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生魚から寄生虫を追い出す呪い?

 机に用意されていたのは、見た目焼き魚定食のようだ。

 メインは白身魚の切り身を焼いたものの様だがちょっと生っぽい。

 スモークした白身魚を少し焙った感じか。

 それに小鉢が二品にリゾットと野菜スープ?

 エマさんが切り身を前にしてムムムと睨み付けていたが、ウムウムといった感じで頷き戻って来る。


「*****」

「ちいさき虫の処置も出来ているそうです」

「コチコチ冷すシマス。ムシ追い出す呪い?当てるシマス」


 メリルちゃんの説明に、ヒューさんが可笑しなジェスチャーを交えながら付け加える。

 この世界では寄生虫の概念もちゃんとしていて、冷凍処理や殺虫処理を行っているらしい。

 虫を追い出す呪いの魔法っていうのが気になるが、説明されても判らんし。

 食品照射みたいなものだろうか。


 朝御飯を食べたら直に出立するそうなので、さくっと済ませて、土産処を覗くこともなく馬車へと戻る。

 干物とか買ってもどうしようもないしな。

 ドライブインに入る時には気付かなかったが、ちょっとしたサービスエリアほどの広い駐車場一杯に馬車が止っている。

 俺達の載ってきた馬車のそばに、侯爵家の紋章を付けた幌馬車が数台停っていた。

 いったい何を積んでいるんだろう。

 侯女ちゃんとメイドちゃんにヒューさんの女性三人分の衣装にしても大過ぎだろ?

 フラフラと幌馬車に吸い寄せられる俺の横を侯女ちゃんがトトトと走り抜け、幌を少し開いて手招きする。

 幌を覗き込んだ先には、数日前に作ったクロスバイクとミニサイクルが3台ずつ。


「おお、自転車ですな」

「奥の布、気球デス」


 耳元からヒューさんの声。

 うを、ちょっと近いって。


 馬車へと移動しながら侯女ちゃんが説明してくれた所によると、幌馬車には都の知り合いや偉い人への贈答品が積んであって、自転車と気球それにポリ板なんかが目玉なのだそうだ。

 自転車と気球は侯家の工房が、ポリ布やポリ板なんかの材料作製には魔術学校の学生が動員されたとか。

 飛行船の製作なんかにも招集がかかっていて、停滞ぎみだった経済が沸き立っているらしい。

 大丈夫なんだろうか。

 ヒューさんは、「侯家に溜まりぎみの財が回りだした」と気楽に言うが。

 まあそれで景気が循環するというならいいか。


 警護の部隊が動き始め、続いて俺達の乘る馬車が動き出した。

 道をやや上りながらトンネルと切り通しを幾つか越ると、一気に視界が開ける。

 数年前にリフレッシュ休暇で行ったタンザニアのセレンゲティのような大草原のようだ。

 すぐ近くで、馬車を引いているのと同種だろう巨大サイの群れが、のんびりと草を食んでいる。

 通り抜けてきた山裾に沿って、大きな分かれ道が延びていた。


「あの先、侯爵領地の、商業、中心、ありマス」


 地平線の辺りに商都があるらしい。

 目立つ高い建物がないのでよくわからないが、たしかに壁らしきものが見えるきがするけど。

 でも地平線まで4キロあるっていうし、標準的な日本人には見えないよな?


「ほう、あれですカナ?」


 メリルちゃんが俺を見上げて指を差している。

 妖精さんたちには見えているようだ。


「あの谷のところデス」


 といわれても。

 かなたに聳える山脈に谷間があるらしいのだが、全然わかんないよ。

 草原の中程で黒い牛みたいなのが沢山、巨大サイの間で草を食んでいるのは判る。

 これは野生なのか、牧畜してるのか?



 メイドさんが用意していた単眼鏡で草原の動物観察をしていると、馬車の進む方角からかすかにブモーという鳴き声が聞こえてくる。

 窓から顔をだして単眼鏡を向けると、道の先で巨大サイが集まっている。

 後ろの席でだらけていた妖精さんたちが一斉に集ってきて、俺の肩や頭に把まって一緒に覗き込むのだが、髪が引っ張られて地味に痛い。

 ハゲるといけないから、髪を引っ張るのはヤメて。

 巨サイの向こうに見える小さな塔は、5階建てくらいか。


「トイレ、行く、しますか?」


 巨サイの集団に近付くとヒューさんが聞いてきた。

 ここでトイレ休憩がてら牽引の巨サイを付け替えるらしい。

 馬車が停ると自ら扉を開けてヒューさんが飛び降り、俺を手招きする。

 扉から顔を出すと、そこは塔の足元に建つドライブイン。

 ドライブインの入口を、侯女ちゃんとメイドちゃんがトテトテと走り込んでいく。

 ヒューさんに急かされ俺もドライブインへと早足で入る。

 ああ、もしかしてトイレの順番待ちか?

 とはいえそこは格差社会。

 貴族さま用には別にVIP用トイレが奥にあるようだ。

 イケメンボーイに案内されて、並ぶことなく2階のVIP用トイレへ。


 トイレから戻り、2階テラスのソファーに座って待っていると、おしゃべりしながら三人が戻って来た。


「塔、登る、します。商い都、見る、できます」


 5階まで登るの? 歩いてだよね?

 と思ったものの、侯女ちゃんとメイドちゃんはすでに階段を登っていってしまった。

 ヒューさんに先に行くよう勧めて、俺は後からゆっくりと階段を登っていく。


 ようやく階段を登りきると、そこは展望台で、つまり6階まで歩いて登ったことになる。

 正直しんどい。

 三人は辺に埋め込む様に設えられた半円形のソファーに座って草原を眺めている。

 へばりながらソファーへと歩いていくと、すぐにヒューさんが気が付き俺を席の奥へと押し込んだ。

 ソファーの先には手摺りがあるが、腰程までしかなく結構こわい。


「*****」

「*****」

「*****」


 手摺りの根本でテラスの裏側を覗き込んでいた妖精さんたちが何か嬉しそうに騒いでいる。


「このテラス、ソファーの分、張り出していますネ」


 あまり知りたい情報ではなかった。

 ソファーが埋め込みになってる時点で察してはいたが。

 辺際でソファーの前に立ち、手摺りに手をかけて草原を眺める。

 単眼鏡持って来ればよかったな、と思っていたら、給仕さんが単眼鏡とソフトクリーム?を持って来た。


「牧場、とれたての、うまうま、冷いクリームです」


 旅行ガイドブックでお薦めの牧場ソフトらしい。

 三人が食べ始めるので、当然俺も席に戻って頂く。

 ソフトクリーム4人分の他に、テーブルの上に置かれたお皿にクリームが載ってるけど?


「妖精さんも、どうぞ」


 給仕さんの言葉に、メリルちゃん、エマさん始めとする妖精さんたちがクリームに突撃。

 手で掬って食べている。

 あっという間に皆なクリーム塗れ。パイ投げ終ったお笑いタレントみたい。

 そのクリーム塗れで俺に集るんじゃないよ。

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