の二人。

 二人のやや後ろにはイケメンと同じ年頃のイケメンが4人。

 そして右手には、やはりこちらもイケメンと同じ年頃の、清楚でちょい地味目な令嬢。

 まわりではモブの若者が料理の盛られたテーブルを囲んで談笑している。

 貴族子女の夜会っぽい。

 そして音楽が……

 ん?

 なんか聞いたことのあるゲーム音楽じゃないかな?


「10年ほど前に異世界から来られた方が、発表した音楽ですね」


 王都の日本語妖精さんが手摺りに立って解説してくれる。


「*****」


 そして豪勢なホールに大声が響いた。

 センター左のイケメンが大仰な仕草で、向かい合った地味令嬢さんになにか怒鳴っている。


「結婚の約束を破棄するそうです」


 え?

 婚約破棄?

 どうやら婚約破棄から始まるざまあ系令嬢物語が歌劇仕立てで始まるらしい。

 どおりで8割がたが若い女性客なわけだ。



 終った。

 ストーリーはメリルちゃんの簡易解説によるものなので、正直よくわからなかったが、最終的にイケメンがお父さんに怒られて島送りになったみたい。

 イケメンの横で侍ってた可愛い女の子はさっさと逃げて、取り巻きのイケメン達が連帯で飛ばされちゃったようだ。

 そもそも婚約破棄された令嬢は、初っ端から“これで残念イケメンの面倒を見なくて済む”と万歳してるし。

 まあ3時間ものだから展開が早いのはしかたない。

 ストーリーはともかく、イケメンと令嬢を始めとする出演者の歌はとても素晴しいものだった。


 ヒューさんによると、ざまあ系令嬢物語は最近の召喚者由来とは関係なく、100年以上前から続く人気ジャンルだそう。

 有力貴族なんかにも、やらかしがちな跡継ぎへの教訓の一環として推薦されてるとか。

 今でも似たような実話は時々あるんだって。

 というか、今回の話はヒューさん世代で起きた某侯爵家の騒動がネタじゃないかと囁かれてるらしい。

 いやまあ、楽しめたからヨシ。

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